小説『魔法少女リリカルなのは−九番目の熾天使−』
作者:クライシス()

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第二十話『家族のために』
          






 闇の書が消え去り、町に平穏が訪れてから三日後

「……ここでいいだろうか?」

「ああ、此処なら人目に付かないだろう」

 俺はリィンと一緒に以前俺が野宿していた山の頂上にやって来た。空はしんしんと雪が降っていて、山を真っ白に化粧していた。

 何故、俺とリィンが二人だけでここに来ているのかというと、話は事件の翌日に戻ることになる。 


 ――――二日前


「んぅ……朝か……」

 闇の書の事件が解決し、はやての呪いの進行が止まったことを確認できたことで漸く安心して寝ることが出来た。おかげでぐっすりと眠れた。

「〜〜ッ! ……寒いな」

 布団から出ると猛烈な寒気に襲われる。カーテンを開けて外を見ると雪が降っていた。周囲は真っ白な雪化粧に覆われている。

 時間がまだ早朝なせいか、足跡一つ無く絨毯のように美しい。

 そのことに感嘆しつつ俺は居間に向かい、ホットミルクを作ってソファーに座って飲む。するとリィンが起きたのか、今に入ってきた。

「おはよう、煉。随分早いな?」

「ああ、おはよう。なに、ちょっと寒くて目が覚めただけだ。ま、時間帯も良い感じだったから都合が良い」

「そうか」

 そう言ってリィンは静かに俺の隣に腰を下ろした。

「……」

「……」

 互いに沈黙を保ち、時折ホットミルクを啜る音が響くだけとなった。

 若干沈黙に耐えかねてリィンの方を見ると何だか浮かない顔をしていた。何かを悩んでいるようにも見えたのだ。

 先ほどから俺の隣にいるのも、朝早く起きたのも俺に話があったのではないだろうか? 

「煉、話が……ある」

 俺から話を聞いてみようかと思った時、リィンの口が開いた。しかし、その声はとても重い口調だった。

「ん、どうした?」

「実は……」

 そこでリィンの話を聞いた。







 だが、話を聞き終えると俺は激昂した。








「なんだよそれ! なんで……」











「仕方ないのだ。元よりこうなる運命にあった」










 リィンの言った内容は衝撃的なものだった。









 先ず、第一声が――――自分を殺してくれ……だったのだから。










「私が残っている限り、遠からず防衛プログラムを再生して暴走してしまう。さらに元のプログラムが既に存在しないため、本来の状態には戻せないのだ」

「……つまり、助かる見込みは無い……と?」

「……ああ」

「……」

 じゃあ何だ? 最初っからリィンフォースは助かることは無いというのか?

「俺達の努力は……無駄だったのか?」

「煉、そんなことを言うな! お前達がやってきたことは無駄なんかじゃない。お前達が努力してきたから主はこうして今も生きているのだろう?」

 リィンがバカな事を考えた俺を叱咤する。

「……そうだな」

 そう、はやてが生きているのだ。決して俺達の努力が無駄なんかじゃ無い筈だ。

 でも、やはり納得は出来ない。理解したくない。胸が苦しい。

 たった数週間しか過ごしていないのに、俺はリィンに情が湧いてしまったようだ。

「どうにも……ならないんだよな?」

「ああ……」

「可能性は……無いんだよな?」

「ああ……」

「そう、か……」

 元のプログラムが存在しない以上、修復のしようが無い。助けようが無いのだ。

「だから、煉。私を……お前の手で終わらせてくれないか? 私は主にそのような事をさせたくはないし、悲しんだ顔を見たくない」

「……俺だったら良いのかよ?」

 まあ当然と言えば当然だろう。過ごしたのはたった数週間だ。リィンの中では俺が序列で一番下なのだろう。だが、そう思うとやはり悲しいな……。

「バカを言うな。私とてお前に頼むのも辛い。たった数週間だが、お前は私達や主の事を案じ、戦い、過ごして来たでは無いか。これでも私はお前の事を家族と思っている。だが、やはりお前にしかいないのだ、こんなことを頼めるのは」

 その言葉を聞いて安心した。

「……一晩、気持ちを整理する時間をくれ」

 俺は自分を納得させる時間が欲しかった。

「ああ……一晩なら問題無いだろう。そして、ありがとう煉」

「……まったく、酷い義姉だ」

 本当に酷い義姉である。身内に殺させるなよ……。

「ふふっ、私には勿体ないくらいに良い義弟を持ったよ」

「……」

 俺はリィンの言葉に少し照れながらそっぽを向いた。

 リィンはそんな俺に微笑んでソファーから立ち上がる。

「さ、私はそろそろ皆を起こしてくる」

 時刻は既に七時半を過ぎている。本当なら六時には起きているのだが、昨日の件で疲れているのだろう。

「ああ……」

 俺はリィンが二階に上がった後、ホットミルクに口を付けた。

「……冷たい」

 しかし、ホットミルクは冷めてとても冷たくなっていた。











 ピンポ〜ン!

