第九話 『新しい家族』 A’s編突入
――――考えて下さい。何の為に戦うかを……
――――頼む、レン・シノザキ。私の代わりにクラニアムを制圧してくれ!
――――全てを君に託す!
――――貴様も、人類の為には人の死を厭わないか。
――――一つの命を想う、それを愚かと呼ぶか
「煉くーん、ご飯出来たでー!」
「ああ、今行く」
ジュエルシードの事件が終わって3週間ぐらいが経った。早いものだ……。
そうそう、今日は少し特別な日で、少し夜遅いが八神は豪華な料理を作っている。その特別な日というのは、実は今日は八神の誕生日なのだ。
本人は今まで他の人と祝ったことが無いらしく、今日をとても楽しみにしているそうだ。誕生日ぐらいでそこまで楽しみにするということはよっぽど寂しかったのだろうな。
「ほぅ……中々豪華じゃないか?」
「やろ? 今日は気合いを入れて作ってみたんや!」
八神が腕まくりして言った。
ふむ、本当に料理が上手いな。約一ヶ月ほど居候して俺も作ったりしていたが、未だに八神の料理には敵わない。一体どれだけ練習をすればこれほどの腕前に達するのだろうか?
「はい、それじゃいただきます!」
「いただきます」
料理を並べ終わり、俺達は豪華な食事を楽しんだ。
そして食事が終わり、今の時刻は深夜11時58分だ。
八神はすでに眠いのか船をこぎ始めていた。
「八神、もう寝た方がいい」
「ん……もうちょっとだけ」
「はぁ……仕方ないな」
眠い目を擦りながら八神はまだ話したいようだった。ま、今回ぐらいはいいだろうと思い、俺は話を続きをする。
だが、時刻が0時を回った瞬間、異変が起きた。
ガタ……ガタガタ…………ガタガタガタッ!!
「な、なんや!?」
「こ、これは……?」
突然本棚にあった古い本が動き出し……。
【起動】
と、音声が流れ、眩い光を放った。
「うひゃあっ!?」
そして、光が収まり辺りが静寂に包まれる。しかし、そこには魔法陣を背景に変な服装の男女四人が跪いていた。
「闇の書の起動を確認しました」
「我ら闇の書の蒐集を行い、主を守る守護騎士にございます」
「夜天の主に集いし雲」
「ヴォルケンリッター、何なりと命令を」
闇の書? 守護騎士? また訳の分からん単語が出てきたな。っていうか、主というのは八神の事なのか?
ちょっと八神に聞いてみる…………のは無理だな。
「きゅ、きゅぅ〜〜」
気絶していた。
まあ、無理もないか。あまりの出来事に頭がパンクしたんだろう。
仕方ない、俺が聞くか。
「お前等……何なんだ?」
「はっ、我らは闇の書の主の守護騎士にございます。貴方様が新たな主でございますか?」
一番手前にいるポニーテールの女が聞いてきた。
ふむ、さっぱりわからん。そして俺は主じゃない。
「いや、俺はお前達の主というのじゃないぞ?」
「……は? し、しかし……それでは一体誰が?」
いや、知らないから。っていうか、この場合の主って……八神だろ?
「確証は無いが、そこで気絶している八神だろう」
「そうなのですか……では貴方は一体……?」
「ああ、俺はただの居候だ。一ヶ月前からコイツの世話になっているんだ」
っというか、いつまで寝ているんだよ? さっさと起こすか……。
「おい、起きろ八神」
「う、うぅ〜ん……」
ふむ、起きる気配が無いな。ならば!
ビシッ!
手刀で一撃を与える。うむ、いい音だ。
「あだっ!? あれ……煉君?」
さて、はやても起きたことだし、とりあえず現状の説明だ。
説明中…………
「なんやよう分からんけど、これだけは分かったわ。闇の書の主として皆の衣食住を確保せなあかんということや」
え? そこ? ま、まあ確かに衣食住の確保は大切だが、ツッコム所はそこなのか?
「ほんなら皆の服を買うて来るから、サイズを測らしてな?」
俺がはやての言葉に心の中でツッコミを入れている間に、はやてはタンスからメジャーを取り出して言った。
ヴォルケンリッター達が現れて二ヶ月が経った。
俺達はそこそこ仲良く出来ていると思う。特に……ちびっ子のヴィータにアイスを買って上げたらすぐに懐いた。実に簡単な手懐け方だ。、
あ、本人の目の前でちびっ子と言ったら殺されるので実際には言わないよ?
