小説『魔法少女リリカルなのは−九番目の熾天使−』
作者:クライシス()

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第八話『母の愛』

             






「煉くーん、ごはん出来たからお皿を並べてくれへんかー?」

「はいはい…………並べたぞ」

「ありがとうな。それじゃ、食べようか?」

「ああ」

 俺は今、八神の家で食事を取っている。

「「いただきます」」

 何故か? 強引に引きずり込まれたからだ。だが、相手は同い年? の少女。それ以外に誰もいない。よって幾分かは気が楽だ。俺も家が街にないと不便だと思い始めてた頃だ。そう考えれば今回の件はちょうど良かったのかもしれない。

 そして俺と八神は食事を終えて後片付けをした。

【マスター、リンディ提督からコールが来ました。どうなされますか?】

 どうもなにも、返事をしないと怪しまれるだろうに……。

【承知しました】

 俺は音声のみの通信で出た。勿論、逆探知をされないようにルシフェルが細工をしている。

『こんばんわ、ルシフェルさん』

【何の用ですか?】

『実は、敵の魔導師の使い魔をこちらで保護しましたので、連絡をさせてもらいました』

 使い魔…………っ! もしかしてアルフの事か!? 俺のいない間に何が起こったんだ?

『それで彼女に話を聞いたところ、そして今回の主犯はプレシア・テスタロッサです。それと、フェイト・テスタロッサさんは母親のプレシア・テスタロッサに虐待を受けているそうです』

 やはりテスタロッサの母親が主犯だったか……。

【作戦に支障はありませんね?】

『はい。それに彼女、アルフさんもこちらに協力してくれるそうです。フェイトさんを助けて欲しいと懇願してきました』

 なるほどなるほど。これならばかなり順調に計画が進むな。

【ならば構いません。用件はそれだけですか?】

『ええ』

【それならば通信を切らせて貰います。では、また明日に】

 そうか、アルフがこちら側に寝返ったか。ならば今回の作戦は十中八九成功するだろう。そしてあのジュエルシードを管理局にさっさと回収させてお帰り願おう。

「煉くーん、お風呂沸いたで〜?」

 ……はぁ。雰囲気が台無しだな。ま、いいか。

「ああ、今行く」

 さて、今日はもう寝るか……。








【かなりの魔力量ですね……】

「ええ、本当に凄いわ」

 翌日、俺はアースラの艦橋で戦いの見物をしていた。戦ったいるのは高町とテスタロッサの二人だ。今艦橋にいるのはリンディ提督にハラオウン執務官、エイミィ及び通信士等の船員、そして……馬鹿二人だ。因みに、俺の隣にはアルフもいる。

 2人共、魔力砲をばかすか撃ちまくっている。いや、高町の方が撃ち数は多いな。

 完全に砲撃特化型だな。あれを気づかない遠距離で撃たれたら……怖いな。だがまあ、今の『ディバインバスター』なら俺でも防げる。まあ、それなりのエネルギーが削られるが。

【……どうやら決着が着いたみたいですね】

 そして、高町がテスタロッサのバインドに捕らわれ、テスタロッサが大規模な魔法を行おうとしていた。高町はバインドから抜け出せないようだ。

「っ! フェイトを止めないとっ! あの魔法は本気でヤバイんだ!」

 アルフが一生懸命に訴えかけている。

 そして魔法が放たれる。何個もの魔力弾が発射されて一点に集束し、高町に直撃した。

 ……終わったな。やはり経験の差が物を言ったようだ。仕方ない、悪役でも演じるk―――「いいえ、そうでもないわよ?」……なに?

 俺は視線をモニターに移すと、煙がちょうど晴れるところだった。そしてそこに映っているのは……ボロボロになりながらも耐えきった高町の姿だった。

 驚いた。あれほどの攻撃を受けて尚、立っていられるとは……。……くくく、面白い!
 
「これが私の全力全開! スターライトォォ……ブレイカァーー!!」

 そしてまたもや驚かされた。

 なんなんだあの砲撃は!? 戦艦の主砲に匹敵するほどの力だぞ!

【測定したところ、一撃でこちらのシールドを90%が削られます。下手をすればそれ以上かと】

 きゅ、90%だと!?

 ……くくく…………くははっ…………あっはっはっはっは!! 凄い、凄いぞ高町! これ程まで凄いとは思わなかったよ! 認識を改めよう高町。お前はほぼ間違い無く俺の相手に相応しい強者となるだろう!

