小説『真剣でD×Dに恋しなさい!S』
作者:ダーク・シリウス()

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五月七日(木)



―――放課後


「一誠殿」


「ん?」


「突然で申し訳ないのですが我が九鬼家に来て下さらぬか?」


「どうしてだ?」


「多忙の英雄様と揚羽様のスケジュールでは今日しかお休みが無いんです。それで今日は貴方様を招待し

パーティを開く事に成ったのです☆」


「あー、あれか・・・・・。最近そんな話を聞かないから仕事が忙しいんだろうと思ってはいた」


「九鬼家は今頃、一誠殿を招く準備が終わっている頃であろう。後は一誠殿が九鬼家に

赴いてくれる事だけなのです」


「・・・・・俺の為に多忙の中、休みがやっと取れたのにわざわざパーティの準備をしてくれているお前と

揚羽に申し訳がないからな。分かった、お前の家に行こう」


「お心遣い感謝します。では、行きましょう」


「イッセー、またねー」


「私達も行きたいところですが私達が行くと英雄達の再会に私達もいると無粋というでしょう」


「英雄の家で存分に楽しんで来い」


「ああ、そうするよ」


冬馬、準、小雪の3人と別れ英雄とあずみと共に行動し人力車に乗って

あずみが人力車を引いて英雄とあずみの家である九鬼財閥極東本部に向かった。


―――九鬼財閥極東本部 某室


「この部屋の奥に揚羽達が?」


「うむ。その通りだ」


巨大な門のような扉の前に一誠達が佇んでいた。


「俺が開けないと?」


「はい☆今日は貴方様が主役ですから☆」


「・・・・・分かった」


両手を扉に触れ押し出す。扉が徐々に開いて行き扉の隙間から光が漏れ一誠を照らした。

そして、完全に扉が開け放たれた瞬間。


パンッ!パンッ!パンッ!


