小説『Butterfly Dance Night -完』
作者:こめ(からふるわーるど)

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 ヴィオラは昔膨大なエネルギーを体内に溜めていたこと。それをヴィオラの両親が取り除いてくれるように、何でも屋をしていたシルエットの両親に頼んだこと。シルエットは他の方法があったとはいえ、顔に傷をつけることにより常にエネルギーを逃がす傷をつけたということ。それが今になって目立つ傷になったということ。そしてシルエットはそれを謝りたいと思っているということ、だ。
 話された話を聞いて、しばらく黙っていたコーベライトはフローライトに笑いかける。そして「フロラはヴィオラのことは初耳でも、シルエットと会っていたこと、どうして黙っていたの?」と今度は優しく問う。フローライトは少し黙っていたものの「怒られると……思ったからなの」と口を開いた。
「んー。以前の俺なら怒ったかも」
 のんきそうに言うコーベライトの言葉は優しかった。フローライトはどういう意味かわからず、首をひねっているとシルエットが「お兄ちゃん、許してくれるみたいよぉ」と言った。
「シルエットとユーディアは賞金首なんだっけ」
 ユーディアに問いかけるコーベライトの顔は、最初この部屋に入って来た時よりも柔らかく、だが目は真剣だった。
「ああ、そうだね。私もシルエットにも賞金がかけられているね」
「そうね。だからあたし達はいつか捕まるわぁ」
 エネルギーも自由に使えなくなってきているからねぇ……と自嘲気味に微笑むと「捕まるその前に、あたしからそのヴィオラ君に話しておいたほうがいいかと思ったのぉ」と言う。
「怒られると思うけどね」
 苦い、そしてどこか悲しそうな表情で言うのはユーディア。
「だから、私達は彼に会いたいんだ。でも私達は犯罪者……捕まるなら彼の傷のことを謝ってから捕まったほうがすっきりすると思ったんだ」
「んー。ヴィオラもすっきりするかはわからないけど、一応傷のことは話しておいたほうがいいかも」
 だって、ヴィオラいつも不思議がっていたんだよ?とコーベライトは言った。
「じゃあ、さっそく行動に移そう」
コーベライトはヴィオラの家に電話をかける。かけ終わった様子を見ながら、フローライトは「あの、お兄ちゃん……」とおどおどした様子で兄を呼ぶ。
「ん?どうしたフロラ?」
「……黙っててごめんなさい」
 その言葉に何も言わず、フローライトの頭にコーベライトは手を置いた。「もうちょっと早めにはやめに話してほしかったな」と笑いかけると、フローライトの目からはぽろぽろと涙が落ち、彼女は自分の手でそれを拭う。
「泣くなよー。兄ちゃんも悲しくなるからさー」
 困ったように笑うと、フローライトも泣きながら笑った。そして心配そうな顔で兄の顔を見上げる。
「ヴィオラさん、納得してくれるかしら……」
「さぁ……怒るか納得するかは、俺もわかんない」
 コーベライトとフローライトの中には不安があった。それは、ヴィオラが傷をシルエットがつけたということが受け入れることができず、また戦いになってしまうのではないかということだ。
「それだけは避けたいなぁ、うん」
 独り言のように言う。だが彼は信じた。ヴィオラはきっと、怒るかもしれないが、この事実を受け入れてくれる、と。

 家に着いたと思ったら、コーベライトから電話があったと父に言われた。内容は「家に来てほしい」というもので、どうしたのかとヴィオラは思った。
 コーベライトの家に着くとコーベライトが立っており、彼はヴィオラを見つけると手を振った。
「来てくれてありがと」
「学校で伝えてないことでもあったのか?」
 ヴィオラが笑みを見せながら言うと、コーベライトは唸って少し考える仕草をした。
「伝えてないというか、俺も今知ったっていうかんじ」
「へぇ」
「あんまりびっくりしないでほしいかな……っていうのは無理そうかな」
 そう言って彼は笑う。ヴィオラは首を傾げて「どうしたんだ?」と言うと。コーベライトに背中を押され、フローライトの店の中に入って行った。
 入った瞬間、ヴィオラの顔が警戒の色に変わる。フローライトは少し戸惑い「あの、大丈夫ですから……」と言った。
「どういうことだ、これ」
 背中を押しているコーベライトに問う。彼は「いや、ちょっと理由があってね……」と少し言いにくそうに言い、目をそらした。
「ほら、やっぱりいきなり来るから警戒されてるじゃん!」
 そういいながらコーベライトが指差す先はユーディアだった。ユーディアは苦笑いをしつつ「やっぱりいきなり来るっていうのは駄目みたいだね……」と言った。
 ヴィオラは二人の会話を聞いていて、どういう状況かわからずにおり、聞きたいところだか聞けないでいた。フローライトの傍にシルエットが座っているのを見てヴィオラはさらに警戒した。
「私はユーディア。そしてこっちは知っていると思うけれど、シルエットだ」
 そう言いながらユーディアは握手を求めた。ヴィオラは複雑な感情で握手に応じた。
「あのね、今日はお話があって来たのよぉ」
そう言ってシルエットはヴィオラに笑いかけた。
「いきなりでごめんねぇ」
 そういうシルエットの顔を見て、少し元気がないなとヴィオラは思った。ヴィオラは困惑したものの、フローライトに促され椅子に座る。そこでシルエットとテーブルを間に向き合う形になった。
「……話っていうのはなんだ?」
 声の音色からして、まだ警戒しているなと思った。だがそれは仕方のないことだ。シルエットをずっと敵視していた彼は、今からシルエットが何を言うのかと少し身構えていた。シルエットはその警戒心を緩めるように、にっこりと笑う。
「キミの顔、傷があるでしょう?」
 ヴィオラは自分の顔を触って「ああ、傷はあるな」と言った。
 会話を聞いてて、ストレートに言ったなこの人、とコーベライトは思った。
「その傷のことなんだけれどぉ……キミがまだ小さかった頃を覚えているかしらぁ」
 そういってシルエットは首を傾げた。ヴィオラは頭の中で記憶を辿っていくが、傷に関連する記憶はない。そこでヴィオラは「何があったんだ?」と聞いた。
「あのね、その傷……昔にあたしがつけたものなのぉ……」
「…………は?」
 シルエットの告白にぽかんとした表情になる。ヴィオラはまた記憶を辿る。だがシルエットと接触した記憶は、彼にはなかった。
それを察して「まぁ、かなり昔のことよぉ。覚えていないのもあたりまえねぇ」と言う。
「どういうことだ?」
 ヴィオラは怪訝そうな顔でシルエットを見た。シルエットはしばらく黙っていたが「その傷、あたしがつけたものなのよぉ」と言った。
「それ、本当なのか?」
 ヴィオラはびっくりしたような声で言う。シルエットは頷くと、「ごめんねぇ」と言った。その音色はとても悲しそうで、切なかった。

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