小説『魔法少女リリカルなのは−九番目の熾天使−』
作者:クライシス()

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第二十一話『迷い人』 空白期編


       











 ―――二年後



 とある世界のとある場所


 朝早くに起きていつも通りにトレーニングをした後に彼からこんな話を聞かされた。

「それで一週間後に例の物をテストしようと思っているんだ」

「ああ、アレか。だが、あれはまだAI制御に問題があるんじゃないか? それと回路にも問題があると入っていた気もするんだが……」 

「あれが起動した際にどういった異常が発生するかこの目で見ておきたいからね。なに、失敗は発明に付きものだよ」

 そう言って彼は笑みを浮かべる。紫の長い髪に金色の瞳、さらには纏っている白衣のせいで悪役っぽい笑みに見えた。

 そんな彼の名前はジェイル・スカリエッティ。そしてここは彼の研究所だ。

 二年前の事件で俺は彼と密約を交わし、ここに住むようになった。

「まあ、俺は別に構わない。ただ、感づかれたら面倒じゃないのか?」

「心配しなくてもいいよ。万一アレが見つかってもそう簡単に復元出来る物じゃ無いよ。というよりも、それをさせないために君に頼むんだよ」

 ああ、コイツの意図が分かった気がする。

「つまり、暴走した場合には俺が処理するんだな?」

「流石は煉君だ。とても小学生とは思えない理解力だよ!」

 いや、人に任せておきながら胸張って言うなよ。ま、別にいいけど。コイツには世話になってるんだ。それぐらいならしてやってもいい。

「はぁ……ま、いいけどね。それじゃ、テストは何時するんだ?」

「ふむ、テストは来週の頭にでm『ドクター、至急研究室まで来て下さい』ん? どうしたのかね?」

 ジェイルと試作機のテストをする内容を聞いていると突然にモニターが浮かび上がり、ウーノに呼び出された。

『詳細は後ほどお話します。兎に角急いで研究室に』

「分かった」

「俺も行こうか?」

「ふむ、一応来て貰おうか」

 そして俺達は研究室に向かった。



「急に呼び出して申し訳ありません」

 俺達が研究室に入ると、ウーノが出迎えてくれた。

「いや、構わないよ。それよりも一体どうしたのかね?」

「はい、つい先ほどに今までに計測したことの無い空間異常が発生しました」

「ほぅ……」

 空間異常? 次元震とやらではないのだろうか?

 しかし、前例の無い異常なら違うのかもしれない。なんだろう……何故か行かなければならない気がする。

「ジェイル、俺が調査しよう」

 気がつくと俺はそんなことを言っていた。

「ん? いいのかい?」

「ああ」

「ふむ、なら頼むとしよう。それでは転送ポートに行くといい。帰りはアレを使ってくれ」

「分かった」

 ジェイルが言ったアレとは、簡易転送装置の事である。持ち運びが出来る分、使用回数が一度きりという使い勝手の悪い物だ。

 さらに座標もあらかじめ入力しておかなければならず、設定ポイントも一つだけだ。あくまで試作段階だが、実用化にはかなりの時間を要するとジェイルは言っていたな。ま、限定的な支援しか受けていないのなら当然か。