「はーい、今出まーす」

 インターホンが鳴ってシャマルがドアを開けると、そこにはすずかやアリサ、高町やフェイトがいた。

「「「「こんにちわ、シャマルさん」」」」

「あら、こんにちわ皆。今日はどうしたの?」

「えっと実は今夜、私の家でクリスマスパーティをやろうという事になったんで、はやてちゃんやシャマルさん達を誘いに来たんです!」

 高町がパーティの招待をしてくれた。

 因みに、何故今はやて達が自宅に居るかというと、俺がリンディ・ハラオウンと交渉して四日だけ自宅で過ごすことを許可して貰った。向こうは大分渋っていたが、そこはほら、地球をぶっ壊そうとした管理局の事をネタに再度交渉をしたら頷いてくれた。

 くくっ、向こうはイイ表情をしていたな。

 閑話休題。

「え? でも、私達は……」

「いいんです。もう、気にしてませんから」

 高町がフェイトと顔を見合わせてニッコリと笑った。シャマルはそのことに嬉しく思い、少しだけ涙が出た。

「ありがとう、なのはちゃん」

「うん! 所で、はやてちゃんは居ますか?」

「あ、うん。ちょっと呼んでくるわね」

 シャマルがはやてを呼びに行ってしばらくすると、車椅子に乗ったはやてがやってきた。

「こんにちわ、皆」

「あ、はやてちゃん!」

「パーティの誘いに来たわよ」

「うん、シャマルから聞いとるよ。なのはちゃん、是非ウチ等も参加させてもらうな」

「うん!」

 その後、はやては家に四人を招き上げる。今、居間には俺とリィン、シグナムとザフィーラがいる。

 他のメンバーは問題無いが、俺に問題があった。いや、ただ面倒事がというか、騒がしくなる火種ということで問題があったのだ。

「「「「おじゃましまーす」」」」

「邪魔するなら帰れ」

「開口一番に酷いな?」

 そしてついつい条件反射で言ってしまった俺。その言葉に対して即座にツッコミを入れるリィン。

「あはは……」

「「……え?」」

「……?」

 俺の言葉にすずかは苦笑しフェイトは何処かで会ったかという疑問を浮かべ、高町とアリサは俺に驚愕して目を見開いていた。

「な、なな……」

 こっちを指さして口をパクパクさせるアリサを横目に俺はカップに注いだコーヒーを飲む。

 さて……後は耳栓を付けて、と。

「何でアンタが此処にいるのよぉーーーーー!?」

 予想通りの反応に俺は満足し、耳栓を外す。

「大声を出すなアリサ。近所迷惑だ」

「うぐっ……って、そんなことより! なんでアンタが此処に居るのよ!?」

「何故と言われてもな……。ただ居候しているだけなのだが?」

「なっ!?」

 もう訳が分からないといった感じに頭を抱えて暴れるアリサ。それをすずかが宥めている。

「あの……」

 しかし、そこで高町が俺に声を掛けた。

「煉君……だよね?」

「ああ、少しぶりだな高町」

「うん。……でも、何ではやてちゃんの家に?」

 高町はジト目で俺を見た。 

 高町は恐らくこう言いたいのだろう。「何で私の家じゃダメではやてちゃんの家なら良いの!?」的な。

「う〜ん……簡単に言うと拉致された」

「ええ!?」

「人聞きの悪い事を言うな!!」

 スパンッ! と良い音が俺の頭から聞こえた。後ろを振り返るとはやてがハリセンを片手に持ってそこにいた。

「いや、事実だろ? 初めて此処に来た時、お前が強引に家に連れ込んだだろ?」

「うっ……それは……」

 どうやら最初にあった出来事を忘れてはいないようだった。確かにアレは拉致と言われても仕方ないと思う。

「ま、まあそれは置いておこうよ。それより、煉君も参加するよね?」

「俺か? ……いや、遠慮しておく」

 別に参加しても良いが、一つ問題がある。それは士郎さんと恭也さんだ。

 以前、もう接触はしないと言っておきながら接触し、尚且つ高町なのはにも接触している。以前行ったときには敵意は無かったがそれでもよろしく思わないだろう。

「ええ!? なんで!?」

 断られるとは思っていなかったのか、かなり驚いている高町。っていうかコイツ、基本的にOK貰える事を前提に来ているだろ?

