第十六話『一粒の希望』
さらに五日後が過ぎる。
以前話した事で皆は多少落ち込んでいたが、今では吹っ切れたように日々を過ごしている。
「リィン、シャマル、頼んだぞ」
「ああ……お前達も気をつけてな」
「あまり無理しないでね?」
その日の昼過ぎに俺達はリィンとシャマルをはやての護衛に残して蒐集へ向かった。目的地は以前行った無人世界。
「それじゃ各自、十分に気をつけろよ?」
「おう! 任せろってんだ!」
そして今現在、俺は別行動を取っている。目的は遊撃。管理局員が出てきた時のために俺は待機している。
ただ、俺の目の前には巨大な百足のようなサンドワームの死体が転がっているがな。
「相変わらず大きさだけが取り柄か、こいつは?」
【いえ、それほど弱い訳では無いかと。単に私達の力が異常なだけです】
確かにこの力は異常とも言える。そもそも威力がおかしいのだ。『Chaser』を数発、サンドワームの口の中に放り込んだだけでコイツ死んだしな。
それとまだチェインガンとVLSの威力は確認してない。流石に『Chaser』より威力が高い訳では無いと思うが……。それに弾薬は十分にあるが無限ではないから無駄遣いはあまり出来ない。
ま、あのジェイル・スカリエッティという科学者に頼んで量産してもらおう。ただ、あいつも変態科学者の臭いがするから少し不安ではあるが。
【空間異常を確認。何者かが転移してきた模様。数、5。転移先はシグナム付近に1、ヴィータ付近に3、ザフィーラに1。以上です】
そして、俺が考え事をしているとルシフェルから報告を受けた。
……来たか。状況を鑑みるにヴィータを優先で援護に行く必要があるだろう。シグナムはヴォルケンリッターの中で一番強いので後回しだ。よってここはヴィータの援護に行こう。
【戦闘モードへ移行します】
さて、それじゃあヴィータを助けに行くとしますかね。
俺は時速1000kmでヴィータの援護に向かった。
「文化レベルゼロ……人間は住んでない砂漠の世界だね」
こんにちわ、高町なのはです。私は今、アースラの中でフェイトちゃんとエイミィさん、それに王騎くんと一緒にモニターを見てます。
そこに映っているのは守護騎士のシグナムさんとザフィーラさんが映ってます。
でも、あの赤髪の小さい子はいないみたい……。でも、一番の心配は……。
「ルシフェルはいないみたいだ……」
そう、ルシフェルさんだ。私や神崎君が戦っても勝てない相手。でも、前の戦いで王騎君は互角に戦ってたの。凄いなぁ。
「なのはは此処で待機した方が良いと思う。あのヴィータって子が気になるんだろ?」
「う、うん」
そうそう、王騎君って前に比べるととっても良い人になったんだよ? 私の話をちゃんと聞いてくれるし、クラスの男子とも仲良くしてる。最近、神崎君と喧嘩もしなくなったよ。……って、王騎君が無視してるだけなんだけどね?
何があったんだろ? 確か、王騎君が変わったのは数ヶ月前ぐらいだったけど……。
「俺もなのはと一緒に行くけど、俺はルシフェルが出てきたら相手をする」
「王騎、大丈夫なの?」
フェイトちゃんが子犬のアルフさんを抱えて王騎君に訊いたの。
「……正直、勝てる気がしない。以前の戦いで退いてくれたのは運が良かったからと思う」
「そんなことないって! 王騎君はルシフェルと互角に戦ってたんだし……」
エイミィさんもそう言ってるけど、王騎君は浮かない顔をしてた。
「……だといいけどな。ああ、そう言えば神崎は来ないのか?」
「え? ああ、彼ね。まだ無理だよ。前の戦いで全治十日ぐらいの怪我を負ってるから」
あー……あれは痛そうだったなぁ……。私だったら泣いちゃうと思う。
「そうか」
でも、王騎君はどことなく安心した顔をしてると思うのは気のせいかな?
「それじゃ、フェイト……気をつけてな」
「うん。ありがとう、王騎」
そしてフェイトちゃんはシグナムさんと戦いに転送ポートへ行っちゃった。
しばらくすると、ヴィータちゃんが現れたので私と王騎君はそっちへ向かったの。
【目標ポイントまであと23秒】
「了解」
高速機動でしばらく進むと、ヴィータの所まで間近に迫った。やがて、ヴィータ達が見えた。
だが俺はおかしい事に気づく。敵が二人しかいないのだ。
【味方及び敵二名の下方に敵と思わしき反応があります】
俺は少し考え、答えに至った。
……あの仮面男か。
現段階であの仮面男は無視する。出てこない以上、まだ介入する気はないようだ。なら、考えるだけ無駄だ。もし仕掛けて来るようであれば迎撃すればいい。
【マスター、敵が長距離射撃を行う模様】
「なに?」
俺が視線を戻すと、高町が魔法陣を展開して射撃体勢に移っている。だが、ヴィータとの距離は1kmも離れている。
……おいおいおい、まさか本気で撃つ気か!? どんだけ離れていると思ってるんだよ!
