小説『Butterfly Dance Night -完』
作者:こめ(からふるわーるど)

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 プロローグ


「ここ数カ月に及んで立て続けに起こっている失踪事件。政府は、警察・士官や士官候補生を総動員して毎日捜索にあたっている模様です。……事件は街の付近から遠い地の街にまで起こっており、現場を念入りに捜索すると共に付近の住人から話を聞いているようです。ここで人々の意見を聞いてみましょう。」

 街の住民の話。
「もうね、失踪事件っていったら不安で仕方ないわよ!安心して寝れないじゃない!」

 とある学校の教員の話。
「子供達にも影響が出ますよねぇ。今は学校の方針として集団下校をさせています。なんせ我が校は子供達の安全を第一に考えていましてねぇ。ああ、知ってます?我が校の子供達はスポーツでも勉強でも全国で(話がそれたので省略)」

 捜索にあたっているとある士官の話。
「我々は決してたるんでいるわけではありません。手掛かりがなく、捜索が難航しておりますが……必ず解決します!」

「このようなコメントをいただいております。次に当番組によせられたハガキを読ませていただきます……」
 そこでラジオの電源をプツリと切った。最近はこのようなニュースや特別番組が目立つ。嫌な世の中だ。不安だけれど自分は大丈夫。そう自分に言い聞かせて外に出た。

 一人の女性が夜の道を歩いている。
 これから捜索の現場に行くのだが、そう思っているだけなのかわからないが不気味な夜だと毎日思う。月がぼやけていて、なんとなく不気味だと思うのだ。その不気味な夜の下を歩きながら、そういえば昔「不気味な夜は何かが起こりやすいのよ」と友達が言っていたことを思い出した。そんなことを今思い出すなんて嫌だなと、その記憶を振り払うように頭を振った。
 本当に嫌な世の中だ。
 そう、また思う。失踪事件が発生したのは結構最近のことではないかと思う。失踪事件が増加してきた頃に、自分は今まで居心地が良いと思っていた世の中を見る目を変えてしまった。色で例えるなら黒で、音で例えるなら低音でゆっくりと弾かれるバイオリンのようなかんじだ。
 そんなことを考えながら捜索現場へ歩いて向かう。そこで先ほどの友達の言葉ではないが、不気味な夜に本当に何かが起こるなんて思っていなかった。

「あんたなんなのよ……!」
 誰もいない夜の街外れ。そこでは一人の女性が一人の黒いフードをかぶり、同じ黒いマントをはおった人物と対峙していた。女性の手には攻撃用のナイフが握られており、黒いマントの人物の顔を睨んでいた。
 一方、睨まれている人物の顔は仮面で覆われていて、表情は伺えないでいる。無機質、といったほうが正しいのだろうか。そんな表情が全くうかがえないでいる人物を相手にするのは少々ではなく、ものすごく恐ろしいことだと感じた。顔には出さないが心は不安でしかたなく、腰が抜け気味になっているが、女性はその正体不明の人物にナイフを向けた。
「この街の平和を乱すのなら、容赦しないわよ」
 だって私、この街の新人士官だもの。
 自分を奮い立たせるために言った言葉だ。こんな言葉の一つや二つを言わねば、攻撃どころか相手が攻撃してきたときの防御もできない。何より、今までの戦闘は先輩がサポートしてくれたが今は一人だ。どう対処すればいいのかわからない。女性は攻撃態勢に入った。相手の人物はナイフを突き付けられても何か言葉を発することはしなかった。
「とりあえず、怪しいあんたは事情聴取ね」
 女性がじりじりと距離を詰めて相手との距離を縮める。この怪しい人物は捕まえておいたほうが無難だと思い、攻撃の態勢に入った。
「……っ!」
 女性が距離を詰めようと思ったその時だ。黒いマントの人物が手を軽く掲げた。次の瞬間には金色のバトンのような細長い繊細な武器を持っていた。そのバトンを素早く女性に突きつける。繊細で簡素な装飾が施されているバトンなのだが、そのバトンの雰囲気や出した相手から醸し出されている空気が一気に張り詰めて……女性は怖いと思ったのだ。相手はそのバトンを振りあげる。女性は殴られると思い、頭を守るようにナイフを振った。だが次の瞬間、女性に強い電撃が襲い、声にならない悲鳴を上げた。
 バチバチ、と電気の光が夜の闇の中にくっきりと見える。電撃を浴びている女性は全く動けないでおり、マントの人物は仮面のまま頷くと、バトンを今度は横に振った。
「……ごめんなさい」
 電撃が収まったと思うと、女性の姿はない。それを確認して、黒いマントの人物は仮面のままぽつり、とそうこぼしたのだった。
 新人士官のカルサイトという女性はいなくなった。
 月明かりが照らす、夜の日の出来事だった。

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