 まあ、普通は断らないよな……?

「いや、なんでと言われても……ちょっと用事が」

 苦しい言い訳だが本当の事を言う訳にはいかないだろう。

「なあ煉君、それってどうしても今日じゃないとアカン用事なん?」

「……」

 そこへはやてが俺の顔を覗き込むように聞いてきた。そして俺はその問いに答えられない。嘘だとすぐにバレるからだ。

「そうじゃないんやろ? なら一緒に行こ?」

「はやてちゃんの言う通りだよ! 一緒にパーティしよ!」

「アンタだけ除け者にしたら後味が悪いし楽しくないでしょ?」

「えっと、よく分からないけど参加した方が良いと思うよ?」

「煉君……」

 上から順番にはやて、高町、アリサ、フェイト、すずかが俺を参加させようと説得する。

 気持ちは嬉しいがやっぱりなぁ……? 

「う〜ん……」

「ああもう煮え切らないわね!! なのは、フェイト、すずか! 連行するわよ!」

「「うん!」」
「え? あ……う、うん」

 ちょ!?

「お、おい? 引っ張るなよ。ってか何故こうなる!?」

「アンタが素直に逝くと言わないから悪いんでしょうが!」

 ちょっと待て! 今、字が違わなかったか!?

 俺は三人に抵抗して動かないでいると、後ろから何かがぶつかり、そのまま座り込むように倒れる。

「あん♪」

 そして何かの上に座った感触と共に可愛らしい声が聞こえた。俺は後ろを向くと……

「もう、大胆やなぁ煉君は」

 はやてが居た。っていうか、俺ははやての上に座っているのか!?

 兎に角俺ははやての上から退こうとするとはやてに抱きしめられるように腕を回された。

「はい、連行♪」

「ま、待て!? この格好は流石にマズイ! 恥ずかし過ぎる!」

「逃げるからダメやで〜♪」

「何でいつもこうなるんだーーー!!」

 俺の叫びは虚しく響いた。

 結局、俺ははやてに懇願して逃げないというのを条件に降ろしてもらった。流石にあれは恥ずかしい。

 ただ、それを高町とすずかが羨ましそうに見ていたのは気のせいだろうか?


「「「「「「「メリークリスマス!!」」」」」」」

 パパパンッ! と全員がクラッカーを鳴らしてパーティが始まった。場所は翠屋を貸し切っている。メンバーは俺を連行した奴等以外に忍さんやファリンさん、ノエルさんに王騎もいる。当然、神崎はいない。

 最初に入った時、リィン含めたシグナム達は高町夫妻に事情を説明して謝罪をした。そのことに士郎さん達はあっさりと許してくれた。まあ、お人好し一家だから当然か。

 ただ、俺が居るのを見ると士郎さんは居心地が悪そうというか何とも微妙な表情をしていた。

 ほれ見ろ。やっぱりこうなるんじゃないか。だから嫌だったんだよ。まあ、自分が撒いた種だから仕方ないのだろうけど。

「……」
モグモグ

 俺は今現在一人で黙って食べている。因みに、会場は椅子を取っ払ってテーブルを並べているバイキング形式だ。

「むっ、この唐揚げ美味いな。むむっ、こっちのポテトサラダも中々……」

 と、感想を漏らしていた。いや、本当に桃子さんの料理は美味い。食べる序でに視線をはやての方へ向けると、すずかやアリサ、高町達に囲まれて幸せそうにしていた。それもリィンは微笑ましそうに見つめている。

 しかし、彼女は微笑ましそうに見ているが、同時に寂しさが見えていた。だが、彼女が見せた寂しそうな表情も一瞬で、心からパーティを楽しんでいた。

 そこで俺はふと思った。はやてに……まだ九歳の少女に家族を手に掛けるような行為をさせて良いのだろうか、と。そして、そのことに彼女が耐えきれるだろうか?

