小説『常識知らずの『男執事』は『女羊』になりました。』
作者:嶋垣テルヤ()

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 可笑しいと思っていたのは俺だけじゃない。家内の皆は同じ意見を持っている。
 俺の目の前でかなり萌える少女がぴょこぴょこと跳ねていて普通に話しかけてくる。
「星葉様? 学校行きますよー。……あれ、聞こえませんか? 学校……」
「行くよ! 分かってるよ!」
 朝は大体こんな感じで始まる。執事なのに。対応がメンド臭い。日本語可笑しいけど。
 事の始まりはいつからだったか。思い返せば先週だったな…


 「星葉様、起きてください! 緊急事態です!」
「……んだぁ、中岡か? 殺人事件でもあったか」
 この日は中岡という家来の怒鳴り声で目覚めた。
 俺は重たい体を持ち上げて右手の人差し指で目を擦りながら中岡の後を追いかけた。
 着いたのは講堂で、ドアの目の前で、
「私は申し分け御座いませんがここから先は入れないんです。ですから星葉様一人でお願いします」
 中岡は深くお辞儀をしてドアを開けた。
 すると何があったか。少女が一人ぽつんと立っていたではないか。しかも誰だこいつ。
「……あの、どちら様……ぐふぅ」
 思いっきり抱き着かれた。しかも苦しい。初対面で抱き着くとかないだろ。
「ボクです! 館山蒼です! 分かりませんか!? 征夷大将軍!」
 誰が征夷大将軍だ。藤原道長じゃない限り違うからな。しかし今こいつ蒼って……
「ちゃんと見てください! 髪と胸があるだけであと他はちゃんとボクですよ! 百姓!」
 身分下がった。滅茶苦茶下がったよ俺。どんだけだよ。あと気づいていないようだけど、
「耳あるよ」
 そう、丸っこい耳がある。羊みたいな。それを言うと、蒼は目をまん丸くさせ頭をそっと撫でた。次の瞬間。
 今までにないぐらいの力で俺を抱き締める。てか本当マジこいつ誰? 俺の知ってる蒼は男だ。俺の専属執事やってる蒼?
「星葉様、信じてくださいよぉ……」
 言うが早いか蒼は目をうるうるさせた。意外とキュンときてしまった自分が悔しい。
「本当に蒼なのか?」
「はぃ。ボクです。朝起きたらこんな姿に……うぅ」
 今度は本当に泣き出してしまった。仕方ないから信じてあげよう。
「んじゃぁテストな。本当に蒼だったらこれ答えられるはずだからな。俺の趣味はなんでしょう」
「女の子、特に次元の違う子たちを見てウハウハすることです」
 虚しく大正解なんだが。しかも健全な男子にこのシチュエーションは厳しすぎる!
 まず上目使い。これアウト。さらに無駄に豊かな胸があたっている。……て何俺考えてるんだ!
「これで信じてくれますよね?」
「あぁ、信じるよ。お前もう女羊だな。よろしく」
 意味の分からない語尾に不安を感じたのか、俺は握手の手を差し伸べたのだが手を出す気配もなかった。
「はい、これからは女ですけど宜しくお願いします!」
 蒼はニコッと笑い手を差し出した。
 

 よくわからないが、これが事の始まりだ。非現実的すぎるにもほどがある。   


 「ボク星葉様と一緒に学校行けて嬉しいです♪」
 俺の専属執事、蒼が『女羊』になって1週間が経った。
 よくわからないが中岡の命令で、俺の付き添いをすることになった。正直いらない。
「いいか、約束のお浚いだぞ。まず一人称は『ボク』、じゃなくて『私』な。それと俺の事は『星葉様』って呼ぶな。せめて『星葉君』な。あとは耳出すなよ。出したらバレるからな。これを守って規則正しい学園生活を送りましょう」
「はーい、先生」
 最後口調が先生ぽくなったのは俺の気分だ。こいつ約束守ってくれるかな……

 通学路はあっという間、校門の前に来た。

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