小説『リストラ』
作者:ドリーム(ドリーム王国)

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 今の会社には大学を卒業してすぐ入った。世界でもその名は有名な自動車会社だ。
 本当は営業をやりたかったのだが、大学時代は簿記に力を入れていた。
 経理学が得意だった為に、すんなりと経理課に配属、後に総務課へ移った。
二年前に課長補佐となって現在に至る。大会社にしては40歳後半では、まぁ悪い方じゃない。
 だから真田は、自分は会社に必要な人材であると思っていた矢先の事だった。

 今日の午後の事、人事部長から呼ばれて実は……と始まった。
 真田はみるみる顔が青ざめ、部長があとから細々と言っていたが、もう耳に入らない。
 どう部長が気使いを見せても退職は免れないのだ。
 その日の退社時間まで、まったく仕事が手に付かなかった。
部下達も真田の様子を見て気づいたのだろう。
腫れ物に触るのを避けるように誰も声を掛けなかった。

 自宅は職場である新宿から埼京線に乗ると20分で埼玉県に入る。
そこから10分ほどで自宅に近い駅だ。そこから歩いて15分程度の所に家がある。
時刻はもう夜中の11時過ぎ。
 真田は電車から降りた。だが家族に合わせる顔がない。
家には妻と高校二年生の娘と大学2年生の息子、それにラッキーと云う柴犬が待っているはずだ。

 玄関を開ければ、まず妻が出迎え、続いて娘が「おつかれ様」と笑顔で労を労ってくれるのが通常だ。
だが背広もシャツも汚れて酒臭く、おまけに顔が腫れている。
 開口一番「あなた!? 一体どうしたの?」と言われるに決まっている。
 「ちょっと若者に絡まれて金を取られただけだよ」それだけなら笑って終ることだ。
 
 だが今回は明らかに違う。その後に続く言葉を言い出せないだろう。
 家はローンがたっぷり残っている。
子供達は高校生と大学生。この学費とローンはどうすれば良いのだ。
 これからの生活だってある。今の真田にはどうする事も出来ない。
 「なぁに新しい仕事を探すから心配するなと」そう言える訳がない。
 まったく働くあてがない。ましや50歳では聞こえが悪い。
そんな事を考えると家路に足を向けられなかった。

つづく

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