小説『Butterfly Dance Night -完』
作者:こめ(からふるわーるど)

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「衝撃波を打てるのはなぁ……お前だけじゃないんだよ!」
 ハンマーを握りしめてシルエットへの攻撃態勢に入ったのはコーベライト。それでも彼は卵を護るという任務を忘れてはいない。卵をすぐに助けられるように、卵の近くに立つ。そこから衝撃波の攻撃を打つと、今度の衝撃波はシルエットのすぐ横を通り過ぎた。衝撃波で生まれた風が、ばさぁ……!と校舎内の壁にぶつかって消えた。
 衝撃波を打つということも、先ほどのヴィオラのシールドのように体力を削るということだ。エネルギーをこめた衝撃波を少し余裕をもってかわしたシルエットは、衝撃波が通り過ぎた時に何故か少し苦い顔になり、シルエットは一瞬動きを止めた。
 それを見て三人は、シルエットが少々追い詰められているように見えた。彼女の動きが止まっているのを狙ってコーベライトが下から衝撃波を打ち、それを避けた瞬間を狙って今度は上からヴィオラが大鎌を振り上げる。
 地面と上空。二つの攻撃を抑えるのは難しい。だがシルエットという人物は、自分が動きを止めていることにはっとなったが即座にシールドをはって二人の攻撃から身を守ったのだった。その時の彼女の表情は、少しだけ辛そうに見えたのは気のせいか。
 シルエットのシールドと、コーベライトの衝撃波とヴィオラの大鎌の先端が激しくぶつかった。両手を大きく横に広げてシールドをはったシルエットは、余裕そうな表情で二人を見た。
 それから彼女は、腕をなぎ払う。
 シールドの中に含められていた衝撃波。ズシン!という重い音が聞こえて、二人がそれぞれ飛ばされる瞬間をソラは見た。壁に、床に叩きつけられる瞬間を見て感じた。
 このままではいけない、危ない。
 そう心の中で判断し、ソラは最後の一撃というように右の手のひらに光を溢れるほど発生させる。その光を、隙のあったシルエットに打とうと腕を伸ばした。その時だった。

「ねぇ、知ってるぅ?」

 ソラの目が見開かれた。隙があると思っていたシルエットが、いつの間にかソラに向かって微笑んでいたからだ。
「なにがだ?」
「キミ達士官候補生って、今事件の捜索活動に携わっているわよねぇ?」
 ソラはその言葉を聞きながら、攻撃しようとしていた光を放つ。シルエットは「きたわねぇ」と言って大鎌を払って先ほどのより大きなシールドを作ってその光の攻撃を防いだ。ソラはあっけなく攻撃が潰されたことに悔しそうな顔をした。シルエットは払った大鎌の柄を肩にかけ、目を伏せて言う。
「捜索活動が始まってからよぅ。この失踪事件が急増したのは……ねぇ」
「つまり、だ」
「あら、もうわかっちゃったのかしらぁ……早いわねぇ」
「僕達のせいでもあるということか」
 ソラは厳しい表情のまま、問う。シルエットから目を外さずにいると、彼女はくすくすとおかしそうに笑いはじめた。
「そうねぇ。それもあるかもねぇ。……でもね、あたしには失踪事件の犯人が焦ってるなぁって思ったのよぉ」
 何に焦っているんだ、とソラは脳内で色々な予想を立てる。そして彼は心の中で一つの予想を立てた。シルエットはソラの顔をじっと見つめて心を読んだように笑顔で言う。
「犯人は捕まる前に一人でも多く事件に巻き込みたいって思っているのよねぇ。キミの予感と的中しているかしらぁ?」
 予感的中。
 ソラは焦っていた。だがそれを表に出さないように、ソラは頷いた。
「お前は一体なんだ?狙いはなんだ?」
「あら、そんなの決まってるじゃない……まぁ、さっきの話とは全然関係ないかもしれないけれど、あたしには狙っているものがあるのよぉ」
ソラが思ったことは、シルエットが話題を変えたことだ。あれだけ失踪事件の話をしておいて、いきなりここに来た理由の話をする。シルエットの狙いはわかってはいるが、今動けば体力がない自分達は確実に負ける。そう思ったので彼女の話を大人しく聞く。
 だがシルエットの何か知っているのかもしれないと言う、のんびりとした口調に少し苛立ってきた。シルエットはソラから視線をはずして、倒れているコーベライトの近くにある木をちらっと見た。
「あの木の下に卵があるでしょぅ?卵、あの人が探しているのぅ。あの卵は空の大陸にとって重要なものよねぇ。だから奪って来いって!それが、あたしの今回の仕事なのよぅ」
 シルエットはにっこりと笑った。
 卵という単語を聞きながら、ソラは向こう側で、シルエットの後ろにある壁に吹き飛ばされたヴィオラがゆっくり立ち上がるところを見ていた。ヴィオラはそっと大鎌を構えて光をこめていた。
「だからね、奪ってきたらいいと思うのよぅ」
「そんなこと……!」
 様子を伺っているヴィオラに、ソラは大きく頷いた。それが合図でヴィオラは大鎌を横に振って衝撃波をシルエットに向かって打った。それはシルエットを攻撃、最低でもひるませることを目的に放ったものだった。青い光は風を切り、そのままシルエットにぶつかる。
「…………!」
 シルエットが気がつくのと、衝撃波が当たる瞬間は一緒だった。大きな爆発の音が出、やったのか?と思っていると、衝撃波の周囲にある風が回ったのを感じた。
攻撃はあたっていない。シルエットはとっさの判断でシールドをはっていた。
「それが甘い作戦っていうのよぉ」

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