小説『Butterfly Dance Night -完』
作者:こめ(からふるわーるど)

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 襲撃した夜が明ける頃。森の中でひっそりとたたずむ豪華な、だが木で隠れている屋敷の中。そこでシルエットは楽しそうに話すのだった。
「士官候補生って面白いわよねぇ。今の頭の固い士官も、昔はああだったのかしらぁ?」
 部屋の中央で舞うようにくるりと一回転。
「今の気持ちとか忘れないでいてほしいわよねぇ……これからのためにも」
 そう言って彼女は目を伏せた。その様子を見ていたユーディアは、大きな机に肘を立てて顎をのせ、ククッと笑う。
「シルエットは一体何をしてきたんだい?と問いたいところだけれど……。まぁ理由はわかっている。それに私もシルエットの意見には賛成だよ」
 今の緊張感を忘れないようにしてほしいよね。と、ユーディアは笑いながら紅茶を一口飲むのだった。
「あらぁ、あたしが卵を盗らなかった理由、わかっていたのぉ?」
「シルエットは私からの任務もそうだけど、いつでも盗れることに気がついて、士官候補生の力を試したかった……違うかい?」
「正解!」
 彼女は嬉しそうに言った。ユーディアは笑って机の上にある冷めた紅茶を見つめ「今の緊張感とか忘れないでほしいね」と言う。紅茶を飲みほし、上機嫌なシルエットに「どうだったかい?」とユーディアは問うた。
「楽しかったわよぉ〜。やっぱりあたしって賞金首の人間なのねぇ。あの子達に話した話の仕方とか内容が、なんか試しているみたいで……ねぇ」
「今更すぎるよ」
 ユーディアはおかわりの紅茶を注ぐ。今日久々に戦ったシルエットはまだうれしそうで、先ほどから部屋の中央でくるくる回っている。ユーディアはふと思い当ることがあって、シルエットに問う。
「最近はどうだい?」
「え?最近は……うん、大丈夫よぉ」
 一瞬不思議そうな顔をした彼女だったが、笑顔で答える。そんな話をしながら顔を見合わせ、二人は笑い合う。ユーディアは「話がそれたね」と言って話の軌道修正を行う。シルエットはようやく回るのをやめて、襲撃した出来事を思い出しながら冷めた紅茶を飲んだ。
「でも、こんなことで上機嫌だなんて……少しいじわるじゃないかい?」
「ふふっ」
「卵のありかはわかったから……」
 後は楽しみながら奪うとしよう。そう、物騒なことをユーディアは呟いた。
「そんな「奪う」とか言う時点で、ユーディアも犯罪者よぉ」
「ははっ。やっぱりそう思うかい?」
 シルエットは紅茶の入っていたカップをカチャリと置き「あの学校に卵があるってわかったものぉ。あの子達は今度また会うことになっているのよ、あたしの予定では!」
 シルエットは、ユーディアに宣言するように言った。
「あとは……あの建物の、まだ孵化しなさそうな卵達もどう奪うか考えておかないとね」
 ユーディアはぽつりと言う。その口元はいじわるそうに歪んでいた。

 忘れ物を取りに来ただけだと言うのに、戦うことになり手当を受けるという大事になった。いつの間にか朝になり、ヴィオラとコーベライトは学校から綺麗な朝日を眺める。
「あのシルエットって言う襲撃者さ、ソラ先輩に攻撃の隙を与えなかったよな。と、いうか俺ら遊ばれた感じがする……」
 コーベライトの呟きにヴィオラは苦笑する。今思い出しても、自分達は本気で戦ったつもりなのにまったく歯が立たなかったことを考えると……悔しくなった。
「それだけ、シルエットが強かったということだな……」
「だなー。もっと実技の訓練をないとなぁ。いざという時に困る。……しかしソラ先輩本当に遅いな」
「たしかに」
 コーベライトが時計を見ると、時間はいつも自分が起床する時間だった。
「ソラ先輩、大丈夫かな……」
ぽつり、と呟く。ソラはキルカルに呼び出されて数分。ソラは怒られてるのではないかと心配していた。
「俺達のせいで怒られてたらどうしよう……」
「申し訳ないよな……」
 二人でがっくりとうなだれる。実際、ソラを呼びだした時のキルカルの顔は、とても厳しいものだったからだ。それで二人は「俺達が校舎で戦ったから怒られてるんじゃないかな……」と、少々この先の出来事に怯えている。
「うーわー。それ本当だったら先輩にすごく申し訳ない」
 コーベライトが窓枠に手をついて嘆くように言うと「え、何が申し訳ないの?」と背後から問われた。
「だってさー。俺達のせいでソラ先輩に汚点っていうかそういうのがついちゃうんだよ……申し訳ないじゃん」
「ふーん」
「ヴィオラも申し訳ないってさっき言ってたじゃないかよ」
 そこで彼はヴィオラを見た。ヴィオラは額を抑えていて、コーベライトはなんだろうと思った。何があったのかわからない彼にヴィオラは自分達の後ろを指差した。
そこにはソラがおり、コーベライトは「会話聞いていたんですか!」と驚いたようにソラを見た。
「さっきからいたんだけどなぁ」
 ソラは笑う。そんなソラを見てヴィオラは「先輩、大丈夫でした、か?」と彼にしてはめずらしい、固く緊張している声で問う。それを見てソラはおかしそうに笑った。
「大丈夫だよー。怒られてたわけじゃあないから」
 その一言に、コーベライトは「ああ、よかったー……」と安堵の息をついた。
「ごめんね、待たせちゃったね」
 ソラも二人と同じように朝日を眺める。朝日はもう昇っており、街の人達が活動しはじめる時間だ。
「今日は朝焼けが綺麗だな。最近曇りが多かったから、久しぶりかもしれないね」
 ソラの嬉しそうな声と言葉に頷く二人。その二人を見て思い出したように「そうだ、会議室に連れてくるようにて、言われてたんだった!」と思い出したように言った。ソラは二人を連れ、会議室のドアを開いた。そこには難しい表情をしているキルカルがいた。

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