小説『リストラ』
作者:ドリーム(ドリーム王国)

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 新宿の繁華街から少し外れた路地裏を、中年の男が酒に酔ったのかフラフラと薄暗くなった
道をゴミ箱に当たってよろけた。 
 ネクタイは曲がってワイシャツも背広もヨレヨレだ。
 そんな所へ獲物を狙った街の、狼の群れが見逃しわけがない。
 「おっさん大丈夫か。ヘッヘヘ家族が待っているだろう。さぁ送ってやるぜ」
 何処から見ても真面目な若者には見えない。4人の連中に囲まれた。
 「なっなんだ。おまえら! 俺の気持ちが分かってたまるか。あっちへ行け!」
 「オイオイ、おっさん親切に言ってるのに、それはないだろう」

 中年の男は、あっと云う間に若者達に袋叩きにされてサイフを奪われてしまった。
 「チキショー!! どいつもこいつも俺をゴミ扱いにしやがる。俺がなんでリストラなんだ一体、
俺のどこが悪いって言うんだ。チキショーこうなったら皆ぶっ殺してやる」
 だが周りにはもう誰も居ない。負け犬の哀れな遠吠えが虚しく路地裏に響くだけだった。
 大学時代はラグビーをやっていた。体力には自信があったから一人や二人なら負けはしない。
 だが今はそんな気力もない。精神的に心はズタズタで殴られた方が余程、楽だ。 心の傷よりは……。
 真田博之は会社から突然リストラ勧告を言い渡された帰りだった。

 家族になんと言えば良いのか、会わす顔もなく絶望の中にいたのだ。
 そうなって来ると、やる事は決まっている。
 屋台で焼き鳥を口に銜えて、安い焼酎をプラスチックにヒビの入ったコップで、水のようにガブカブと
飲む事が少しでも現実から逃避出来る。

 絡まれたのはその後の事だった。
 路地裏にある店のゴミ箱や空のビールケースに足を引っ掛けて何度も転びながら、泥酔状態で歩いて
いる所を襲われたのだ。
 まだツキがあると云えば、屋台で飲んだ代金を払った後だ。飲めただけマシと言うもの。
 もし金も無いのに飲んでいたら、無銭飲食で警察に突き出される処だった。

 金は財布から抜き取られ1万円札三枚と千円札四枚だ。
 だが真田は取られた金額はそれほど惜しくない。
 リストラされた心の傷がそうさせたのか。少し自棄になっているからだろうか。
 幸い財布に入れてあった定期券と運転免許証は無事のようだ。
 奴等だって足が付く物は持って行かない、中身の札だけで充分だったろう。
 殴られはしたが顔が少し腫れる程度、リストラのショックに比べたら大した事はない。
 殴られて金を取られてもいい、今は何もかも忘れてしまいたかったのだ。
 真田は今月で丁度50歳になった。
 全国的に不景気で、正社員でもウカウカしては居られないのは分かったいた。
 だがまさか自分に白羽の矢が立つとは思わなかっただろう。

つづく

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