小説『常識知らずの『男執事』は『女羊』になりました。』
作者:嶋垣テルヤ()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

 


 制服の手配は完璧だ。もう見た目は絶対女子高生になっている。
 しかしいざとなると気が重い。俺は心配で仕方がなかった。
「おはよう」
 俺は後ろのドアから教室へ入り、自分の席に着く。蒼は職員室で転入届を書いている。
「星葉、おはよう。今日は随分気が重そうだけど大丈夫?」
 第一に俺に話しかけてきたのは幼馴染の乙姫ひかげ。唯一俺の身分を知っている。顔は普通に可愛いと思う。
「そういえば9組の田中君が美少女が転校してくる、って騒いでたわよ。うちのクラスだったら最高に捻潰そうかしら」
 顔は笑顔だが言っている言葉が怖い。しかももう噂になってるんだ。早いな。
「まぁ、いいんじゃね。お前が嫌いなのはリア充だろ。リア充じゃなかったら失礼だぞ」
「……ええ、そうね。悪かったわね。じゃあHR始まるから失礼するわ」
 「失礼するわ」、とか言っても席前ですけどね。何言ってるんでしょうこの人は。
 担任が教室に入ってくる。そして、お決まりの台詞を吐く。
「今日は転校生を紹介するぞー」
 いや、よくある少女漫画は超美少年が転校してきて、ヒロインの隣の席になるのが大体だが、これもまさにそれである。昨日まで隣に人居たのに居ないなんてどんな軌跡だよ。
「入ってこi……」
 最後一文字言えなかったな。可哀想に。勢いよくドアが開き蒼が入ってきた。
「館山蒼です♪ えーと、何だっけ?」
 忘れるな。正直それだけでいいけどな。自己紹介。
 俺みたいな奴らというか、男子はほぼメロメロである。正体知らないうちは普通かもしれないがな。
「せんせーい、星葉の隣空いてまーす」
 乙姫ふざけんな。ニヤニヤすんな。やめろ、蒼の隣は無理だ。マジ無理だ。勘弁してくれ。
「んじゃあ神宮の隣で。はい、いってらしゃい」
 小学一年生を送る母親か。担任までふざけやがって。殺s……
「星葉さん、よろしくお願いしますっ」
 ビックリするだろ。というかお前それ演技だろ。いや、こいつ俺のこと気遣ってくれてるのか? よく分からないな、こいつの事は……
 

 あっという間に昼休み。

 
 「星葉征夷大将軍様、あれどうしますか? 放課後生徒会室行くとかって話」
 そうだったな。ほかにも大変なことあった。なんかもっと規則教えなくちゃいけないので、放課後生徒会室に行けといってたな。だりぃ、よりよって生徒会室かよ〜。征夷大将軍はもういいよ〜。
「行くよ。うん、行くね。行こう」
 春の暖かい陽気のお蔭で、睡魔が襲っていた俺の思考が完全に狂っている。「行く」を連呼しすぎた。蒼は「?」という顔をしている。
 俺はよくわからないが、蒼の頭を軽く撫でた。最初はきょとんとしていたが、後々満面の笑みを向けた。
 今のところ約束は守ってくれてるし、まあ頑張ったなということで撫でてやった。別にそういう意味で撫でたわけじゃない。マジ。
「館山さん。……よかった、話せた。初めまして、乙姫ひかげです。よろしくね」
 乙姫か。ダメだ。よくないぞこの瞬間は。男が女(?)の頭を撫でている。しかもちょっとロリ少女を。
まさに変態のなす行動ではないか。しかもひかげだからもっとヤバいぞ。
「……星葉、あなたって人はとうとう性欲に耐えきれなくなってついに行動に出してしまったのね。そのまま懐いたらこの子とあんなことやこんなことしたいと……ニジヲタこじらせすぎよ!」
「誰があんなことやこんなことしたいって言ったんだ! お前の妄想力のたくましさにこっちが恐怖を抱くわ!」
 俺って周りの本当恵まれてないよな。なんか悔しい……
「ひかげさん、星葉さん、落ち着いてください。星葉さんは変態だけど現実ではそんなことしませんよ! パソコンの中だけです!」
 俺のフォローかな。ありがとう、でもイラナイネ。必要ないかな。どっちの見方だよ、蒼君。
「な……っふ、仕方ないわね、今回はたまたまよ! 負けを認めてあげるわよ。次は負けないからね!」
 顔が認めてないわよ、ひかげさん。なんか怒り狂ったヒグマみたいな顔してる。……ほら、蒼がビビってるではないか。泣くぞ。俺も泣くぞ。
「ひかげさん、顔と言ってることが違いますね。まるで怒り狂ったヒグマみたいです。と、星葉さんが言ってました。聞こえましたか?」
 何? 俺が言ってだと……? え、マジで声に出してたら俺100%殺されますよね。あ、死ぬ……


