小説『Butterfly Dance Night -完』
作者:こめ(からふるわーるど)

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「…………?」
 現場近く。もう人々は寝静まっているという時間なのに、唯一明かりがついている建物があった。明かりはオレンジ色の優しい光を灯すランプで、それを置いている建物には二人の青年がいた。
 ランプの明かりで顔が明らかになる。銀色の髪の毛に緑の帽子をかぶった精悍な顔の青年は、建物の窓から少しだけ身を乗り出した。その時に少しだけ鋭い風が顔にあたったので一番印象に残る顔を横断するようにできている傷に触れた。
「どうしたの、ヴィオラ?今日は傷が疼く?」
 傷に触れるその仕草に、座っていたテーブルの向かいにいた青年が不思議そうに問う。わざと癖をつけたのだろう。はねている、若者らしい髪形の金髪が風でふわりと踊った。
ヴィオラ、と呼ばれた青年は「何か聞こえたような気がした」と言った。
「コーベライトは何か聞こえたか?」
「いや、何も」
 首を傾げるのはコーベライトと呼ばれた青年だった。この二人の青年は名前で呼び合っているので仲が良いのだろう。だが、真夜中にランプを持ち、周囲を警戒するようにごそごそと何をやっているのかが不思議に思われた。ヴィオラはコーベライトに「何か、聞こえた気がしたんだ」と言う。コーベライトはまた首を傾げて「空耳じゃない?」と言う。
「ヴィオラ!今日の分早くしておかないと、怒られるよ!」
 そうコーベライトは言って、建物の中にある部屋の奥へと引っ込んだ。
「でも、たしかに聞こえたんだ……」
 ヴィオラはそう呟くも、コーベライトを手伝うために部屋の奥に行く。その部屋には大きなガラスケースがたくさんあり、その中身には普通では考えられないものが入っていた。
「さーて、今日はこの卵がエネルギーを欲しがってますねー」
 芝居のかかった口調でコーベライトは笑顔で言う。ヴィオラも隣に来てそのガラスケースの中身をチェックする。
 そのケースの中には卵が入っていた。食用の鶏の卵とは比べ物にならない、両手で抱えるほどの大きな卵。その卵をじっと見つめ、コーベライトはそうしているようにヴィオラも別のケースに手をかざす。そのかざした手のひらからは淡い優しい光が出、卵を優しく包む。
 真剣な表情でその作業を行っている彼らは数分後には額に脂汗が浮いており、さらに数分後に手のひらから出る光を弱めると卵を包んでいた光が光ることをやめた。
「エネルギーの注入が必要な卵はこれで最後……だな」
 ふぅ、と息をついてヴィオラはそばにあったタオルで顔を拭く。先ほどの作業がきつかったのか、彼の息は少々荒い。コーベライトはそんなヴィオラを見ながら巨大な卵をチェックし「ほどほどにね。無理はだめだよ」と言う。
「そうだな」
 その言葉には苦笑するしかなかった。ヴィオラは顔を拭いたタオルを首にかける。自身も先ほど光で包んだ卵の状態をチェックし、部屋全体を見回した。
 ヴィオラとコーベライトがいる建物は外から見ると平屋なのだが、実は窓から見えない位置、つまり地面を半分掘った半分地上、半分地下にある場所に部屋がある。そんな設計の建物には、窓からは上手く伺えないがたくさんのガラスケースに入った卵があった。
 博物館と間違えるような部屋。ガラスケースに入った卵は抱えるほど大きいものもあるが、食卓で見かけるような小さな卵もあり、色も形も様々な卵がずらりと並んでいた。他の人がこの光景を見たら、良く集めたな、と感じるだろう。
「んじゃあ、今日はこれで作業終了……かな?」
 コーベライトは先ほどのヴィオラと同じくタオルで汗を拭い、入口にあった鞄を手に取った。
 鞄に手が触れる瞬間、鞄を掴もうとする体制で彼は止まった。コーベライトの眉間にはしわがよっている。同じく部屋の中央にいるヴィオラも、警戒するように窓と入口を見た。
「……見られてる?」
「やっぱりそう思うか?」
 小声で言葉を交わす二人。外はもう真っ暗で、この建物以外に明かりがついている建物がないので必然とこの建物に目が行く。だが今二人が感じているものはそれとは全く別物だった。
 風がざぁ……と、強まる。その音がだんだん不安にさせ、ふと真っ暗でなにもわからないような外の景色の中になにかが動いた。人の形をしているそれは、バトンのようなものを持ってつかつかと歩く。明らかにこちらへ向かっているようで、その人物は黒いフードをかぶって黒いマントをはおっていた。建物から数メートル先で足を止め、バトンの先を建物に向ける。
 その人物が持っていたバトンの先はバチバチと電撃がまとわりつき、この建物を狙っているようだった。

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