小説『Butterfly Dance Night -完』
作者:こめ(からふるわーるど)

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「でも、ソラ先輩はいつ頃から卵の世話をするようになったんですか?」
 いつもヴィオラ達がやっているように、ソラは卵に手をかざして卵にエネルギーを分ける。ゆっくりゆっくり、いきなり大きなエネルギーを与えては卵が壊れてしまう……そこに気を配りながら、ソラはエネルギーを卵に分けてあげるのだった。
「うーん。三年生になったときからかなあ。いつか忘れちゃったんだけど、先生に頼まれたんだよ」
「それで、引き受けたんですね」
「そういうことになるね〜」
 ソラは卵をじっと見ながら嬉しそうに答える。そしてふいに口を開き「この卵には伝承があるんだよ。それは教科書とかにもある有名な話だから、知っていると思うんだけど……」と二人に目を向けた。
「はい、知っています。卵から生まれる翼の種……その種を生まれたての赤子に適応するものをつけるんですよね」
「うん。そうだね。そして今僕達も翼をいつでも生やすことができるようね。それは日常でも戦場でも、とても役に立つことだね」
「そうですね」
 卵を見、ソラは少し卵の表面に触れる。卵はソラが触れたところから水色に光った。ソラはその卵に触れながら独り言のように言う。
「あのね。僕は最初こんなところに教科書にも歴史書にも載っている、翼の種が入っている卵があるなんて知らなかったんだよ」
 撫でるように表面に触れていたソラは手を離した。さっきまで光っていた水色の光は、なにかをねだるように光っていたがやがて大人しくなった。
「ソラ先輩がこの卵を見つけたっていうか、見たきっかけみたいなものってなにかあるんですか?」
 ふと気になったことをコーベライトは聞いた。その問いにソラは少しだけ唸って「さっき僕が触れたときに光った光、見たよね?」と卵を見ながら言った。
「見ました。水色の光でした」
「僕の力のエネルギーと波動と、この卵の波動が似ているらしいんだ。だから学校側からこっそり頼まれたんだよ。あとは……卵が、さっきのヴィオラ君とコーベライト君が来たときに嬉しそうに光ったよね?それと同じ現象があったから、らしいんだ。だから今こうして世話をする機会をもらっているんだ」
 世話って言っても、毎日見に来たりさっきみたいに卵に触れてあげてることしかないけれどね。
そう言って笑い、膝をついている体制から立ちあがる。
「学校側から頼まれたんですか……すごいですね。大変なんじゃないですか?」
 ヴィオラは自分の経験から、つい「大変」という言葉を出てしまった。はっとなって口をおさえる。ちょっと変な質問だっただろうかと心配して思っていると、ソラはにこにことヴィオラを見ていた。
「大変……そうだね。大変かもしれないね。この卵は教科書にも載っている、僕達空の大陸の人間には欠かせないものだからね……」
 目を伏せる。ソラのその表情がどこか寂しげで、どうしたんだろうと二人は思った。だが次の瞬間に厳しい表情になり、ソラは分厚いガラスの天井を見上げた。
「どうしたんですか?」
 ソラの空気が変わったので、少し驚いたもののヴィオラとコーベライトも上を見る。校舎の天井はガラス張りなので外が見える。今見えているものは月と星だ。今夜は晴天で星がキラキラと散るように光っているのがわかる。
 その中でソラはいち早く異常を見つけた。
「誰……?」
 ソラは目を凝らして見る。月がのぼる空は一見普通なのだが……ほんの一部だけに星が全くない場所があった。他の場所は星がたくさん散っている。しかもそれを遮る樹木や屋根、建物はないのだ。星が全くない場所は大きな蝶が羽を広げた状態の形をしていた。中心には人の影らしいものも星の光を遮ぎっている。間違いなく、この大陸の人間の影。
 三人が影に注目していると、その影が黒い光を放って揺らめくように動いた。
「危ない!伏せて!」
 ソラが大声を出す。三人は同時に地面に伏せた。それと天井のガラスが大きな音と共に割れる瞬間が同時に起こった。
 天井からガラスの破片がばらばらと降ってくる。天井のガラスは分厚いので破片も分厚い。当たったら大怪我をしてしまうことを感じたヴィオラは、近くにいるソラとコーベライトも護るようにしてシールドを作る。そんな分厚いガラスを割った襲撃者。この分厚いガラスを壊せるほどの力の持ち主とは一体?
 そのような思考がヴィオラの中でぐるぐると渦巻く。いきなりの出来事で少々びっくりしているが、落ち着け、と自分に言い聞かせる。シールドをはっているので破片は全部シールドが受け止めてくれている。三人は少し頭を上げて上を見た。
 分厚いガラスの割れる音は鈍い。鈍かったのだが、パァン!と破裂するような音もあったので、ガラスに力のエネルギーを込めて爆発させたのだなと分析した。
 ガラスが校舎内に落ちてくる。ある破片は植物のすぐそばに落ち、ある破片はヴィオラ達のすぐ傍に落ちて来た。破片の落ちる音がだんだん止んだと思い、立ちあがる。先ほど三人が見つめていた影が動き、校舎の天井の枠にその影は座った。
「さすが士官子補正ねぇ。今の行動よかったわよぉ」
 天井に一個しかない電気は壊されてしまったが、校舎の壁に付いている電気が影の正体をうつしだす。そこには一人の黒いドレスをまとった女。背中には機械の、漆黒の翼を生やしており、手には大鎌が握られていた。一体誰だろうとヴィオラとコーベライトは思っていたが、そんな女を見てソラは立ちあがって言った。
「お前は……!」
「あら、キミあたしのこと知っているのぅ?」
 女は楽しそうに笑った。ソラは女に届くように大きな声で「知っているも何も!」と叫んだ。
「お前は、今日学校の屋上にいた奴……。賞金首の女だな?たしか名前はシルエット!」

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