 どう考えても無理だろう。こんなにも幸せそうな顔をしている少女にそんなことをさせたくはない。俺はそう思った。

 だから俺はリィンの頼みを受けようと改めて思った。

「楽しんでいるかい?」
 
 俺が決心すると、隣から士郎さんが声を掛けてきた。

 ちょっとだけ警戒したが、敵意は無かったので心配ないだろう。

「ええ、それなりに」

「それは良かった」

 士郎さんが笑みを浮かべる。

「……」

 そして少しだけ沈黙が続くと士郎さんが口を開いた。

「あの時はすまなかった」

「は?」

 まさか謝罪の言葉が出てくるとは思わず、思わず聞き返した。

「前に君がすずかちゃんを助けてくれたときの事だよ。すずかちゃんを救ってくれたのに私は君の目を見て勝手に危険だと判断して警戒してしまった」

 士郎さんが申し訳なさそうに言った。

「もう関わらないと言ったあれ以来、君は月村に顔を出していなかっただろう? すずかちゃん、君が居なくなってから大分落ち込んでしまってね。忍ちゃんにかなり怒られたよ」

 あははっと苦笑する士郎さん。ってか、忍さんに怒られたのは意外だったな。

「別に構いませんよ。あの時の判断は間違っていなかったし、当然の反応だと思います」

「しかし私は―――「いいですから、もう」……そうか」

「兎に角俺は気にしていません。謝罪も不要です。だからこの話はここまでにしましょう」

「……ああ」

 まったく、相変わらずお人好しだなこの人は。

「あ、煉君! 見て見て! なのはちゃん達がな―――」

 はやては年頃の子供のようにはしゃいでいる。見ていて微笑ましい。

「分かったから落ち着けよ、まったく」

 だから俺もついつい笑みを浮かべてしまう。

「お? お前が笑うのは初めてみたな」

 そこへ天城がコーラを片手にやってきた。

「ん、そうか?」

「ああ、お前はかなりひねくれているからな。中々拝めるものじゃないぞ?」

 本人を前に随分な言いようだな。

「まあいい。で、お前も楽しんでいるか?」

「もちろんだ! それにしても煉がはや……八神の知り合いだったとは驚きだったよ」

「世の中狭いな」

「まったくだ。ははは!」

 天城は笑い、俺の正面に立った。

「煉、本当にありがとう」

 そして急に礼を言ってきた。

「ん、いきなりどうしたんだ?」

「俺、お前に会わなかったらずっとバカのままだったかもしれない」

「今でもバカだがな」

 俺は即答で言ってやる。

 あ、つい条件反射で言ってしまった。

「茶化すな! ……で、だ。本当に俺は感謝しているんだ。あの時、お前に相談して良かったと思っている」

「そうか、それは良かった。それで、足手纏いにならずに済んだか?」

 最初は本当にどうしようも無い奴だったがな。

「ああ、勿論だ!」

 彼は真っ直ぐな目でそう断言した。

 うん、実に良い眼をしている。俺より遙かに輝いて見えるぞ。自分の一言でこんな良い奴になったのなら、俺も晴れやかな気分になる。

「俺、お前の事を親友だと思っている。そう思ってもいいよな?」

「……」

 だが、この一言で悲しくなる。

「だ、ダメか?」

「……いや、そう思ってくれるなら俺も嬉しいよ」 

 だけど、彼が悲しそうな目をしてつい曖昧な事を言ってしまう

「そ、そうか! それじゃあこれからもよろしくな、親友!」

「……ああ」

 だけど、俺はもう決めたから……。


 それから幾分か騒ぎ、パーティが終わって家に帰宅した。そしてはやて達が寝た頃に俺は一人外へ出た。

「……寒いな」

 真冬の夜はとても冷たく、息が白く吐き出る。更に空からは雪が降っている。

 そして俺は携帯をポケットから取り出してある人への番号を押した。

『……はい』

「俺だ。急で申し訳ないが――――」

 