「す、すごいわ……」 

 リンディ提督も驚いているようだ。そりゃそうだ。十歳にもなっていない子供があんな大威力砲撃を自力でやったんだもんな。 

「艦長! 来ました! 魔力反応です!」

 ふむ、やっと来たか。

 俺がモニターに視線を戻すと、先日のような空間の歪みが発生し、ジュエルシードを全て持ち去っていった。

「座標の特定を!」

「現在解析中! すぐに出してみせます!」

 これで解析が終われば作戦はほぼ完了だ。後はプレシア・テスタロッサを確保するだけだ……。






 それから数時間後、アルフ、高町やリンディ提督やクロノ執務官等々、艦橋に全員が集まってモニターを見ていた。

『私はねフェイト? ずっと前からあなたの事が………っ…大嫌いだったのよ』

 そしてプレシア・テスタロッサが言った一言でフェイト・テスタロッサは心を砕かれていた。

 何故そうなったか……。よりにもよって奴は彼女の事を娘の代わりの人形で、大嫌いだと言い放った。それに馬鹿二人が激怒して色々言っていたが、勿論そんなことは聞く耳持たなかった。

 しかし、気になることが一つあった。プレシア・テスタロッサが一瞬、ほんの一瞬だけ表情が変わった事だった。他の人たちは気づいていなかったが、俺とルシフェルだけが気づいた。

 本当に彼女、プレシア・テスタロッサはフェイト・テスタロッサの事が嫌いだったのだろうか?

 それで今現在、俺達は今回の主犯の根城である『時の庭園』へ乗り込んだところだ。

 目の前には数百の巨大甲冑が道を塞いでいる。手厚い歓迎だな。因みに、ここに馬鹿二人もいる。居なくてもいいのだが、戦力は多い方が良いとのことだ。

「どうやらコイツらを倒さないと前に進めないらしい」

「はんっ! 俺がまとめてぶっ飛ばしてやるよ!」

 神崎がそう言うとデバイスを構えて砲撃魔法を使うために詠唱を唱えようとする。だが……

「あ、危ない!」

「うお!?」

 甲冑達が一斉に襲いかかり詠唱の邪魔をする。

 甲冑達も動きが速く、中々頑丈そうだ。先ほど高町が魔力弾を撃っても鎧が凹む程度だったしな。

 さて、ここは俺の出番かね……

【仕方ありません。ここは私が引き受けましょう】

「なっ、こんな数相手にたった一人で相手するのか!?」

 クロノ執務官が反対意見をだしているが、そんなこと言っている場合ではないぞ。

「時間がありません。貴方達は先行してください。私ならこの程度の数、問題ありません」

 そうだな。アヌビスの疑似体験の時には数千機の無人機を相手したことがあるからな。

「だが……いや、分かった。頼んだぞ!」

 そう言ってクロノ執務官はプレシア・テスタロッサの元へ。高町一同は動力部へ向かって行った。馬鹿二人は俺の事なんか気にもせずに高町と一緒に行ったな。

 そして何故か甲冑達は他の奴等を追おうとはしない。恐らく俺が最優先ターゲットなのだろうな。

 くくく、無駄だというのにな。

【戦闘モードへ移行します。敵数計測……敵数280機と断定。敵の装備は近接格闘のみ。((兵器使用自由オールウェポンズフリー))】

 さあ、始めようか!

【イエス、マスター】

 俺はブーストを噴かして高速で一番近くにいる敵5体に接近、『Akatuki』で斬り捨てた。

 脆い……動力は魔力を使用しているだけで、鎧事態はただの鉄や銅などの金属と同程度の物だ。

 そして俺が斬ったのを合図に周りの甲冑達は一斉に襲いかかってきた。

 だが遅い……遅すぎる!

【敵機、周囲を囲みました】 

 俺はホバリングをし、両手を広げて『Stardust』を撃ちまくる。そのまま回転し、周囲にいた敵は蜂の巣となり活動停止した。

【敵機、50機が全面に展開、突撃してきます】

 囲むのが失敗したから次は正面から突撃か……つまらんっ!

