小説『Butterfly Dance Night -完』
作者:こめ(からふるわーるど)

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 ルアのような人物を見た次の日、もやもやとしたものを抱えながらコーベライトと朝一番に学校に行った。一緒に行こうとしたフローライトにはコーベライトから話をし「大丈夫だよ」と言って彼女よし先に家を飛び出した。
 二人がはやく学校に行ったのはルアのことを確かめるためだ。もし、自分達の見た人物がルアであったなら、先生達の耳に入って職員会議を開いているはずだ。
「先生!」
 勢いよく、まだ誰も登校していない学校の職員室のドアを開いた。開いた後にノックをすることを忘れていたと思ったが、今の二人にはそんな余裕はなかった。しかし、マナーであるノックをしなかった二人をとがめる者は誰もいない。なぜなら、職員室にも誰もいないからだ。
「……先生、まだなのかな」
「別部屋で会議を開いているんじゃないか?」
 そう言いながら職員室を見回す。
やっぱり職員室には誰もいなかった。コーベライトは「まだ先生達の耳に入っていないのかな……」と独り言のように言い、職員室に先生がいないかと探す。
学校の門は開いていたから誰か先生はいるはずなのだ。二人は誰もいない職員室をきょろきょろと見回す。本当は職員室は生徒が入ってはいけない場所なのだが、二人にとっては急ぎの用だったので失礼だと思いつつも、二人は一礼して職員室を先生がいないかとくまなく探す。
「おかしいな……いないね」
「学校からは物音も聞こえない」
「……たしかに」
 ヴィオラの言葉で耳を澄ませるコーベライト。たしかに彼の言うとおり学校はしん……と静かで、職員会議を開いているとしても、どこか物音が聞こえてくるはずなのだ。
「学校にいないのか……?」
 ヴィオラはそう呟き、職員室の奥に行く。お茶を入れる時に使う場所だろうか、簡素なキッチンがあった。
コーベライトは入口から手前のエリアに立って考える。
「……あれ、これって……」
 考えている時にふと目に入って来たものがある。コーベライトは見てしまった、というような表情をし、とある机の上を見る。
 書類や教科書で隠されているように置いてあるものがあった。見覚えのあるものだと思い「すみません」と言いながら、その見覚えのあるものの上に乗っている教科書などを持ち上げた。
「これって、あの雑誌?」
 そこに現れたのは廃刊になったあの雑誌で、先生の中にもこの雑誌を買っていて人がいたんだな、と思いつつ持ち上げていた教科書をばれないように元に戻す。その雑誌のあった机を使用している先生は知らない。仕方ないので「ヴィオラ!ここには誰もいないよ!」とヴィオラを呼んだ。
「学校じゃなくて、違う場所で会議をしているじゃないか?」
 歩きながら頭をかき、ヴィオラは言った。コーベライトはポン、と手を叩き「そうだね、それはあるかも」と言った。
「失踪者がこの前学校に助けを求めてきた時があっただろ?」
「うん、あったね」
「そのまま先生帰ってこなかったじゃないか……。で、学校に士官の方とかが来ただろ?だから士官の方がいるところとかじゃないか、って俺は思う」
「そうか。盲点だったよ……」
 コーベライトは「よし、ならちょっと外に出て探してみますか」と職員室を出ようとした。その時だった。
「…………誰?」
 空気が変わった。
 朝一番の空気は冷たくて澄んでいるものだ。だがその空気を打ち消すように、ねっとりとした嫌な空気に変わったのがわかった。コーベライトとヴィオラは身構える。特にヴィオラはこの空気の感覚を実技トーナメントの時で知っているので、コーベライトよりも警戒していた。
 背をあわせて身構えている二人をねっとりとした空気が包む。首を動かすのも躊躇われ、首を動かすことも空気がそれを許さない。瞬きをするのも目が上手く動いてくれないのだ。
「コーベライト、気をつけろ!」
「わかってる!」
 こうして声を上げないと緊張で身体が動かない。緊張のしすぎか空気のせいかはわからないが、目の前の空間がぐるぐると回るような感じがした。
 空気が徐々に重くなっていく。ヴィオラは警戒したまま、より空気が重く感じる、一番奥の窓を見た。つられてコーベライトも窓を見る。
 そこには黒いマントの、仮面をかぶっている人物が立っていた。その人物の手には赤い斧。コーベライトは恐怖や緊張感よりもほっとしたような感情が強く、その人物の名前を叫ぶように言った。
「ルア!」
 口を開いて叫んだのと同時に空気が軽くなった。コーベライトは「ルア?ルアなんでしょ?」とマントの人物に駆け寄る。
「コーベライト!」
 ヴィオラが止めようとするが、コーベライトはルアであろう、その人物に近づく。コーベライトは顔ではなく武器である赤い斧を見ていた。それが唯一の証拠だとしても、どうしても彼はこの職員室に現れた人物の正体を確認したかった。
「ルア!お前なんで……こんなことやってるんだよ!」
 コーベライトが近づくと、ルアと思われる人物は仮面に手をかけた。そしてそれをはずす。
「ルア……」
 茫然とした。
 コーベライトは力が抜けたように見、ヴィオラはびっくりしたように見ていた。

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