 
 翌朝の四時に俺は起きて居間に行く。すると、リィンもちょうど起きてきたかのように降りてきた。

「……おはよう。よく眠れたか、煉?」

「分かっていて訊いているだろ、リィン?」

「そうか、すまなかった」

 そう、今日が実行する日なのだ。当然俺はよく眠れることなんて出来なかった。

 リィンが謝って俺にホットミルクを渡してきた。 

「ああ、ありがとう」

 そして一口飲む。だが、味はしなかった。

「さて、それじゃあ早く行こう。はやてが……起きてしまうからな」

 俺はホットミルクを手早く飲み干し、支度を済ませた。必要な物は全てトランクに積み込み、ベクタートラップで収納したのだ。勿論、シグナムに選んで貰った服は持って行っている。どうしても手放せなかったからだ。

 その他の所持品は全て処分した。

「ああ……そうだな」

 そして外へ出る。 外は曇天で雪が美しく積もっていた。

「それじゃ、行こう」

 俺達はゆっくりと雪の絨毯の上を歩いた。





「ん? あれは……煉君とリィンフォースさんか?」







「……ん、ふみゅ……お水……」

 私こと八神はやては喉の渇きにより目が覚めた。時刻は五時ぐらいだろうか? 少し早起きしてしまったようだ。

「ううっ、寒いなぁ」

 朝のあまりの寒さに思わず身震いしてしまう。そして私は車椅子に乗り、居間に行った。そして水を飲んで流しに置こうとしたとき、ふと一つのコップが置いてあるのに気づいた。

「あれ? コレは……煉君のコップやな」

 昨日はなのはちゃんの家でご馳走になったから食器は全て棚にしまってるはずや。つまり、煉君も早く起きて喉を潤わしたのだろう。

 だけど、肝心な煉君がいない。庭を見てもいなかった。多分部屋に戻って二度寝してるんだろうと思い、私は気にせずに部屋へ戻った。

 しかしながら、部屋に戻っても異変に気づいた。一緒に寝ていたはずのリィンがおらんのや。ヴィータはそのまま寝ていたけど。

「……なんか、嫌な予感がするなぁ。何でやろ?」

 そしてこの時、私は嫌な予感がして煉君の部屋に向かった。

 や、別にリィンと煉君がそんな関係になる危険を考慮した訳やないよ? ま、まあ……別にリィンと煉君がこ、こ、恋人同士やからといっても気にせぇへんから!

 ……ふぅ。頭を冷やそう。

 ともかく、煉君の部屋に行ってノックしてみた。

「煉君、起きとる?」

 だけど返事が無かった。耳を澄ましても物音や寝息すら聞こえない。気になって部屋のドアノブを回してみた。

 ガチャッ

「え?」

 すると、部屋には鍵が掛かっておらず、呆気なく扉が開いてしまった。

 おかしい。いつもなら煉君は部屋に鍵を掛けて寝ている筈なんや。

 因みに、部屋に鍵を掛けて理由はというと、シグナムが原因だったりする。

 シグナムが買ってきた服を煉君に着せようと侵入するのが主な理由だったな。ただ、本人はめっちゃ嫌がっていたけど。

 って、今はそんなことどうでもよかった。

「は、入るで〜煉君。 ……なっ!?」

 私は恐る恐る部屋に入り……驚愕に目を見開いた。

「な、なんや……コレ!?」

 だって、煉君の部屋から私物が一切消えていたから。服も、小物も、財布も、全部無かったんや。

「っ!」

 私は慌てて玄関に向かった。すると、煉君の靴とリィンの靴が無かった。

 嫌な予感がさらに強くなり、私の直感が警報を鳴らす。そしてすぐにシグナム達を起こしに行った。

「これは……」

「い、いったいどういう事なんだこれは!?」

「な、何にもねぇじゃんか!」

「ど、どうして……」

 皆が煉君の部屋を見て唖然とする。

「と、とにかく煉とリィンフォースを捜しましょう! まだそう遠くへ行ってないはずです!」

「うん! ウチはすずかちゃん達に何か知っているか聞いてみる!」

 シグナム達は外へ探しに行き、私はすずかちゃん達に電話を掛けた。


『煉君? ううん、特に変わった様子はなかったけど?』

「そっか……。ごめんな、こんな朝早くに電話を掛けてもうて」

『気にしないで。私もアリサちゃんに電話を掛けてみるね』

「うん、ありがとうな。ウチはなのはちゃんに掛けてみるわ」

 すずかちゃんに聞いてみたけど結果はダメだった。

 だからウチはなのはちゃんに電話を掛けてみた。

『ごめんねはやてちゃん。私も心当たりが無いの』

「そっか。朝早うにごめんな?」

『ううん、別にいいよ。あ、お父さんお帰りなさい』

 どうやらなのはちゃんのお父さんがトレーニングから帰って来たみたいやな。なら、もう電話を切ろうか。

『あのね、煉君が今朝から居ないらしいんだけど、お父さん何かしらない?』

 でも、なのはちゃんはダメ元でお父さんに訊いてくれていた。

『え? 本当!? 分かった!』

 だけど、予想は良い意味で裏切られた。

『はやてちゃん! お父さんが煉君を見たって!』

「え、ホンマ!?」

『うん! ランニングしてたら煉君とリィンフォースさんが山の方に歩いて行ったって!』

 山に……? なんでやろ?

