小説『Butterfly Dance Night -完』
作者:こめ(からふるわーるど)

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「だからね。今回の定期試験には絶対ここの封印学がでるよ。二人が四年生になったら習うと思うんだけど……あの先生、定年退職しなければ絶対だすよ、うん。たぶん」
 昼休みの食堂。今日は弁当を持ってきていないコーベライトを寝坊で自分の弁当を作れなかったヴィオラが見つけ、そこにソラが二人の肩をたたいて「やぁ」と言ったのが最初だった。円テーブルの上にそれぞれ買った食事を食べているが、どうも落ち着かないなとヴィオラは思った。
 ヴィオラとコーベライトは、目の前で熱心に話すソラの話を聞きつつ、周囲を気にするように見ていた。ソラは、左手には教科書を持ち右手にはスパゲティを巻きつけたフォークを口に運んでいた。コーベライトは苦笑いで、食べるか勉強するか話すかの一つにしてくださいと言いたいのをこらえた。
「教科書のここの部分なんだけどさ……二人はわかる?僕はわかんない」
 ソラは真剣に教科書と向き合っていたが、ふと自分の教科書を二人に見せた。教科書を見せながら、ソラの目は勉強で真剣になっているのだが、ペンを回すようにフォークを回していた。これを傍から見ると「この人は真剣なのか違うのか、どっちなのか」と思われそうな姿だ。
「ソラ先輩」
 周囲の目を気にするように小声で呼んだのはコーベライト。ソラが「どうしたの?」と無邪気な笑顔で問う。小首を傾げたソラは再度、右手にあるフォークを皿に盛っているスパゲティに突きさして、くるくると回すのに忙しい。
「あのですね」
 コーベライトは少し緊張気味のようだ。隣のヴィオラはきょろきょろとして周囲の目を伺うのに忙しい。ソラはそんな二人を見ながら首をさらに傾げている。その表情は二人の言いたげなことを分かっていなさそうだった。コーベライトは言おうか言わないでおこうか迷っていたが、その間にソラはスパゲティを完食させた。
「俺達まだ二年生です。ソラ先輩は四年生ですよね?」
「そうだね」
 この人はわかっていなさそうに見えるが、実は確信犯なのかもしれないとコーベライトは思った。コーベライトは周囲をちょっとだけ見渡し、こほんと大袈裟に息をつく仕草をした。
「ソラ先輩がわからない問題を、俺達がわかると思います?しかも基礎もまだ習っていない封印学」
 ここまで言ったところでソラは「あ」と言った。ソラは教科書に目を落とし、完食したスパゲティの皿を見て、不思議そうな顔で二人をじっと見た。
「先輩、聞いてます?」
 少し心配になったヴィオラは言う。そんなヴィオラの何も持っていない右手が、先ほどのフォークを回すソラと同じような動きをしていることには誰も気がつかない。ヴィオラへの返事としてソラは「聞いているようで聞いてなかったりする」と笑って言った。
「でさ、話変わるんだけど、この間考古学の先生がチョークをコーベライト君の額にヒットさせたって本当?なんか一部噂で耳に入ってきたんだけど。あの先生のチョーク投げすごいよね」
「ああもう!俺ら遊ばれてる!」
 教科書を鞄にしまいながら、ソラはコーベライトの頭を抱えた叫びに「あれ、わかった?」と笑う。
「わかったもなにも、最初からわからない問題を聞いてくる時点でわかりますって」
 立ち上がって叫ばんとするコーベライトは、一旦冷静になろうということで水を飲む。一方遊んでいると思われるソラは楽しそうに笑いながら二人に関連する噂を次々と聞いてくる。
「なんかね、後輩の噂はよく入ってくるんだけれど……ヴィオラ君とコーベライト君の噂はかなりの確率で入ってくるよ。なんでなのかな?」
「それはですね……」
 律儀に答えようとしたヴィオラは、ふと思うことがあって周囲を見渡す。その様子が不思議だったのかソラが「どうしたの?」と不思議そうに問う。コーベライトも周囲を見渡して、自分の後ろにいる三年生の先輩と目が合い、小声で「なんで見てるんですかっ」と言った。それに対して先輩は「君達見ていておもしろいね!」と悪気はないのだろうが笑顔で言った。コーベライトはがっくりとうなだれてたが、自分を見ているソラに気が付き、急いで目線をソラへと戻した。
 ヴィオラとコーベライトが周囲を気にするような行動をとっているのは周囲の目の問題だ。先ほどからソラが後輩を可愛がっているのか、からかっているのかわからないが、遊んでいる姿を微笑ましそうに見ている周囲の目。それが気になって仕方なかった。
「たぶんソラ先輩には自覚ってものがない」
「だな。あと俺の二メートル先にいる女子の視線が突き刺さる感じだ」
「だね。俺もそう思うよ……」
 周囲の視線が気になる二人はひそひそと話す。食堂にいるこの三人の光景は、食堂のほとんどが「あの三人どんな話をしているのかな」と気になっているようだった。ソラは小首を傾げて「二人だけで話さないでよー。僕も混ぜて」と子供のように言う。
食堂にいる人の目がほぼ全部こちらに集中している。ソラとテーブルを囲んだ時「お、後輩としゃべってる」という声も聞こえていた。そんなに注目を集める理由は、たぶん目の前にいる青い髪の毛の青年のせいだと思っている。

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