 このあと、大きな一発を食らったのは言うまでもない話である。


 「ここが生徒会室ですかー。思ってたより普通ですね」
 素直に感想を言う蒼。聞こえてたら俺みたいになるぞ。
 あの後乙姫から有難いことに落としだまを頂き、後頭部にいい感じにたんこぶができている状態である。
「星葉さん、入りましょう。ほら、早く早く」
 蒼は元気にドアを開け、中へ入った。もちろん俺も。その瞬間。
 
 パンパンパーン
 
 クラッカーの鳴る音が大いに響いた。正面には大きな看板に『1年6組 館山蒼さん、ようこそ』と大きく書かれていた。
「ようこそ、我らが私立誠蘭学園高等部へ! 私は生徒会・会計の2年13組、真城唄海でーす☆ 『館山蒼さん歓迎会』
の司会を務めさせていただきます!」
 随分派手にやってくれたことだな、と感心する。わざわざ蒼のために。蒼は幼い子供のように目を輝かせていた。
「では、まず生徒会メンバーの紹介です!」
 真城先輩の一言で自己紹介が始まった。
「誠凛学園高等部生徒会・生徒会長の3年2組、華巳撫子です。蒼ちゃん、よろしくね」
「生徒会・副会長、卯月土筆です。クラスは3年8組。宜しくお願いします」
 なんか今のところ花の名前で来てるな。卯月先輩は実に春に生まれました、って感じがするな。
「書記の鳥飼すずめだ。いいか、この雌豚雄犬へっとこ野郎は私のためになひれ伏せ! そして跪け! 罵られろ!」
 雌か雄かよくわかりませんが……なんか性格きつそうだな。てか今の時代にこういう人いるんだな。
「庶務の猫箱壱加ね。ごめん、すずめ興奮してるみたいで。あ、ちなみにクラスは俺が2年10組で、すずめは2年15組な。ホントごめん」
 みんな先輩なんだな。なんか居るのが恥ずかしくなってきた。
 そう思っている隙に猫箱先輩が蒼に抱き着いた。なんか似たような光景を前も見た感じがするが……錯覚か?
「え、ちょ、猫箱先輩!? 急にどうしました!?」
 流石に蒼も動揺したようで、顔を真っ赤に紅潮させている。
「なんか君可愛いなー、って思ってさ〜。んーなんかさ、羊っぽいよね!」 
 指をパチンと鳴らしそんなことをいう。バレたか? 俺も蒼もそう思った。
「俺名前のとーり猫っぽいっていわれてさ。なんか動物みたいな人のやつで仲間だね♪」
 意味わからん。取りあえず勝手に仲間意識を持った、ってことでいいのかな。不思議な人だな。
「あとさ、やっぱ君の事恋愛対象で好きだなっ。一目惚れってやつ?」
 何……? まさかモテるのは予想してたけど告るとは……予想外だぞ。
 てか上手くいくとゲイを通り越してこれじゃホモだぞ。家帰ったら絶対言ってきそうだな、蒼。
 

 抱き締められてるときの蒼の顔は瀕死状態だった。いや、確実に死んでいた。


-2-
Copyright ©嶋垣テルヤ All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える