小説『Butterfly Dance Night -完』
作者:こめ(からふるわーるど)

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「ねぇ、ユーディア」
 椅子に座ったままのシルエットがユーディアの名を呼んだ。
 ユーディアは近づいて、シルエットに目線を合わせると「どうしたのかい?」と微笑んだ。その視線に少しどうようしながらも、鳴る心臓の音を押さえながら「お願いがあるのぉ」と言う。
「お願い?」
 ユーディアはシルエットのお願いを聞くと、微笑みながら彼女の手を引いた。

 シルエットはここ最近体調が少しだけ良かった。外に出ると風が気持ちいい。その風を感じながら二人は目的の場所に到着する。
 その場所に到着すると、目の前の建物のドアを開けた。開けた先には驚いたような顔のフローライトがいた。
「……シルエットさん!」
 フローライトの店には今誰もいない。フローライトはシルエットに駆け寄ると、その手を握った。
「よかった……もう会えないのかと思っていました……」
 彼女はシルエットの冷えた手を握りしめ、涙を流す。そんなフローライトにシルエットは「あたしも、もう会えないって思っていたわぁ」と笑いかけた。
 ユーディアはそんな二人を見つめており、フローライトはユーディアに気が付き「ええと」と戸惑う。ユーディアは「シルエットの恋人の、ユーディアです」とフローライトに握手を求めた。
「えぇ!恋人ができたんですかっ?」
 シルエットが頬を赤らめている様子をユーディアは楽しそうに見ていた。フローライトはユーディアの握手に応じながら目を輝かせ「シルエットさんの恋人……」と呟くように言った。
 色々聞きたと思ったフローライトは「立ち話も辛いでしょうから、入ってください。お茶、出しますから」と笑う。
 フローライトの店に入ったユーディアは「すごいね」と言う。
「そうか、シルエットがよく持っていた水晶玉はここの水晶玉だね?」
「そうよぉ。ここの水晶玉は良い夢が見れるって評判がいいの」
「ほぅ……」
 顎に手をつけて微笑むユーディア。「それでは私も一ついただこうかな」と言うと手ごろな値段の水晶玉を買った。

 今日は特に忙しくもなく暇でもなく、学校は順調に終わった。珍しくはやめに帰ったコーベライトは、家の中からフローライトの店に通じる廊下を見た。そこから人の声が聞こえてきたので「今はお客さんを相手にしているのかなぁ」とドアを開くのをやめた。
「ねぇ、フローライト」
 ドア越しに聞こえてきた声に、コーベライトはドキリとした。この声は聞いたことがある、と思ってドアの前に立つ。冷や汗が背中を伝い、嫌な予感がした。
「最近大丈夫?元気なさそうだけれどぉ」
 女の声が聞こえた。
「はい、私は大丈夫なのですが、ただ……」
「ただ?」
「お兄ちゃんとその親友の方が……心配なんです」
 談笑する声が明らかに聞き覚えのある声で「俺、この声聞いたことある……」とコーベライトはドアを開こうかと少し迷った。
「そう……。お兄ちゃん達のことが心配なのねぇ。いい子ね、フローライトは」
「いえ……シルエットさんだって、色々大変だったじゃないですか」
 フローライトのその言葉が聞こえてきた時、ぞくっと背中に寒気が走るのを感じ、気がつけばコーベライトはドアを乱暴に開けていた。コーベライトの視界には、あのシルエットが最初に入ってきて、次にフローライトと見たことのない男が店にいるのを確認した。
「お、お兄ちゃん?」
「あらぁ、お兄ちゃんの登場ねぇ」
 慌てた様子のフローライトに対し、のんびりとした口調のシルエット。そして二人の傍で水晶玉を眺めていた男は「へぇ、フローライトの兄さんなんだね?」と笑う。
 コーベライトは卵の件もあってか、シルエットとユーディアを睨みつけるように見る。するとシルエットは「今日は戦いに来たんじゃないのよぉ」と笑った。
「私はユーディア。フローライトの兄さん……えーと、名前は?」
「名前はコーベライト。何しに来たんだよ」
 ぶっきらぼうに答えると、ユーディアは笑いながら「警戒しているね」と言った。
「当たり前だろ」
 コーベライトは今まで妹には見せたことのなかった表情で言うと、シルエットとユーディアを交互に見た。
「お兄ちゃん……。あのね、これは……」
 フローライトが発言しようとすると、コーベライトはフローライトを見た。
「……なんで隠してたんだよ……」
 コーベライトの声は呆れなどはなく、今まで自分の敵と会っていたことに怒っていた様子だった。
 フローライトは黙る。明らかに怒っているコーベライトに対してフローライトは何も言えずにただ下を向いていた。
「なんでフロラは黙ってたんだよッ!」
 おどおどした様子のフローライトに、気がつけば怒りをむき出しにした大声をぶつけていた。彼女は泣きそうな顔をして顔をまた伏せた。
「シルエットにユーディア。お前らが今度なにかやろうとしても、絶対に止めてみせるからな。それで今日見つけたからには……」
「おやおや、元気があっていいね」
 怒るコーベライトにユーディアは穏やかに笑ってみせた。
 コーベライトの緊張した表情が少し和らぐ。ユーディアはそれを確認すると、自分の座っていた席を立って「まぁ、ここに座って。私達は今日戦いに来たわけじゃないんだ」と言った。
「今日はフローライトのところに無理に押しかけてしまったね。ごめんよ、フローライト」
「あのねぇ、フローライトのお兄ちゃん。あたし達は今日キミ達にお話があって来たのよぅ。でも、びっくりさせてごめんなさいねぇ」
 シルエットも柔らかく笑う。コーベライトは意味がわからずにいると、ユーディアに手をひかれて椅子に座らされた。
 渋々、と言った様子で座る。コーベライトは厳しい表情のままだったが「私達は君の親友の子に会いたいんだ」とユーディアは言う。
「は?ヴィオラに会いたい……?」
 コーベライトは眉間に皺を寄せた。それは今会って何をしようと言うのかと言う疑いもあり、何故彼らとヴィオラに接点があるのかという疑問があるからだ。
「あの子、顔に傷あるわよねぇ?」
 シルエットが柔らかい笑顔を見せながら言う。コーベライトは一瞬どきりとなり、そこまで顔が割れているんだなと感じた。一瞬だけ考える仕草をして「うん、たしかにヴィオラの顔には傷がある」と言った。
「ヴィオラ君の顔には傷があるけれど、顔の骨とかには異常がないということは知っているね?」
「うん。前々から不思議思っていたけれど……」
 そこまで正直に答えてはっとなる「もしかしてお前ら……?」と唇を震わせ、立っているユーディアをばっと見上げた。ユーディアはそんなコーベライトに苦笑した。
「あのね、フローライトのお兄ちゃん……いいえ、コーベライト君。ヴィオラ君の親御さんが、昔あたしに頼み事をしに来たがあったのぉ」
「頼み事?何のために?」
「それは話すと長いのだけれどぉ……良いかしらぁ?」
「うん。聞かせてほしい」
 コーベライトの言葉に笑顔を見せるシルエット。そして昔のことを話す。ヴィオラと、シルエットの昔話だ。

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