シグナムは礼儀正しく、冷静な人だ。一応彼らの中でリーダーなのだそうだ。彼女には本当に良くして貰った。まるで俺を弟のように扱っている。それが少し心地よいと俺は感じていた。
シャマルも優しいお姉さんという雰囲気で、料理は最初こそ壊滅的だったが、今は普通に食事出来る程度の腕になっている。ただし、八神の監督下限定だがな。
それと医療担当らしく、怪我や病気に詳しい。ただ、一つ残念というかなんというか……彼女の作る『E★I★YO★U!ドリンク』がちょっとね……?
効き目は確かに凄いぞ? すぐに疲れが吹っ飛ぶし、体調も改善される。ただ……味と臭いが…………ね?
あまり思い出したくないが、レモンとゴーヤ、ビール、ドクターペッパーを合わせたような味だったな……今思い出しても吐きそうだ。それと臭いは湿布の臭いを十倍にしたような刺激臭だった……。
アレはもうドリンクじゃない。限りなく毒薬に近いナニカだ。
そして最後にザフィーラだ。彼は唯一の男ですぐに俺と気が合った。彼も冷静で真面目な人だ。家族で兄が居たらきっとあんな風だったのだろう。俺は一人っ子だったからよく分からんがね。
「おーい煉! 早く行くぞー!」
おっと、ヴィータが呼んでいる。今日は皆で街のデパートに買い物に行くんだったな。
「ああ、すぐに行く!」
俺がすぐに玄関に行くと、八神達が待っていた。
「何してんだよ遅ぇじゃんかー」
「忘れ物は無いか、煉?」
「ああ、大丈夫だよシグナム」
「ほな、はよ行こ!」
そしてデパートに着いた。今日はショッピングを楽しむのが目的で必要な物を買うという事は無い。ま、欲しい物があれば買う程度のものだ。
「…………」
そして今ヴィータがおもちゃコーナーでとあるぬいぐるみを見ていた。
ウサギ……みたいだが、お世辞にも可愛いとは言えない物だ。だが、彼女には惹かれるものがあったのだろう。
ふむ……買ってやるか。
「ヴィータ、それが欲しいのか?」
「うえっ!? あ、いや……別に欲しいなんて……」
口ではそう言っているが、チラチラとこちらとぬいぐるみを見比べていると、十中八九欲しいのだろう。
「無理するな。欲しいのだろう? 買ってやるからそれをレジに持って行くぞ」
「えっ……ほ、本当か!? 買ってくれるのか!?」
俺が買うと言うと途端に顔を輝かせるヴィータ。かなり長い年月生きているらしいが、本当に見た目通りの精神だな。実に可愛らしい。
「ああ」
俺はぬいぐるみをレジに持って行き、会計を済ませた後にヴィータに渡した。
「ほれ」
「あ、ありがとう煉! 〜〜〜♪」
本当に嬉しそうだ。
あ、お金はこの前、月村忍に頼んで少しだけ貰った。彼女との盟約は月村すずかの身に危険が迫った時、その助けをするということだ。今のところ、そういった事件はない。
ま、偶に様子を見るときはあるがな。
「煉、そういえばお前の服も新しく買わなければならんだろう?」
俺がヴィータを見ているとシグナムがそう言ってきた。
「お前、数着しか服持ってないだろう? 黒のTシャツと黒のズボンに白の上着。しかも全部無地だ。少しぐらい着飾ってもいいんじゃないか?」
ああ、そういえば必要最低限に買ってそのままだったな。だけど、俺は着飾るのは好きじゃないんだよなぁ……。だってさ、金が無駄じゃね?
「いや、別にいいよ。今のところ不自由はないから」
「そういう訳にもいかないだろう。お前程の歳なら普通はもっとオシャレというものをしても良い筈だぞ?」
「あ、ウチも思った。煉君って歳の割には落ち着いているというか、大人っぽいんよな〜。もっとオシャレしたほうがええと思うんやけど……」
そりゃ大人ですから……精神だけな。
「ほら、主もこう言っている。兎に角一緒に来い。私が服を選んでやる」
シグナムはそう言うと俺の腕を掴んで引っ張る。
……へ?
「え? あ、ちょっ! 引っ張るなシグナム! 俺は別にオシャレなんて必要無いから!」
「いいやダメだ。ほら、暴れないでこっちに来い。私が着せ替……着させてやるから」
おい待て! 今なんて言いかけた!? っていうか言い直してもあまり意味が変わって無いから!!
だから腕を引っ張るな! くそっ、握力が無駄に強ぇ!? お、おい! HA☆NA☆SE☆!
い、いやぁあああああああああ!!?
「ねぇ、ヴィータ」
「ん、なんだシャマル?」
「シグナムってショタコンだったっけ?」
「いや、違うと思うけど? ってか、ショタコンって何だ? 食えるのか?」
「…………ヴィータちゃんはそのままでいてね?」
「……?」
…………もう御婿に行けない……しくしくしく……。