小説『Butterfly Dance Night -完』
作者:こめ(からふるわーるど)

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 コーベライトの思っているソラの自覚とは、自分が学園で一番有名だということなどだ。そしてそんな有名人と話している後輩がめずらしいと思って見ている周囲のことが分かってない。自分が有名だということを知らないのだろう、そう思っておくことにした。そして元凶であるソラは、鞄からまた別の教科書を出して読み始める。それは来たる定期試験の勉強だった。
 有名人と話している。だからだろうか、先ほどソラが言った「噂が入ってくる」とは、後輩と仲良くしてる図がめずらしいから、仲の良い後輩の噂をわざとソラに流しているのだと思った。
 ……そういえば、ソラ先輩は自分達以外の後輩と話しこんでいるところはあまりと言っていいほど見たことが無い、と二人は思った。そのことがちょっとだけ気になって「あの、先輩」とコーベライトは口を開いた。
「ん?なぁに?」
「先輩はいつも誰かと一緒にお昼を食べているんじゃないんですか?」
 入学当時から食堂でソラを見かけるということはあまりない。コーベライトの質問にソラは「んー……」と考える仕草をした。
 まずい質問をしただろうか、と思っていると隣に座っているヴィオラに足を蹴られた。痛かったので抗議しようと目を見ると、ヴィオラは「今の質問はまずいんじゃないか」と目で訴えていた。
「今日は久しぶりに誰かと食べた、かな」
「そうだったんですか……」
「いつもは一人だからねぇ」
 ソラは笑って答えた。やっぱりまずい質問だった、と申し訳なさそうに「すみません……」と言うと、ソラは「全然!大丈夫だよ」と優しい笑顔を見せた。
 ソラは食堂の時計を見て「あ、次授業があるんだった!」と急いで教科書を鞄の中にしまい、食器の乗っているトレイを持つ。
「今日は一緒にご飯食べてくれてありがとう」
「いえ!俺らでよければいくらでも」
「え、いいの?じゃあまた食べよう?」
 具体的な日付の指定などはなかったが、ソラは嬉しそうな声を上げた。手を振って「またね!」と食器を片づけに行ってしまった。ぽかんとした表情で見送る二人は、時間が止まったようだったがしばらくして動きだす。自分達も食器を片づけようとすると、二人の女子生徒が近づいてきた。
「ね、ねぇ……貴方達いつからソラ先輩と仲良くなっちゃったの……?」
 先輩に憧れている同級生だ、と思いながらコーベライトは「いや、ちょっとな……」と目を逸らす。すると一人の女子生徒が「羨ましい!」と言った。
「すっごく羨ましい!この食堂の中でもソラ先輩と食事一緒にしたいって言ってる人が何人いると思ってるのよ……すごく羨ましいわ」
 女子生徒はそう言う。ヴィオラもコーベライトも「卵を通じて仲良くなりました」などと言えるはずもなく「ソラ先輩の人気すごいな……」と話を逸らす。
「そうよ、すごいのよ!先輩の人気……。それにお昼をまた一緒に食べようだなんて、羨ましいわ……」
 はぁ、とため息をつく女子生徒は「私だめなのかな……」と呟き、一緒にいた女子生徒は「大丈夫、チャンスはまだあるわ!」と肩を叩いて言っていた。二人はこの生徒の会話についていけずに、そっとその場を去る。女子生徒の声は結構大きく「今度は何がきっかけで話すようになったのか聞かなくちゃね……」と言っているのが聞こえた。
 やばい、仲良くなった理由を聞かれたらどうしよう……。と心の中で思いつつ、食器を返して二人は食堂を出た。
「ソラ先輩の人気半端ないね」
「だな……」
 コーベライトの呟きに対して、ヴィオラ右手は先ほどソラがペンを回すようにフォークを回す動きをしていた。ヴィオラは無意識でやっているのだろうかと思いながら、見ていた。この前の衝撃波といい、今のペン回しといい、ヴィオラが最初は全くできなかったことを、手本を見せると次の日や次の瞬間にできるようになっている事がコーベライトにとっては不思議でたまらなかった。
 そんなことを考えながら、次の授業を受けるために教室に向かう。たしか次の授業は、各クラスに集まって先生の話を聞くというものだった気がする。たぶん自分達のクラスは、キルカル先生の企画しているトーナメントのことかなぁと、コーベライトは頭の上で手を組みながら考える。教室に行くまでの間にコーベライトはヴィオラに思っていたことを話す。
「しっかし、俺はソラ先輩があんなに茶目っ気のある人だって思ってなかった」
 先ほどのことを言っているのか悟ったヴィオラは「ああ、そうだな」と笑う。憧れの先輩に遊ばれていることを嬉しいのか微妙な気分でいるのか、コーベライトは移動中もソラの話をするのだった。
「俺も冗談とか言う人じゃないと思っていた……。というか、コーベライトはソラ先輩のことを真面目あ人だと思っていたんだろ」
「まさにその通り!見る機会はよくあったけど、話したことはあんまりなかったなぁ。今はよく話すから……イメージも変わったかもなぁ」

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