「分かった、ありがとう! ウチはすぐに追いかけてみるな!」

『あ、待って。私も行くよ! 今からはやてちゃんの家に行くから待っててね!』

「うん、ありがとな!」

 どうやらなのはちゃんも付いてきてくれるらしい。ホンマに良い友達を持ったな、ウチは。

 そして私は電話を切ると、すぐにシグナム達に念話で戻って来るように伝えた。

 しばらくするとなのはちゃんやフェイトちゃんや最近知り合った天城君も駆けつけてくれた。

 皆、ウチの為に集まってくれたらしい。

 シグナム達もすぐに戻って来て、ウチ達は山に大急ぎで向かった。

 だけどその時、私の胸は嫌な予感で一杯だった。
















「……此処でいいだろうか?」

「ああ、ここなら人目に付かないだろう」

 俺は山頂のちょっと開けた場所に到達した。途中からは飛行したので割と早く着いた。

 そして少しの間だけ沈黙が続き、やがてリィンは俺の前に立って言葉を紡いだ。

「……さあ、お前の手で……私を終わらせてくれ」

 リィンは両手を広げた。まるで待ち望んでいたものを迎えるかのように。

「…………ルシフェル」

【イエス、マスター】

 俺は両の掌をグッと握り、決心するとセラフを装着する。

「さあ……煉」

 2.5mの巨体を見上げながらリィンはそっと囁く。その時のリィンはまるで天使の様に美しかった。ふと、俺の頬を何かが湿らせた。

 頭部を外してそれを確認しようとする。その時、ガチャッと音がして顔の部分を覆っていた装甲が開く。

「あ……」

 それは涙だった。しばらく流していなった為、俺は最初に気付けなかった。

「なんだ、泣いているのか? 泣き虫だな、煉は」

 よくみるとリィンも泣いていた。

「リィンも泣いているじゃないか……」

「そう……だな。私だって感情ぐらいあるさ。涙の一つも出る」

 その顔が彼女を更に美しく引き立てていた。

「最後に一言だけ……いいか?」

「ああ」

 俺はほんの一時とはいえ共に過ごした家族に言いたかった。

「ありがとう……義姉さん」

「っ! ……ああ!」

 リィンが俺の言葉に目を見開き、さらに涙が溢れた。だけど、その顔は笑っていた。

「くっ!」

 俺は装甲を閉じ、『Akatuki』を展開する。そして、リィンの胸をその貫いた。

「あ……」

 リィンが声を漏らす。そしてゆっくりと、力なく俺に倒れかかる。それを俺は優しく抱き留めて、抱えるように雪の上に寝かせた。

「ああ、私は……やっと死ねるのか……」

 リィンが満足そうな顔をする。そして彼女の足からゆっくりと光になって消えるのを待った。

「い、いや……」

「……え?」

 しかし、そこで予想外な事態が発生した。

「いやぁああああああああああああああああああ!!!!」

 後ろを振り向くと、はやてや天城、高町やフェイト達が居たのだ。他にもアルフ、ユーノ、クロノもいた。しかし、何故か神崎もいる。

 そして悲鳴ははやてが上げていた。周りに居る者達は今の光景を見て唖然としている。

「あ、そんな……。待って……下さい、主! 煉は悪くn―――むぐっ!?」
 
 リィンが俺のために誤解を解こうするが、俺は手で優しく口を塞いだ。

「れ、煉!?」

「良いんだ、義姉さん」

「だ、だが……それ、で……はお前はっ!」

 俺ははやて達に見つかった瞬間、ある事を思いついた。

 最悪な考えなのかもしれない。だけど、今俺が考えられる物のなかではこれがベストだった。少なくとも俺はそう信じた。

 それは俺が悪になり、はやての悲しみを俺への恨みに変えて向けること。そうすれば必ずはやては俺を追って捕まえようとするだろう。だから俺ははやての足が治り、一人でも生きて行けるようになるまで生きて汚名を被るつもりだ。