「煉さん、お気を付けて」

「ああ、行ってくる」

 俺は二人に見送られて転送ポートに向かった。









【転送完了しました】

 転移を完了すると俺は周囲を見渡した。目の前には広大なジャングルが広がっている。

「異常があった場所は何処だ?」

【ここより南東に50km程の地点です】

 ふむ、かなり遠いな。ま、セラフならすぐ着くだろう。

「ルシフェル、飛行形態だ」

 俺は管理局に見つかる前に調査を完了する必要があったので飛行形態にした。

【了解。飛行形態に移行します……変形完了】

 そして俺はブーストを噴かして高速移動した。

 移動を開始して30分と少しすると目標地点の近くまで来た。すると、ルシフェルから報せが入った。

【生体反応を感知しました。数、五つ。内の四つは中型の魔法生物と推測します。もう一方は人間と思われる反応です】

 人? この世界は無人世界の筈だが……。

【人が追われているようです】

 ……兎に角今はその追われている人を助けるか。

「あれは……子供か?」

 四匹の一本角が生えた虎のような魔法生物から必死で逃げている人物は女の子に見えた。髪が長く、細かったからそう思ったのだが、十中八九そうだろう。

 っと、観察している場合じゃ無い。早く助けよう。

 俺は『Stardust』を構えて狙いを定める。すると、女の子が木の根に足を引っかけて転けてしまった。その好きを見逃さずに一角虎(煉命名)が一斉に飛びかかる。

「ショット」

 反動で狙いがブレないように固定し、連射する。そして一角虎を蜂の巣にした。

「な、なんだ?」

 女の子は何が起こったか解らず呆然としていた。そこへ俺は降下して女性の無事を確認しようとしたのだが……

「大丈夫か?」

「なっ、ナインボール・セラフだと!?」

「まさか……嘘だろ、おい」

 俺は少女の顔を見て驚愕した。似ているのだ、知り合いに。しかも此処に居るはずの無い人物と。

「な、なんで此処に……」

 その少女とは……








 バチバチバチ、バチンッ!!

「うっ……こ、ここは……何処だ?」

 おかしい……。私は確か自室で酒を飲んでいた筈だが……此処は何処だ? それにおかしい所はそれだけじゃ無い。目の前には森林が広がっているのだ! あの荒廃した大地ではなく、かつて地球にあったであろう木々があるのだ!

 私は資料でしか見たことが無いが、すぐにこれらが木々だと分かった。

「む……何かやけに木々が大きいな。気のせいか?」

 しかしながら、周りにあるものが少し大きい。流石にガリバーと小人のような対比ではないが。資料でしか見たことが無いが、こんなに大きくはなかった筈だ。そうだな……例えば大人から子供の視線に戻ったような感じに近いな。

 …………ん? 子供?

「そういえば声も高い気が……え?」

 思わず少女のような声を出してしまった自分は悪くない筈だ。何故なら、私が自分の身体を見ると……

「……縮んでいる、だと!?」

 そう! 私が感じていたモノは周りが大きいのでは無く、私自身が縮んでいたのだ! しかも14歳ぐらいに!

「クソッ! これは一体どういうことだ! 私に何が起きたというのだ! まさかオーメルの仕業ではあるまいな!? いや、こんな事をするぐらいだからトーラスの変態共か!?
よし、出て来い変態共!! どうせ監視しているのだろう! 貴様等が来ないのなら私が出向いてやる! 首を洗って待ってろよ!!」

 ……………………………。

 む、何の反応が無いだと? 変態共なら話すぐらいならすると思うのだが……。いや、まさか……な?

「まさか、トーラスの仕業でも無いのか? いやしかし、この状況を作り上げるのなら説明が付かん。……むぅ」

 私は考えた。だがどう考えても説明が付かない。私をこんな目に遭わせた奴の目的も、メリットも、理由も全て分からない。そもそもどうやって私の体を縮めたのだろうか?

 いやまあ……昔の自分に若返ることが出来た事に関して実際は満更でもない気がせんでもない、うん。女性なら誰しもが思い描くだろう若返りだ。少しはロマンもあって良いと思う。

 いや、話が逸れたな。元に戻そう。

「まあ悩んでも仕方があるまい。今はこの状況をどうにかしよう」

 そう判断して私は森林の中を進んでいった。

「まったく、外の空気を吸うのはいつ振りだろうか?」

 私はしばらく進んで思わずそう呟いてしまった。

 思えば、()がいなくなってからもう数年が経っていたな……。

 奴は……突然に私の前から姿を消した。何の音沙汰も無く、ただ存在が急に消えてしまったかのようだった。

 こう見えても私は奴の事がかなり気に入っていた。カラードで奴を見つけた時はただ強くなりそうだからというだけだったが、気がつけばあいつの事ばかり考えていたな。

 私も焼きが回ったかと思ったが、満更でも無い。むしろそれが心地よかったきがする。まあ、交際すらしていなかったが。しかし……だがしかし! それでも何の連絡も無しに消える事は無いと思うぞ!

 奴が居なくなってからは私は毎日のように酒を飲んでいた。胸が苦しくて、切なくて、でもどこに居るかも分からず……捜しても痕跡すら無かった。

「……馬鹿野郎」

 悪態を吐いても別に許されるだろう? まあ、本来なら銃殺してもいいのだが……いや、拷問か?

