小説『Butterfly Dance Night -完』
作者:こめ(からふるわーるど)

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 仮面をはずした顔は間違いなくルアの顔で、その顔は無表情だった。失踪する前は皆と同じように笑ったりする女の子だったのに、今は全く表情を変えない。ルアの目が少しうつろなような気がする。心配になって「どうしたの?大丈夫?」と声をかけると、ルアはこくりと頷いた。そして手中にあった赤い斧をコーベライトに突きつけた。
「コーベライト!それ以上近づくな!」
 ヴィオラの警告の声が響いた。だがコーベライトは「んー……参ったなぁ」と笑う。仮面の人物の正体がルアだと知って安心したからだった。
 焦っているヴィオラは、二人に近づこうと一歩踏み出した。だがその足元に電撃が落ちた。ルアはコーベライトを見、ヴィオラを見る。斧をかざすルアの表情は変わらず、言葉を発することもない。
 ルアのその無表情は「近づくな」と言っているようだとヴィオラは思った。一発目は当たらなかったが、二発目をまたヴィオラに当てようとしているルアに向かってコーベライトは「昨日も見たけど、俺達も失踪事件に巻き込む気?」と問う。
 ルアの動きが止まった。そしてコーベライトの問いに頷くと、彼女はヴィオラに向かって二発目の電撃技を繰り出す。ヴィオラは大きく避け、ルアを見た。
 それを見ていることしかできないコーベライトは「明るく行こうぜ、俺」と心の中で言い、「ルアは今まで何をしていたのさ」と問うた。ルアはその問いに答えることなく、無表情だ。
「みんな心配してたんだぜ。ていうかショックのほうが大きいかも」
 その言葉にも構わず、今度はコーベライトに向かって電撃技を打ち、彼はぎりぎりで避ける。ルアの表情は変わらない。
 コーベライトはルアをまっすぐ見て「特に目の前で消えたから、ヴィオラとか元気を取り戻すの、時間かかったんだからな」と言う。
 クラスメイトの名前が出、ルアの表情は少し変わった。ルアの武器は二人を狙うが目はコーベライトを見ている。コーベライトはその調子でヴィオラに軽く目でコンタクトを取り、ルアと話を続ける。コンタクトを取った目は「任せて」と言っているようだった。
「捜索願いも出されたし、みんな探したけど……ルア、どこにもいなくて……」
「私は帰れないの」
 無表情のまま、ぽつりとしゃべったルア。コーベライトはその答えに「なんでさ」と言う。
「綺麗事かもしれないけどさ、こんなことやめれば?ていうか帰れないってどういう意味?誰かに弱み握られているとか?」
 大丈夫、先生達が護ってくれるよ。
 そう言うとルアの表情が変わった。安堵の表情でも恐怖の表情でもなく、怒りの表情だった。
「人なんかあてにならないわ……!」
 言葉を怒りながら発したルアを見て、コーベライトはびっくりした顔をした。一瞬彼の動きが止まったのを見てルアは斧から電撃を放つ。コーベライトはギリギリのところで避けたが、それはルアがわざと外したのだろうということがわかるものだった。
 ヴィオラは、その様子をみていることしかできないでいた。
「信用できないの?」
 ルアは次々とコーベライトという的に当たらない電撃を繰り出してくる。それが今のルアの心境を物語っているようでコーベライトは少し悲しくなった。電撃が自分のすぐそばに放たれるのを見て、ああ、本当はこんなことやめたいけど無理なんだな、と感じた。
「ルア、あのさ」
 ルアの電撃をやめさせよと、彼女に近づく。ルアは「なんなの?」という表情をしたがコーベライトは構わずに彼女の隙を狙って手を握った。
「ね。もうやめよう?何もこわくないから」
 最初の攻撃からわかっていた。ルアが失踪事件に加担したくなかったということを。コーベライトを失踪事件の被害者にしたくなかったことを。だからコーベライトは安心させるためにルアの手を握った。
 ルアは目を伏せ何か考えている様子だ。コーベライトは「何か辛い事でもある?」と優しく問いかけて、顔を覗きこもうとした。
「私のことは放っておいて……!
 ルアが拒絶反応を起こした。そしてその瞬間に電撃が放たれ、その電撃はコーベライトに直撃した。短い悲鳴を上げてコーベライトは電撃を受ける。この電撃を浴びると消えてしまうということは、この場にいる三人全員が知っている。
 ヴィオラは「コーベライト!」と叫ぶ。なんとかして助けようと近づくと、電撃の光が職員室を包んだ。
 光で前が見えず、目がチカチカする。ゆっくりと目を開くと、ヴィオラはまた彼の名を叫ぶ。
 コーベライトは消えるどころかその場で意識を手放していた。電撃を浴びたら消えるはずなのに……何故、と思いながらルアは気絶したコーベライトを見て、震える。
 そして床に座り込み、涙をぽろぽろとこぼして泣いた。
ヴィオラは急いでコーベライトを運ぶために肩に手をまわした。そして気絶したコーベライトを見、ルアを見た。ルアも泣きながらヴィオラの顔を見たが双方共、言葉を発しようとしなかった。
 ルアは声を上げて泣く。その泣き声は職員室を包む。
 先ほどの電撃の音がすごかったのだからだろうか、職員室へばたばたとだんだん大きくなる足音が聞こえ、ドアが開くとそこには教師であるアマがいた。
「ルア……?」
 床に座り込んで泣いているルアと、気絶しているコーベライトと彼を支えているヴィオラを見てアマは状況を把握した。アマは勝手に職員室に入ったことを怒らず「大丈夫?」と三人に近づく。アマはルアの目線に合わせるようにしゃがむ。
「保健室、行きましょう?落ち着かないとね。コーベライトも保健室で休ませた方がいいわね。……ヴィオラ、保健室まで担いで来れる?」
「はい、できます」
「よし!」
 アマの問いにヴィオラはそう答え立ちあがる。アマはルアに笑いかけ「行きましょう」と手を差し伸べる。
 その優しさが嬉しくて安心感の与えるものだったのか、ルアは泣きながら「はい」と返事をしてその手を取った。
 アマを先頭にルアとコーベライトを担いだヴィオラが歩いていると、途中でフローライトを見つけた。フローライトはコーベライトを見て驚いた顔をして「何があったんですか……?」と問う。
「ちょっと、ここでは言えない話なんだ……先生、フローライトも保健室へ行ってもいいですか?」
 振り向いたアマは「コーベライトの妹ね?……そうね、コーベライトのそばについてて欲しいわね」と言い、フローライトの動向を許可した。フローライトは不安そうな顔をしながらヴィオラの顔を見た。
「大丈夫。大丈夫だから」
 大きく頷くと、フローライトは「大丈夫……ですよね」と言い、保健室に入った。
 保健室に入ると、まずアマはルアを椅子に座らせた。ヴィオラは気絶したコーベライトを簡易ベッドの上に横たえる。フローライトとヴィオラは心配そうに顔を見合わせた。名前を呼ぶと、コーベライトの瞼が少し動いた。

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