「これで、いいんだ。だから、義姉さんは……安らかに眠ってくれ」

「あ……」

 そしてリィンが何か言おうとしたが、その前に光となって消えてしまった。

 俺は今し方抱きかかえていた手を見つめ、ギュッと握った。

「貴様ぁああああああああああああ!!!!」

 そして後ろから誰かの怒声が聞こえた。俺はゆっくりと振り返る。

「がっ!?」

 そして振り返った瞬間、頭部に衝撃と激痛が走り、吹き飛ばされた。

 10m程吹き飛ばされるが、俺は錐揉みしながら体制を整える。そしてズザザッと雪を滑りながら停止する。

 恐らく斬られたのだろう。そして斬った相手はシグナムだ。

「何故だ……」

 シグナムは俯いて呟いた。その声には困惑と怒り、悲しみが感じ取れる。

 俺は今、斬られた頭部の状態を確認している。装甲は破損し、顔の右半分が見えて血が流れている。それを俺は右手で押さえて隠している状態だ。

「何故……何故だ! 何故、私達を……何故、私達を裏切ったのだ!? 煉!!」

「「「「「え?」」」」」

 疑問の声を上げたのはシグナム達を除いたメンバーだ。俺はゆっくりと顔から手を離して血を流した素顔を見せる。

「な……え? なんで……?」

 高町は状況に頭が追いついておらず、困惑する。

「そ、そんなバカな!? お前が……ルシフェルが煉だったのか!?」

 天城は俺の正体に驚愕する。

「なんで……? なんで煉君が……? うそ……嘘やろ? え……?」

 そして、はやては困惑と驚愕で一杯になり、目の前の出来事を頭が拒絶する。

 殆どの者は理解が出来ず、唯一シグナムは怒りと悲しみで満ちていた。

【それはひつy―――「いい、俺が言う」……イエス、マスター】

 今まで通りにルシフェルが話そうとしたが俺が止めた。

「答えろ煉!! 何故……何故リィンフォースを殺した!!」

「っ!!」

 シグナムの言葉にはやての目が更に見開かれる。

 そして俺は最悪で俺にとって最良の演技をした。

「何故だと? それが必要だから、だ」

「貴様ぁああああああああ!!!」

 俺の言葉にシグナムは激昂し斬り掛かってきた。

 ギンッ!

 しかし、俺はそれを『Akatuki』で防いだ。

「ラケーテン……ハンマーー!!」

「鋼の軛!!」

 シグナムと鍔迫り合いになった瞬間、ようやくヴィータ達が動き出した。

「ふざけんなっ!! じゃあ何だ!? 今まで一緒に過ごしてきたのは嘘だったのかよ!! あたし達は家族じゃなかったのかよ!!

