第十七話『悪化』
数分後、俺はシグナムの居る場所へ着いた。シグナムはフェイトと交戦中のようだ。
【空間異常を感知】
そして、近くに何かが転移して来たのをルシフェルは感知した。
姿は見えないが、何処かに身を隠しているのだろう。
【熱源反応有り。二時の方向、距離300】
ルシフェルの報告を聞いてそちらに視線を移す。すると、僅かだが影の様なものが見えた。
王騎が助けると言ったんだ。俺は手をアイツに手を出さないでおこう。
【シグナム】
「……ルシフェル、ヴィータは?」
「ルシフェル!?」
俺が声を掛けると、フェイトが驚いた。
【転移で逃げました。私達も撤退を開始しましょう】
「ああ、本当ならば決着を着けたいが……そうも言ってられん」
シグナムは名残惜しそうにしていたが、優先順位を間違えるような事はしない。
「フェイト!」
「王騎!?」
そこへ王騎が到着した。
さて、それでは退きますかね。……っと、ついでにあの野郎に置き土産でもするか。
【『Chaser』、展開】
「くっ!」
俺はホーミングミサイルを10発を展開する。フェイトは身構えているが、王騎はそうでも無かった。多分、俺のやることに気づいているのだろう。
【射出】
10発のミサイルは腕を振り上げると同時に高く飛翔する。そして、ある程度の高度まで達するとそのままある場所へ向かって急降下する。
「っ! …………え?」
フェイトが迎撃しようと魔法の準備をするが、軌道が明らかに自分に向かってない事に疑問を抱いた。
そして、ミサイルはそのままフェイトと王騎の30m後方の砂丘に降り注ぎ爆発を起こす。
「何を……?」
【シグナム、退きますよ】
「あ、ああ!」
フェイトが爆発が起きている方を呆然と見ている間にシグナムが次元転移の魔法陣を展開した。
その魔力に気づいたのか、フェイトが慌ててこちらを見るが、俺達は既に逃走の準備が整っていた。
「ま、待て!」
咄嗟に魔法を放つフェイトだが、その魔法が届く前に俺達は転移する。
「……逃げられた」
「はぁ……はぁ……はぁ……!」
私ことリーゼアリアは現在、砂漠の岩陰で休んでいた。
そして今は体中砂だらけだわ。何故かって? あの子供が私に向けて10発前後のミサイルをぶちかましたからよ!!
それにしても……危なかったわ。咄嗟に防御魔法を唱えていなかったら確実に死んでいた威力よ? まったく、あんな質量兵器を平気で使うなんて気でも狂ってるんじゃないかしら?
おかげで私の魔法では完全に防ぐことが出来ず、服の所々が焼け焦げていた。幸い、目だった外傷は少なく、軽微だ。
もう……折角クリーニングに出したばかりなのに……。
でも、何で私が隠れているってバレたのだろう? それほどまでに強力なセンサーでも備えてるのかしら?
「兎に角、お父様に報告しなきゃね……」
確か、あの子供の名前は煉と言ってたけど……あの子は危険だわ。
戦闘力が桁外れに違う。
……だからと言ってこの計画は止められない。もうすぐにアレは完成する。
そう、全てはお父様の為。私達はお父様の為ならいくらでも汚名を被ってみせるわ!
翌日、俺達は蒐集を中止した。理由ははやての容態の急変だ。
突然胸を押さえるように苦しみだして倒れたのだ。
「はやて!?」
「う……うぅ……ぅ……」
ヴィータは涙目ではやての名前を呼び続け、シグナム達は救急車を呼んだ。
そして今現在、はやては病院のベッドで寝ている。ヴィータははやての病室で見守り、俺とシグナムとシャマルは石田先生に事情を話している。
因みに、リィンは外でザフィーラと共に待機している。
「……思ったより闇の書の浸食が早いわ」
「もう形振り構っていられない、ということか……」
はやてを病院に入院させ、家に帰るとシャマルとシグナムが重い表情で言った。
「急ぐか……」
兎に角、闇の書を完成させないといけない。ならば、俺達は蒐集をするだけだ。
「これからは私も戦闘に参加しよう」
しかし、俺達には新しい家族がいる。蒐集速度はかなり上がるだろう。これならクリスマスには間に合う。流石にイブまで間に合わせたかったが、仕方ない。
今年のクリスマスは、はやてに家族と共に過ごさせてやる。それが俺からのプレゼントだ。