【アラウンドオービット『Fairly』を選択】

 さて、ここで新しい武装の紹介だ。アラウンドオービットとは簡単に言うとファンネルのようなものだ。オービットの数は全部で六機。改造前より二つ増えている。

 俺はオービット三機を真上に展開させる。そして迫り来る敵にオービットがエネルギー弾の雨を降らせた。

 約毎分1800発ものエネルギー弾が甲冑達を無惨に撃ち抜き、圧倒していく。射程距離は1?程で、距離が近くなるほど集弾率が上がる。

 っていうか、この『Fairly』……えげつない。だってたった三機で甲冑達を100体ぐらい屠ったんですけど?
 それにエネルギー弾の威力は『Stardust』にやや劣るが数がハンパない。つまり一機につき一秒に30発だから、三機で90発。六機全て使うと180発だぜ? 秒間180発ってどんな悪夢ですか?

 しかもやけに命中精度が高い。あの変態科学者達、どれだけ改造したら満足するのだろうか?

 ルシフェルに武装の概要を説明して貰ったが……聞かなかった事にしたかった。

【敵機、残り43機です。『Chaser』の使用を提案します】

 ああ、そうだな。この程度の武装なら公開しても牽制にはなるだろうな。切り札である『ベクターキャノン』や『ゼロシフト』を知られなければ問題は無い。

 俺は後ろにホーミングミサイル『Chaser』を30発を展開、待機状態にする。そして腕を振り上げ、一斉射出した。

 ミサイルは敵を追尾し、粉砕する。ある程度固まっていたのでミサイルの爆風や巻き添えで全ての敵が沈黙した。

 うん、楽勝だったな。

【敵機の殲滅を確認】

 さて、それではいよいよ事件の元凶の元へ……

【熱源反応を感知。魔導師と思われる物が二人、こちらへ向かってきています】

 俺がクロノの後を追おうとした時、ルシフェルが警告してきた。

「ルシフェル!」

「うわぁ……もしかしてこれ全部…………一人で?」

 そこへやって来たのは心を砕かれたテスタロッサとアルフだ。アルフは俺の周囲に散らばっている鉄屑を見て顔を引き攣らせていた。

【はい、私が殲滅しました】

「そ、そうかい……」

「私も一緒に行きます!」

 だが、テスタロッサはそんなのを関係無いかのように自分も行くと言い出した。

 テスタロッサの瞳には確かな決意が見て取れた。中途半端ならば追い出すところだが、これなら問題は無いだろう。

【それならば左の通路に行きなさい。そこに貴女を必要としている女の子がいます】

「分かった!」

「アンタ、機械なのに良い奴だね。アンタも気を付けなよ?」

 そう言って二人は去って行った。

 なんかアルフに良い奴とか言われたけど……何でだろうな?

 俺は『良い奴』なんかじゃないぜ?

 なにせ俺は…………







「…………ルシフェル、クロノ執務官と合流に向かいました」

「…………」

 私はあまりの出来事に言葉が出なかった。

 たった五分……たった五分で数百もの敵を殲滅したのだから……。特に驚いたのはあの変な小型機だ。それが三つほどルシフェルさんの頭上に展開されたかと思うと、もの凄い勢いでエネルギー弾の雨を降らせた。いや、もう雨と言うよりもスコールに近いわ。

 これが……別世界の技術だと言うの? ルシフェルさんの生まれた世界は本人曰く、汚染物質で人類が死滅していると言ってたけれど……。

 もし彼女の世界がまだ存在していたら……絶対に接触してはならないわね。上層部なら絶対に喧嘩を売るに違いない。アレは私達でどうにか出来る相手じゃないって事は今回でよく分かった。
 彼女の攻撃の前ではバリアジャケットなんて通用しない。あれは対魔力に特化しているだけで、質量兵器にはそこまで意味をなさない。精々頑丈な服程度だ。

「頭が痛いわね……」

 本当に彼女と話し合って良かったわ。あと、絶対に上には報告しないわ。そんなことしたら朝日を拝めないもの。

「艦長、クロノ執務官がプレシアと接触しました」

「ようやくね……。私も出るわ! エイミィ、後は任せるわね?」

「はい、艦長!」

 兎に角今は次元震を抑えることが先決ね!









【敵機、沈黙】

 さて、俺は庭園内の敵を排除しているのだが、如何せんキリがない。そろそろ飽きたし、最下層にでも行こうか?