 胸が痛い。ヴィータの言葉は確実に俺の胸に刺さった。だけど、俺は決めた。

「家族? 俺には家族なんてものは……居ない」

「ふざけるなぁあああああ!!!」

 ヴィータ達は一瞬目を見開き、怒りで顔を歪ませた。

 俺は四人の攻撃を回避し、地面に着地しようとした瞬間、別方向から魔力弾が襲いかかってきた。

「……っかよ……」

 魔力弾を撃ったのは天城達だった。

「昨日の言葉も……嘘だったのかよ!!」

「くだらん」

「っ!? れぇええええん!!」

 上空から多数の天城の魔力剣が飛来する。ソレを回避し、バリアで防ぐ。

「どうして、どうしてあんなことを!?」

「必要だからだと言った筈だ、高町なのは」

 さらに高町たち管理局組からも魔力弾の雨やバインドが襲いかかる。

 はやては未だに動いていないので10対1にという構図になった。

「殺害容疑で現行犯逮捕する!」

「やってみろ」

 クロノからの攻撃をいなしてカウンターを入れ、

「アンタは本当に人間なのかい!!」

「人間なら、あんなこと出来るものか!」

「人間なんてとっくの昔に辞めたよ」

 アルフの拳を打ち返して弾き飛ばし、ユーノのチェーンバインドを斬り裂き、

「あなたは、絶対に許せない! 絶対に捕まえてみせる!」

「やれるものならやってみろ」

 フェイトの魔力刃を受け流し、蹴り飛ばす。

「あたしはお前の事を……本当の家族だと思ってたのに!!」

「知ったことか」

 ヴィータのハンマーを避け、高町の方に殴り飛ばす。

「貴様に情けは掛けん! その命を持って償うがいい!!」

「御免被る、ザフィーラ」

 ザフィーラの拳を受け止め、腹部に一撃を入れて投げ飛ばした。

「どうして私達を裏切ったの、煉君!?」

「言葉は不要だ、シャマル」

 シャマルが魔力弾を撃ってくるが、『Stardust』で相殺した。

「私は、お前を弟のように思っていた! だが、もう貴様は家族でも何でも無い!!」

「だからどうした?」

 シグナムの剣を受け止め、弾く。

 だが、ふと声が聞こえた。

「……セットアップ」

 シグナム達の後方を見ると、黒い翼を生やしたはやてが俯いて立っていた。

「何でなんや、煉君? 何で……リィンを……」

 ゆっくり、悲しみを含めた声で問うた。俺はとても辛かった。だけど、それでも尚俺は言った。
 
「何度も言わせるな。必要だからだ。また何時暴走するかわからないからな。今の内に始末しておくのは当然だろう?」

「っ! あぁああああああああああ!!!」

 はやてが魔法陣を展開し、高町の砲撃魔砲のようなものを撃ってくる。俺は周囲の者達からの攻撃を防ぎながらだったので、バリアを張るしか無かった。

「ぐっ、おぉおおおおお!?」

 とてつもない威力だった。シールドエネルギーの9割が一瞬で持って行かれたが何とか耐えきった。

 そしてそこから11対1の戦闘が始まる。最初は何とか耐えていたが、ゼロシフトを使っていない状態でさらにまともに反撃したら彼等が死んでしまうために俺は防戦一方だった。そして、

「グングニル!!」

 はやての魔力槍が俺の腕を貫いた。

「ぐあっ!」

 肉体は無事なものの、痛みが激しかった。今の俺は所々に損傷している。

 一旦着地し、俺は息を整えた。

「大人しく降参しろ。いくら貴様とてこの人数では実力も発揮出来まい」

 シグナムが投降を呼びかける。だが、そんなことはしない。

 さて、そろそろか?

「お待たせしました」

 俺の後ろに仮面を付けた紫のウェーブか掛かった髪の長い女性が現れた。

「遅いぞ」

「それは仕方ありません。こちらも準備というものがありますから。昨晩に連絡をもらってすぐにと言う訳にはいきませんので」

「……それもそうだな」

「では早速……」

 その女性が懐から何かの装置を取り出す。そして魔法陣が展開される。

「くっ、逃がすか!!」

 シグナム達が一斉に攻撃をしようとするが、俺はその前に『Chaser』を全弾展開して射出する。内三発は俺の目の前に着弾させ、煙幕を作った。

「では、転移します」

 そして俺達は転移し、この場を逃げおおせた。









「くっ、煙幕か!?」

 煉の後ろに仮面を付けた女が現れた。私はレヴァンティンを構えて警戒する。そして女が何かを取り出して魔法陣を展開したのを見て私はすぐに行動した。煉は恐らくこうなることを予測してあらかじめ仲間を呼んでいたのだ。

 そして逃走するつもりなのだろう。

 なんて外道だ! もう奴は家族でも何でも無い。ただの裏切り者で私達の敵だ!

 だが、奴がミサイルを撃って煙幕を張り、さらに私達にも迫ってきた。だから私達は避けなり防ぐなりして対処しなければならない。だが、それが奴に逃げる時間を与えてしまった。

「くそっ! 逃げられたか……」

 ミサイルを切り払って煉の方を見るとちょうど奴が転移する所だった。私が行動するときにはもう遅く、奴は転移してしまった。

 辺りが沈黙に包まれる。

「……へん」

 しかし、主の声が聞こえたのでそちらを見ると、空中に浮遊している主が拳を握りしめ、涙を流しながら空を睨んでいた。そして言い放った。

「絶対に許さへん、煉君!!」

 主と繋がっている私にもその怒りは感じ取れた。今まで一緒に暮らしてきた家族のような者に裏切られたのだ。それは当然だろう。だから私も今此処に誓った。

 必ずリィンフォースの仇を……主はやてを裏切った事を償わせてやる!



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