小説『Butterfly Dance Night -完』
作者:こめ(からふるわーるど)

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「そう……。貴方達は今、攻撃部門の二年生なんだね。それで銀髪の貴方がヴィオラ君で、金髪の貴方がコーベライト君……で、あっているよね?」
 ソラはふわりと笑った。ヴィオラ達が来て名を名乗り「やっぱり怪しく思われるよね」とソラは大きなホールのような校舎の電気をつけた。今までランプの明かりだけで暗めだった視界が、一気に明るくなる。
「ソラ先輩……あの、すみません。何か重要なことをしていたのではないですか?俺達が入ってきてもよかったのですか?」
 憧れの先輩を前にしているせいか、コーベライトは少し緊張していた。だが緊張よりも嬉しさのほうが勝っているらしく、目を輝かせながら言う。それがおかしかったのか、ソラは無邪気に笑った。
「僕が何をしていたか、見てみるかい?」
 明るくなった校舎内で二人を招くソラ。コーベライトとヴィオラは顔を見合わせて「じゃあ……お邪魔します」と緊張気味な二人は、植物を育てている校舎の真ん中の大きな木の下へと足を踏み出した。
 校舎の中は気温調節もできて四季折々の花がある。天井は厚いガラスがあり、昼は太陽の光という恵みを受けられる。それは手入れの息届いた大きな庭のようで、ヴィオラとコーベライトは感嘆のため息をこぼした。入ったことのなかったその校舎内が、あまりにも綺麗だったからだ。近くには虹を見ているような錯覚を受ける、虹のように花が配置されている花時計があった。その花時計のそばを通ってソラのもとへ行く。
「ここだよ」
「何があるんですか?」
 ソラが指差す先に膝をつくヴィオラとコーベライトは、ソラが見せてくれたそれを見てはっとなった。
「先輩……これって……」
 木の陰にかくれるようにして置いてあるものを見て、ヴィオラは驚いたような声を抑えつつも静かに問う。ソラは二人の様子を見ながら微笑んで「ね、すごいでしょ?」と言った。ヴィオラは何か考える仕草をしてソラを見上げた。
「うん。教科書によく出てくる翼の種の入っている卵だよ」
 二人の目の前にあるのはアクセサリーもちゃんとついている。二人が世話をしている建物の、ガラスケースに入っている卵と同じものだった。それが何故学校にあるんですかと言いかけたが、そういえば建物のことは内緒なんだったと思いだし、口を閉じた。
「これって本物なんですか?」
 言ったのはコーベライトだ。彼もまた、ヴィオラと同じように自分達が護っている卵と同じものが目の前にあって動揺しているようだった。ソラはにこにこと笑顔のままで「本物だよ」と言った。
「卵を、ここに置いているんですか?」
「うん。本当は護るために学校の中にあるんだけれど、この校舎はあんまり出入りがないから盗られる心配とかないかなって思ったんだ」
 提案したのは先生達だけどね。そう言ってソラは笑う。ヴィオラは自分が冷や汗をかいていることに気がつく。何故、護っていることを教えてくれるのかが気になったが、それより何故学校が卵を持っているのかが最初の疑問だった。
 まさか自分達も卵をひっそりと護っているんです、ということを言うことはできずに「この卵、ソラ先輩が世話しているのですか?」とヴィオラは問うた。
「うん。こうやってひっそりと世話しているんだ」
「こんなに大事なこと、俺達にしゃべってもよかったんですか?」
 次に現れた疑問をソラに問う。本来ならば、この大陸のキーとなる卵を狙う者は多い。卵は高額で売れるため大半が金銭目的だ。
 ソラはヴィオラの質問に少し考え「僕、今四年生だからさ」と二人のそばに膝をつく。
「今は僕が世話をさせてもらっているけれど、卒業したら世話する人がいなくなっちゃうでしょう?」
「そうですね」
「卵は自分で世話をしてくれる主人を選ぶんだよ。さっき二人が入って来た時、この卵は嬉しそうに光ったんだ」
 そう言って愛おしそうに卵に触れる。卵にかけられているアクセサリーは嬉しそうな光を放っていた。それを見ながら「僕が卵を他の人に紹介することはなかったんだ……卵が今までこんな反応見せなかったからね」と呟くように言った。
「勝手な願いだけど、卵が嬉しそうに光った時に僕は「この人達なら任せられる!」って思ったんだ。承諾をまだしてないのに、ごめんね。でも、可能だったら護ってほしいなぁって思ってる」
 ソラは申し訳なさそうに、でも嬉しそうに言う。ヴィオラとコーベライトは、自分達も卵を護っていることを言うべきか言わないでいるべきか迷ったが、今は言わないでおこうと心の中にその考えを仕舞った。コーベライトは困ったような笑顔で「考えてみます……」と語尾を小さくしながら言った。その言葉にソラは嬉しそうに「ありがとう、ありがとう!」と二人の手を握って言った。

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