小説『Butterfly Dance Night -完』
作者:こめ(からふるわーるど)

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「私は失踪事件に関与したわ」
 はっきりとした口調。その言葉を聞いてアマはルアに歩み寄り椅子に座っていた彼女の背中をさすった。ルアの言葉を聞いてもコーベライトは表情を変えなかった。一歩ヴィオラは残念そうな顔をし、フローライトは悲しそうな顔をした。まっすぐに表情を変えないコーベライトをおそるおそる、といった風に見ながらルアは言う。
「私は事件に関与した。人を巻き込んだ、だから法廷で裁かれる義務があるわ」
 裁かれる、という言葉がやけに重く聞こえる。ルアは椅子から立ち上がると皆から背を向け、窓の外を見ながら「残念ね。楽しかった学校生活も、これでめちゃくちゃなのね」とこぼした。
 その姿が痛々しく感じ、コーベライトは何か言おうとしたがヴィオラが目で制した。ルアは振り返るとその顔は泣いていて「私、とんでもないことを……してしまったわ……」と涙声で言う。
 アマのほうに向き「先生、私をこの場で逮捕してください」と涙声ながらも力強く言う。アマはルアから目をそらした。
「先生お願いです。私は罪を犯しました。だからこの場で逮捕してふさわしい場所に送ってください」
 ルアの副担任であったアマは考える仕草をする。その姿は現実を受け入れたくないというような雰囲気に見てとれた。
 しん……、と黙る部屋の中でフローライトが「あの……」と沈黙を破った。
「あの、すみません……。話の途中なのですけれど、私はルア先輩に聞きたいことがあります」
「それは私が取り調べをする時に全て話すわ。だから安心して」
 フローライトの言葉にはっきりと述べるルア。フローライトは「そう……ですね」とますます悲しそうな顔をする。
「先生」
 ルアはまたアマを呼んだ。そしてルアは両手を差し出す。アマは意を決したようにルアの手を掴もうとしたときだった。
「ルア、ルアは失踪事件に関与したんだな?」
 アマの手が止まる。その手を止まらせたのはヴィオラで、彼は真剣さと悲しみが入り混じった表情をしていた。
「そうよ、私は関与したの。だから正しい場で正しい事をすべきだわ」
「じゃあ、ルアは失踪事件に自分の意思で関与したのか?」
 ヴィオラの言葉で黙る。唇をきゅっと結んだ彼女は、目を閉じて静かに涙をこぼす。こぼした涙は徐々に大粒になってゆき、やがて彼女は顔を覆って泣きはじめた。
「ルア、正しい場に行きたいと思うなら私達に正しい事を話してくれる?」
 そう言ってアマはルアの肩に手を置いた。ルアはアマの顔を見ると「話して……いいんですか?」とどこか震えた様子で言う。アマは「どういうことかしら?」と優しい笑顔で尋ねると、ルアは言う。
「だって私、話してしまったら消されるんじゃないかって……思って」
 逃げてばかりでごめんなさい。そうルアは言った。
 どこか怯えた様子のルアをまっすぐに見つめ、笑顔でアマは「誰かに事件の全容を話したら消すって言われたの?」と言い「大丈夫よ、だから話してみて」と力強く言う。
 アマの問いにルアは「消す、とは言われませんでした……ですがそんな雰囲気だったんです……」と自分の左胸に両手を当てて、瞳を閉じる。
「事件の全て、私はあまり知りません……わからないんです」
 ルアの声は震えていた。だがルアは周囲が感じるほどの勇気で事件のことをぽつりぽつりと話し始めた。
「トーナメントの時だったわね、私が消されたの。あの時私は電撃で気絶していた……気がついたら知らないところにいて、マントをかぶった人達がたくさんいて……」
 そこでルアは頭を護るように手で覆った。声の震えもひどくなり、嗚咽を上げて泣くが内容を語る。
「不気味だった。すぐに逃げ出せばよかったわ。でも……できなかった……!」
「逃げられない状況だったんだな?」
「そう……よ」
 ヴィオラの問いに震えながら答えるルアは、窓の外をちらちらと見ている。誰かが見ていると思っているのだろうが、ヴィオラが窓の外を確認しても誰もいない。アマはルアの背中を撫でながら「大丈夫、大丈夫よ」と安心させる言葉を繰り返す。落ち着きを取り戻してきたルアは話を続ける。
「……それで私は、その事件の犯人……皆はトップと呼んでいたけれど、そいつは私を解放する条件として人を巻き込むようにと命じたわ……」
 それは何故?顔は?とコーベライトが言う前に、心を読んだように「人をね、探しているんですって。みんなマントで顔を隠していたから、顔はわからなかったわ」と言った。
「本当に自分勝手よね……人探しにここまでする?と思ったのだけれど……」
 ルアは自嘲気味に笑う。そして髪の毛をかきあげてアマを再度見る。
「お願いです。この事件、はやく解決して犯人を見つけないと大変なことになります……。だから……」
「ええ、ルアの言いたいことはわかっているわ」
「はい……」
「それで、そのトップだったかしら?その犯人が探している人って誰?」
 その言葉にルアはアマに言う。
「トップは私を見て「こいつは全然違う」と言いました……。私が感じたのは、他の関与している奴らも高いエネルギーをもっているということで……」
 全員が次のルアの発言を待った。ルアは一息つくと言う。
「奴らのほとんどは、本当に高いエネルギーの所有者でした。たまに刺青のような光をつけている奴もいました……。その光の刺青をつけている人はものすごく高いエネルギーを感じたのですが、その光の正体はわからないんです、すみません……」
 ルアのその話を聞いてコーベライトはぞっとなり、ヴィオラを見た。ルアの言う光の刺青とは、間違いがなければ光の証のことだ。ヴィオラは何か考えているような表情をしていた。
 だがその表情は背後にあった窓からの、昨日聞いたのと同じような大きな音で変わった。
 その音は、植物を育てている校舎の中から聞こえた。

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