【始めから最下層に行けば良かったのでは?】

 そう言うなよ……。だって最近はまともに戦っていなかったからストレスが溜まってたんだよ。

 さて、それじゃあ最下層まで行こう……と、思った時だ。突然揺れが激しくなった。

【次元震の規模が増大。このままではこの庭園が崩壊します】

 おいおい……リンディ提督は何をやっているんだ? 仕方ない、ちょっと乱暴だが最短距離を行こうか。

【エネルギーチャージを開始。……充電率70%……80……90……チャージ完了。『Ω』、いつでも撃てます】

 俺は『Ω』を使用してショートカットをする。

 そして俺は『Ω』を撃った。集束したエネルギーが地面を抉り、そのまま最深部へと向けて行く。

 あ、そう言えば最下層にいる奴等の配慮を忘れてた。うっかりしていた。

【問題ありません。既に計算済みです】

 さすがは俺の相棒だ。さて、それじゃあ道も出来たことだし、さっさと行きますかね。

 俺は最下層へ向かって下降する。そして最下層に着いたら……

「母さん!?」

 プレシア・テスタロッサが変な空間に落ちていくところだった。

 それを確認した俺はすぐに行動に出た。

「ルシフェル!?」

 ん? なんで天城がいるんだ? まあいいや。

 出力を最大にし、異空間へダイブする。距離はそこまで無い。まだ間に合う。

「あなたは……?」

 俺はプレシア・テスタロッサとアリシア・テスタロッサのカプセルを確保した。

「は、離しなさい!」

 だが、ここでプレシア・テスタロッサが暴れ出す。

【暴れないで下さい。このままでは落ちます】

「私は死ぬの! 今此処で死なないと私のフェイトがっ……!」

 ……やはりそうか。プレシア・テスタロッサは最初からそのつもりだったんだな。いや、何となくおかしいとは思ったよ。

【やはりそうですか。死に行く理由は何ですか?】

「……本当は気づいていたの。アリシアはもう生き返らないって。でも、それに気づいた時、私はフェイトに酷い事をしていたわ」

 ふむ、つまり……ジュエルシードを集めている途中で気づいたということか? それは凄いな。自らの過ちを気づき、それを止める人なんて早々いないぞ?

「もうフェイトの母親ではいられなくなった……。母親としての資格は……もう無いの。 だからっ!」

【だから死んで自分を悪役に仕立てるつもりだったのですか? フェイト・テスタロッサは母親の命令で動いてたことにすれば罪は軽くなる、と】

「……ええ。……だから……離してちょうだい」

 なるほど。余計に離せないな。

【拒否します】

「なっ、どうして!?」

【貴女はまだやり直せるからです】

「私が……やり直せる?」

 ああ、お前にはその権利がある。

【はい。兎に角、ここから脱出します。もう暴れないで下さい】

 俺はプレシア・テスタロッサ等を引き上げ、地上に降りた。

「母さん!!」

 そこでフェイト・テスタロッサが母親に抱きついた。

「フェイト…………ごめんね」

「え?」

「ごめんね、フェイト。私……本当は貴女のことを……」

「かあ……さん……うぅ、うああああああ!」

 ふむ、意外と素直に謝ったな。ま、別に大丈夫だろう。それよりも天城は何故目を丸くして驚いているのだろうか?

 さて、これでこの事件は終わったも同然だ。庭園も崩壊寸前だし、さっさと帰ろう。








 そして俺はアースラへ戻り、さっさと地球に帰してもらった。

 ん? プレシア・テスタロッサやフェイト・テスタロッサはどうしたのかって? 知らんよ。俺には関係の無いことだしな。

「もう! 何処に行っとったん煉君! だいたい、―――」

 そして今現在八神に説教を受けている。要約すると、出掛ける時と帰りが遅くなる時は必ず連絡しろとのことだ。

 はぁ……お前は俺の母親かっての。

「すまん」

「次から気をつけてな?」

「ああ」

「……ウチ、また一人になるなんて嫌やからね?」

 俺が自分の部屋に行こうとすると、八神がそう呟いたのを聞いて振り返った。

「なに、流石にずっとは無理だがしばらくはお前の世話になるさ」

「うん……」

 何度かずっと此処に居てもいいかもしれないとは思ったが……俺はやっぱり一人がお似合いだ。

 だって、彼女の笑顔は少し眩しすぎるから。だけど、そんな少女を少し守ってやりたいと思い始めている。

 人の気持ちとはよくわからんな。自分の気持ちさえよく分からなくなる。

 ま、なるようになるさ。

 それじゃあ、もう寝るとしよう。

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