小説『Butterfly Dance Night -完』
作者:こめ(からふるわーるど)

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「……で、なんで俺も?」
「さぁ」
 翼を生やして空の散歩に、父は何故かコーベライトにも声をかけた。見ているとどうやら散歩ではなく、どこか目的地のあるような飛び方だったので「どこに行くのさ」とヴィオラは問うた。
「楽しみにしていろ。面白いものを見せてやる」
 コーベライトとヴィオラは顔を見合わせて「面白いもの?」と言う。
 飛んでいると森が見えた。父の目的地で何か見せてくれると言う場所は行き慣れているらしく、方向転換に迷いはなかった。
父は時々ふっといなくなる時があり、母は「散歩に行ったんじゃないかしら」と言う。そのおかげで、父の自由なところは慣れているのだが、時々「どこに行っているんだろう」と気になっていた。
「着いたぞ、森の開けたところに着地だ」
 そう言って降下する。コーベライトは「ヴィオラのお父さんってさ、自由だよね……」と言いながら降下する。頷くヴィオラは着地した。
「おじさん、おもしろいものって森の中にあるの?」
 コーベライトが問うと「そうだ」という声が帰って来た。そして翼を畳んで森の中へ入ろうと歩いて行く。ヴィオラとコーベライトは急いで追いかけた。
 追いかけて森へ入ろうとした瞬間に、目の前の世界が変わる。
「何これ……」
 ヴィオラはそう呟きながら世界を見回す。同じく驚いているコーベライトは「変わったよね……」ときょろきょろとしている。
 父は二人が驚いているのを見て「すごいだろ?」と言う。「すごいよ、これ……」という二人は、空も地も木々も花々も真っ白な世界にいた。
 その真っ白な世界は何もかもが白かったが、ちゃんと個々の存在が伝わってきていた。真っ白な世界の中に色のついている自分達は浮いて見える。
「おじさん、あれは何?」
 きょろきょろと見回していたコーベライトは奥を指差す。その先には大きな樹があり、その場所だけ樹を覆うようにキラキラと光っていた。
「……誰かいるぞ」
 ヴィオラは言った。樹に近づくと、こちらには背を向けている赤い髪の毛が印象的な少女がいたのを確認することができた。父はその少女に声をかける。
「久しぶりだな」
 ふとこちらに振り返る少女。自分達より下の年齢の、十代前半だろうか、そんな少女は「あら、久しぶりね」と驚く様子もなく言った。
「……父さんの知り合い?」
 ヴィオラはそう尋ねると「そんなものだな」と言う。
 父さんにこんな知り合いがいたなんて初耳だと思い、意外だと思った。
 目の前にいる少女は金色の目をぱちくりさせてこちらを見ていた。先ほどヴィオラが「父さん」と呼んだからだろうか「息子さん?」と問われる。少女はコーベライトも見て「こちらも息子さん?」と言う。
「違う。こいつは確かに俺の息子のヴィオラだが、こっちはその友達のコーベライトだ」
 そう言ってヴィオラとコーベライトを順に紹介する。少し父の不器用なところが出ている紹介だと思った時、心の声が聞こえたのか、少しつつかれた。
「仲がいいのね」
 そう言って少女は笑う。
「それで、この子はこの樹を護る仕事をしている……で、いいな?」
「ええ。その通りよ」
 そして少女は二人に「はじめまして」と言うのだったが、名前は名乗らなかった。
「最近、ここに来るお客さんが多いの。この場所教えた?」
 女の子はヴィオラの父に小首を傾げながら問う。問われた方は言いにくそうな表情をしながら「一人だけに教えた」と言う。
「誰なのさ」
「卵狩りのユーディアってやつだ。お前らの卵狙われていたんだぞ」
 今は自首したからいいものの……と言う。コーベライトは反射的に「ユーディアさんが?」と言うと、「さん」付けしていることに違和感がある父に「知っているのか」と言われる。コーベライトは「ちょっと、ね」と言葉を濁した。
 だが彼の心の声も筒抜けらしく「コーベライト、お前危ない橋を渡っていたな」と言われた。コーベライトは苦笑いで「なんでわかるのさ……」と言う。
「さぁ」
 そう父も能力の事は言わなかった。本当に秘密にしておきたいんだなと思い、ヴィオラは能力の事を言いかけた口を閉じた。
「卵狩りのユーディアのことはもう大丈夫よ。卵を狙わないって言っていたわ。……それで、今日は何か用があって来たんじゃないの?」
 少女の言葉に思い出したようにぽんと手を叩く。ヴィオラとコーベライトは不思議そうに思っていると「お前ならできると思うんだが」と話を切り出す。
「あの湖で、能力を使ってくれないか」
 そばにある湖を指して言った。
「湖から人が見える能力なの?」
 コーベライトが問うと「鏡とか、人がうつればそれを通して見ることができるわ」と言った。
「すごいんだなぁ」
その言葉を聞きながら「犯人?」と少女は尋ねる。その言葉に二人は反応して「犯人わかるの?」と少女に聞く。
 女の子は「うーん」と言い「私も調べたけど、犯人は鏡とかは見ていないわね」と言う。
「ガーディアンでもだめなのか?」
「だめみたいね……。少しだけでもうつればいいのだけれど。こちらから見るタイミングもあるのかしら」
 ため息をつく。無理だと言うことはわかったが、途中の話がわからずコーベライトは「ガーディアンって、何?」と問うた。
「ああ、そうだった。こいつら知らなかったんだ……」
 ヴィオラの父はそう言うと「簡単に言うと、この樹の守護をしている者だな」と言った。
「そういう説明でいいな?」
 そう言って女の子を見ると、少女は顔を伏せていた。「どうした?」と声をかけると「……あ」と顔を上げた。

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