小説『Butterfly Dance Night -完』
作者:こめ(からふるわーるど)

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 いたずらっぽく笑うシルエットは、先ほどからエネルギーを使っているというのに全く体力を消耗している気配を見せないでいる。攻撃を放ったヴィオラは攻撃がふさがれたことにショックな顔をして、次にまた厳しい顔になった。
「あれ……ヴィオラは衝撃波をいつから打てるようになったんだろう……」
 卵のそばに倒れていたコーベライトもその瞬間を見ていた。ヴィオラのほうを見ると、彼はシルエットの隙を伺っていた。
「隙を伺ってばかりじゃだめよぉ?こっちから行かなきゃ」
 シルエットは卵のそばまで急降下する。そして素早く手を伸ばして卵に手を伸ばす。シルエットが笑った。
 だがその手を傍に倒れていたはずのコーベライトが掴む。コーベライトはふらふらになりながらも立っており、掴んだシルエットの手にもう一つの得意技である電気の攻撃を浴びせた。直接的な攻撃だったので、シルエットは痛そうな顔をして体制を崩した。
「この卵は……先輩が大事にしているものだから……ッ!」
 ぜぃ……と荒い息を吐く。コーベライトはシルエットがこれ以上卵に手を出すことができないようにと、しっかり腕を掴んで離さなかった。
「……熱心な後輩がいていいわねぇ」
 シルエットは無表情になったが、次の瞬間にはまた笑顔になり「負けたちゃったのかしらぁ」と呟くように言った。シルエットはコーベライトの手を振り払う。彼自身は先ほどの電気の攻撃で体力を消耗したからなのか、簡単に手が離れた。
 そしてふいに卵のほうではなく、この校舎の出入り口の方を見た。何かを警戒するような、そんな表情をしていたシルエットは入口の戸が開かれる瞬間を見ると、翼を広げて上空に飛ぶ。
「じゃあね、今日はさよならぁ」
 逃げたシルエットが三人に向かって手を振る。ぽかんとシルエットが飛んでいった上空を三人は見ていた。一体なにがどうなったのか、勝ったのか負けたのかわからずにいると、ドアを開けたヴィオラとコーベライトの担任の先生であるキルカルが三人の名前を呼んだ。
 三人が戦った校舎内は、ぐちゃぐちゃになっていたが、卵は無事だった。キルカルはソラに「卵は無事だね、みんなは……大丈夫じゃなさそうだね」と苦笑いで言い、布で卵を大事にくるむ。校舎の外にでると窓という窓から生徒や先生が「なにがあったんだ」と言わんばかりにこちらの校舎を見ていた。

 三人は保健室に連れて行かれた。夜の時間帯の保健室は担当の先生がいないので、キルカルが自ら三人の手当てをしはじめた。
「なんにせよ、卵が盗られなくてよかったねぇ」
「よくないですよ、先生」
 激しい戦いを繰り広げて傷が目立つようになった植物を育てている校舎は、キルカルのエネルギーの力で一瞬で片付いてしまった。エネルギーを発動させているキルカルを見ながら「先生の能力は回復なのかな?」とコーベライトは言った。
「いやぁ、でも賞金首とはいえ、プロと対決したなんてさ……勉強になったでしょ?」
 ヴィオラの傷口に消毒液をつけながらキルカルはのんびりと笑った。それに対しやっぱり「よくないですよ」とヴィオラは言うのだった。
「先生」
 この三人の中で比較的傷が少ないソラが近づいてきて、そばにあった椅子に座った。キルカルは優しい笑みを浮かべて「さっきの襲撃者のこと?」と言う。
 心を読まれたような感覚でいるソラは「そうです」と目を伏せて答えた。
「なんか、今の失踪事件のこと色々知ってるみたいなんです……それに卵を狙ってる。卵がここにあるということは、ヴィオラ君とコーベライト君だけが今日知ったくらいです。他の生徒は知らないはず……それを知ってるって、ただものじゃないと思うんです。それに失踪事件の増加が僕達が捜査に繰り出した時からと言うのは本当なんですか?」
 色々と引っ掻き回されたみたいな感じがするんです……。最後にソラはそう呟く。ソラの言葉にキルカルは「うーん」と唸り、「いきなりそんなことたくさん言われたり知ったりしたら、頭こんがらがっちゃうよね〜」と笑った、
「あの襲撃者、シルエットって言うんだっけ?は、かなりの情報を持っていると言えるよ。それに……失踪事件の増加は本当だよ」
「じゃあ、今後僕達は捜索に出ない方がいいのでは……?」
「そうだねぇ。これは会議してる最中なんだけど、また会議を開く必要があるね。でも、手はたくさんあったほうが本当はいいんだけれどね。それに増加は士官候補生が出て来たのではなくて、捜査自体が始まったことにあると考えてもいいんじゃないかな?」
 ソラ君の言葉を通すと、捜査自体を中断するということになる。とキルカルは付け加えた。ソラは「そうですか……」と何か考え込む仕草を見せていたが、立ち上がってそばに置いてある卵に近づいた。
「よかった。奪われなくて本当によかった……」
「先輩はその卵、本当に大事に護っているんですね」
 ソラが振り向くと、露出している肌のところどころに包帯が巻かれているコーベライトが笑顔を見せていた。その笑顔に笑顔で返し「そうだね。最初はそうでもなかったけれど、いつのまにかとても大事に思っていたんだね」と卵を愛おしそうに触れる。
「ていうか、あのシルエットって女……卵を奪いたいみたいなことを言ってたけど、奪わなかったよね?」
 ぽつりとコーベライトは言う。ヴィオラは「そうだな」と言う。
「何しに襲撃したんだろう?また襲撃してくるかな?」
コーベライトの言葉に反応したのはキルカルで、苦笑している顔から真剣な表情になって卵を見る。
「話を聞く限りだと卵を狙っているね〜……。対策、考えないとね」

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