高町の側では王騎が見物している。そして高町が集束型魔力砲を撃った。
「う、うそっ!?」
ヴィータは驚きのあまり動けなかったようだ。
俺はスロットルを絞り、時速1300kmで飛行してヴィータの前に躍り出る。そしてフィールドを展開し防ぐ。
【援護に来ました】
「そ、そんなもん必要ねぇよ! あたしの力でどうにかできたし!」
【驚きのあまり動けずに撃墜されかけたのにですか?】
「ゔっ……」
まったく……素直に言えばいいのによ。さて、仮面男と思わしき奴も動く気配はなさそうだし、さっさと撤退しますかね。
【ヴィータ、退きますよ】
「お、おう」
「ま、待て!」
俺達が退こうとすると王騎が魔力剣を飛ばしてきたので俺はそれを切り払う。
どうやら逃がすつもりはないらしい。
【……ヴィータ、先に行ってなさい。私が彼等の相手をします】
「……わかった」
ヴィータは魔法陣を展開して転移しようとする。それを止めようと王騎が魔力剣を撃ってくるがそんな事を俺はさせない。
「くっ! やっぱりダメか……」
本人もこれで足止め出来るとは思っていなかったらしい。
「る、ルシフェルさん! どうしてあなたは闇の書と一緒にいるの!? 理由を話して!」
そして高町が訊いてくる。
話し合いで解決しようとするのは良い事だ。だがな、高町? 世の中には話し合いで解決出来ない事や人もいるんだよ?
【話し合いの余地はありません。邪魔をするなら倒します】
そして俺は話し合いをするつもりなど無い。
「待ってくれルシフェル! 頼む、俺と少しだけ話しをしてくれ。少しでいいんだ!」
王騎はなにやら必死な様子で呼びかけている。
ふむ……アイツは転生者だ。ならこれから先の事を知っていてもおかしくはない。もしかすると……万が一にもはやてやヴォルケンリッター達を助けられる方法があるかもしれない。
【……いいでしょう。話は聞きます。ただし、貴方一人だけとです。他の介入者は認めません。、もし、妙な真似をすれば……】
俺はそう言って『Chaser』を4発展開し、射出する。その行き先はバラバラで、途中に何かぶつかったかのように爆散する。
そう、狙ったのは管理局のサーチャーだ。例え隠蔽工作しても俺の前では無意味だ。
【こうなります】
「や、約束する! 絶対に妙な真似をしない!」
「王騎君、私もっ!」
「ダメだ、なのはは此処に残っていろ」
「で、でもっ!」
「ルシフェルは俺とだけと言った。約束を破る訳にはいかない。だから残っていろ」
「……うん、わかった」
向こうも話が決まったらしい。
そして俺と王騎はその場から少し離れた場所で対話をする。
「ルシフェル……お前、もしかして八神はやてを知ってるんじゃないか?」
王騎はいきなり切り出した。
やっぱりコイツは知ってるんだな?
【はい。私は今、彼女と行動を共にしてます。もちろん、八神はやてはこの蒐集を知りません】
「やっぱりか……。訊いてくれルシフェル。闇の書を完成させてもはやてが死ぬ」
【はい、知っています】
ルシフェルの答えに王騎は驚きを隠せないでいた。
「なっ!? 知っていて尚、蒐集をしているのか!?」
【例え蒐集しなかった場合、彼女の麻痺の進行が速くなり、今頃死んでいます。それなら、蒐集して延命するほうが良いと判断しただけです】
それに、一応はやてが助かる方法はあるんだ。
「……お前、本当に機械か?」
「っ!?」
だが、唐突に王騎は疑った。流石に矛盾することが多いのに気づいたか?
「お前のやっていることは論理的じゃ無い。明らかに感情が入ってる」
マズイな……。今正体を知られたら後々面倒な事になる。
「やっぱりお前…………自分の主がいるんじゃないか? そしてそいつは転生者で今ははやての側に居るんじゃないのか?」
……は? ……ああ、なんか変な方向へ勘違いしているみたいだ。まったく……少し冷や汗が出たじゃないか!
ルシフェル、そういう事で頼む。
【……貴方の言う通りです、天城王騎。私にはマスターがいます。私の行動は全てマスターの指示によるものです】
「……おかしいと思ったよ。それじゃあ、そのマスターとやらに言っておいてくれ。今から俺が教える、はやてとシグナム達が助かる方法を」
っ!? ある……のか? はやてとシグナム達が助かる方法があるのか!?
【それは本当ですか?】
「ああ……今からそれを説明する」
王騎はその方法を教えてくれた。その事を簡単にまとめると……
1,このまま蒐集して『闇の書』を完成させる。ただし、一度シグナム達を蒐集させる必要がある。
2,はやてを闇の書を融合させて、はやてが中から管理者権限を使用し、守護騎士システムを送還、修復して呼び出す。
3,はやてが闇の書から抜け出す。
4,暴走した防衛プログラムを倒し、闇の書の核を破壊する。
ざっとこんなものだろう。ただ、これにはとても危険が伴う。それを乗り越えるには、はやての精神が強くないとダメだ。そうでないとはやてがそのまま閉じ込められてしまう可能性が高くなる。
そして、管理局の妨害。いや、管理局と言っても一部の者が妨害するようだ。ただ、闇の書を完成させるまでは向こうと目的が一緒なので、完成すれば王騎がクロノに情報を流して逮捕させる。
しかし、これらを万端にやったしても成功率は30%前後だそうだ。分の悪い賭けだが、試してみる価値はある。
【……分かりました。確かに主へ伝えましょう】
「助かる。俺もできる限りは協力する」
王騎には感謝しないとな。借りが一つ出来た。
【それでは、私はシグナムの所に行きます】
「俺も転移で後を追いかける。フェイトを仮面男から助けないといけない」
【そうですか。なら、私は一足先に行きます】
「ああ」
俺はそう言うと最高速度でシグナムの居る場所へ向かう。