 ガサガサッ!

「っ!?」

 そんなことを考えていると突然、茂みから音がした。私は警戒して音の正体を確認しようとした。

 だが、それがいけなかった。

「……これは何の冗談だ?」

 音の正体は一本の角が生えた虎のようなモノだった。いや、獅子か?

 資料で見たモノで似ているのはそれぐらいだと思ったが、私の知っているそれらには角は生えていなかったと思う。いや、そんなことよりも、だ!

「……マズイな」

 一匹だけならなんとか殴り殺せそうだったが、数が多かった。全部で四匹。間違い無く殺される。

 私は一目散に逃げ出した。

 本当に何の冗談だろうと思う。いきなり訳の分からない事が起きて訳が分からずに死んでいくのはゴメンだ。しかも喰われるという死に方は嫌だ。

「はぁはぁはぁ……あっ!」

 少しの間逃げ続けても逃れることは出来なかった。それどころか木の根に足を引っかけてしまい、転倒してしまったのだ。

 顔を上げると私に向かって飛びかかろうとする怪物。

 ああ……コレが私の最後なのか。何とも呆気なくて惨めな死に方だな……。

 そう諦めかけた時の事だった。幾つもの光が降り注ぎ、目の前の怪物達を皆殺しにしたのは。

「な、なんだ?」

 状況に頭が追いつかず、混乱していると私の前にソレは降り立った。

「大丈夫か?」

 それは真っ黒な機体だった。そして背中には二つの大型ブースターが取り付けられ、頭部には一本の角のようなものが付いていた。

 その姿を確認した私は驚愕に目を見開いた。

 そう、似ていた……いや、全く同じだったのだ。

「なっ、ナインボール・セラフだと!?」

 そう、共に歩み、私が一番信頼していた人物、レン=シノザキの愛機と同じだったのだ。

 ただ、私の知っている物よりかは遙かにサイズが小さいが。だが、次の一言で私はさらに驚いた。

「嘘だろ、おい……。ま、まさか……お前…………セレン……なのか?」

「何故私の名前を!?」 

 彼(?)は私の名前を知っていたのだ。そして親しい人の名前を呼ぶような感じで言った。
 私は親しい人物など奴を除いていなかった。皆死んでしまったからな。そしてそのことから導き出される答えは……

「……貴様、レンなのか?」

 半分は不安、半分は期待を込めて聞いてみた。すると、彼は光に包まれて漆黒の鋼の下をさらけ出した。そこにはレンの面影がある子供が立っていたのだ。

「ああ、俺だ……煉だ。」

「あぁ……煉……。この…………」

 瞬間、私は涙を流しそうになった。私が気に掛けていた……いや、認めようか。私が愛している人物が数年ぶりに私の前に姿を現したのだ。

 嬉しさがこみ上げてもう涙が溢れている。今、彼は帰って来たのだ。だから私は彼を……抱きしめ

「大馬鹿野郎ぉおおおおお!!!」

「ぐはぁっ!?」

 殴り倒した。そして馬乗りになってフルボッコにする。

「このっ! 私がっ! どれだけっ! 心配したとっ! 思ってっ! いるんだっ!!」

「ぐっ、がっ、ちょっ、ま、待って、くれ!」




 ―――――― しばらくお待ち下さい ―――――――




「ふぅ……スッキリしたな!」

「そ、そうか……」

 一通り言いたい事は言って殴ったら暗い気持ちが吹き飛んでしまった。うん、やはり言いたい事を言う(肉体言語)のは大事だな!

「ん? どうしたのだ、レン? 随分と面白い顔になっているな?」

「いや、それはセレンが…………ごめんなさいなんでもないです」

 どうしたのだ煉? 私の拳を見て何を怯える?

「ま、まあ話したいことはまだあるが、今は此処を離れよう。危険だからな」

「そうだな。まだ話したい事はあるから、後で覚悟して置けよ? 私がこの程度で満足すると思ったら大間違いだ!」

「は、ははは…………はい……」

 うむ、素直でよろしい。

「じゃ、じゃあ俺の側まで来てくれ。転移するから」

 ん? 転移だと? それは一体どういう……

【転送、開始】

 そして私は機械のような声を聞くと目の前の風景が変わっていった。


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