大量の破裂音と音楽が流れ出した。


「おお・・・・・」


一誠1人の為に用意されたパーティにしては豪勢だった。九鬼家従者達が道を作って待機しており、

天井から『祝!旅人、兵藤一誠の帰還!』と看板が吊るされて飾られていた。


「おいおい、俺一人の為に大袈裟じゃないか?対して何もしてはいないのによ」


「フハハハ!何を言う、一誠殿は我と父上の命を救った恩人ではないか!寧ろ、まだ小さい方であるぞ?」


英雄とあずみが歩を進め一誠も続く。一誠は英雄とあずみについていくと銀の長髪に×印の傷が額にある

3人の人物と4人の男女がいる所に歩を進めた。


「母上、姉上、紋白。ただいま帰りました」


「英雄、あずみ、お帰りなさい。問題なく旅人殿を招きましたか?」


「はっ、何も問題なく。逆にお心遣いをされました」


「当り前だろう。九鬼財閥は人材不足で仕事が多忙なのは俺でも知っている。局さん、久しぶりです。

わざわざ俺の為にパーティを開いてくれるなんて別に良かったんだが・・・・・」


「旅人殿も息災で何よりです。ですが、貴方には恩がある。とても返しきれない恩を・・・・・。

ここに帝様が居られないのが誠に残念だが、帝様の分まで我が旅人殿と話しをしよう。」


「何か、泊まり込みになりそうだな」


「構わぬ。今夜は我が家に泊まっていくといい。久しぶりに旅人殿と再会して我等は嬉しいのですから」


着物を着込んでいる女性が薄らと笑んでいると純白のドレスを着込んだ女性が近づく。


「旅人殿・・・・・いや、これからは一誠と呼んでも?」


「ああ、いいぞ」


「―――ようやく、この時を我は待っていた!」


女性は一誠に抱き付いた。一誠も抱きついてきた女性を抱きしめ口を開く。


「―――綺麗になったな。その純白のドレスが更にお前を綺麗に見せてくれているんだろうな」


「フハハハ、一誠に言われると恥ずかしいな」


「改めて久しぶり。揚羽」


「久しぶりだな。一誠」


一誠の顔を見詰める揚羽と呼ばれた女性と揚羽と呼んだ女性の顔を見詰める一誠は互いに挨拶をした。


「・・・・・と、お前等も久しぶり。元気でいるようでよかった」


「ひ、久しぶり!げ、元気でいて義経は、あ、安心した!」


「ほら、そんな緊張したら旅人さんも困っちゃうよ?もっとリラックスしなくちゃ」


「まあ、その表情が可愛いんだけどねぇ」


「けっ、何で俺まで参加しなきゃいけないんだ。どこかで俺を狙う組織がいるかもしれねぇのによ」


「フハハハ!久しぶりだ、旅人殿!手紙にも書いたが我は武神を倒した旅人を感謝している!」


「どういたしまして。それで与一、どうしてお前はそんな風に成ったんだ?」


「自分の置かれている環境に反抗期なって中二病になっちゃったんだよ。与一は・・・・・」


「・・・・・昔のあいつの生き写しが存在するとは・・・・・」


手で頭を押さえ呆れた表情を浮かべる。


「あいつ?」


「俺も与一みたいな奴を知っているんだ。しかもその時はまだ小学生」


「ふーん、じゃあそいつは与一と出会ったら恥ずかしい思いをするだろうね」


「まったくだ」


「旅人さん」


「おっと、英雄達から聞いているだろうけど俺は『兵藤一誠』と名乗っている。そっちの方で

これから好きなように呼んでくれ」


「それじゃ、私は一誠君って呼ぶね」


「私は一誠と呼ぶよ」


「義経は・・・・・弁慶と一緒で一誠と呼ぶ事にする」


「何時も通り兄貴と呼ぶぜ」


「我はイッセーと呼ばせてもらおうか」


「一誠殿とこれからは貴方をそう呼ぶ事にする。これからよろしくお願いする」


「ああ、よろしく」


局と握手をした。不意に演奏が始まった。一誠は突然の演奏に不思議がっているとスッと

揚羽が手を出してきた。


「我と踊ってはくれないだろうか?―――元、九鬼家従者部隊序列0位であった一誠よ」


「・・・・・」


徐に制服を掴みバッ!と脱いだ瞬間、九鬼家従者の執事服を着込んだ一誠の姿へと一変した。


「正確に言うと01番隊だ。その呼び名で言われたのは久しぶりだな。九鬼財閥にバイトで入った

つもりだったが、ヒュームの目に留まって何故か九鬼家従者の執事をやらせて気が付けば零番隊にまで

上り詰めた記憶がまた懐かしい」


「無名だった執事が01番隊にまで上り詰めた伝説の執事と九鬼家従者部隊の中では今でも

伝説として語られている」


「なんか、恥ずかしいな」


「その上、英雄と父上の命を救ったのだ。一誠と過ごした楽しい日々は忘れる訳がない」


「それは俺も同じだ」


揚羽の手を取り一誠はもう片方の手を揚羽の腰に回して演奏と合わせるように踊りだす。


「あの時の事は一日たりとも忘れてはいない。ましてや、俺が執事をする事なんて初めての

体験だから少しは緊張したぞ」


「一誠、また九鬼家従者部隊に戻らぬか?再び我の付き人として・・・・」


「おいおい、小十郎がいるじゃないか。揚羽を想う気持ちならあいつは、誰よりも負けてはいないぞ」


「彼奴はまだ、未熟者だ」


「・・・・・バッサリと切り捨てたな。だが、いいさ。俺は今の生活が充実している。それに今さら俺が

九鬼家従者に戻っても既に間に合っているだろう?」


「我は一誠と共にいたいのだ。その願いは叶えられぬのか?」


「毎日とは言えないけど俺はお前に会いに行くぞ。それでもダメか?」


「ダメだ。それに約束したではないか。『お前も英雄も俺が守ってやる』と」


「ぐっ・・・・・それをここで持ち出すか」


「一誠、執事がダメなら我と婚約し、婿に成れ。そうすれば九鬼はハーレムを許容するから義経達とも

結婚が出来るぞ」


「・・・・・」


「寧ろ、あいつらは少なからず一誠に好意を抱いている。我とて応援はするが負ける気はない。

我も一誠に好意を抱いているのであるからな」


「・・・・・保留でいいか?考える時間もくれ。必ず答えを出す」


「うむ。今すぐとは言わない。じっくりと考えてから答えを言ってくれ」


英雄達と従者部隊に見守られながら2人は踊り続ける。数分後、演奏が終わり英雄達の許へ戻る


「良いダンスだった。これが大会だったら間違いなく優勝ものだ」


「フハハ、我と一誠ならどんな事をしても上手くいくであろうな」


「姉上、一誠殿。見事でしたぞ」


「惚れ惚れするダンスでした」


「揚羽とダンスの相性が良いかもしれないな」


「そう言ってくれて我は嬉しいぞ」


嬉しそうに笑む揚羽。その様子を見て局は短く首を縦に振った。


「うむ。では、夕食までにはまだ時間がある。それまで部屋で待っていてくれ」


「・・・・・まさかだと思うが、俺の部屋はまだあるのか?」


「その通りだ。何時か戻ってくると思いとってあるのだ」


「あの1人じゃあ余裕過ぎる豪華な部屋がまだあったとは・・・・・」


「忘れてはいないと思うが一誠の部屋に案内をしよう」


「揚羽、お前はアレをするのであろう?一誠殿の部屋には・・・・・義経達に任せなさい」


「むっ、そうであった。すまないが我は用事がある。義経達に案内してもらって夕食の時間までに

ゆっくりとしてくれ」


「ん、分かった」


「ではな」


揚羽はこの部屋から退出すると一拍して弁慶達と一緒に部屋に案内してもらう。


―――01番隊室


「おー、懐かしい。あの頃のままだ」


「此処で良く私達は、一誠君が休んでいる時に狙ってきたもんね」


「やっぱりそうだったか。十中八九、俺がのんびりしていると必ずお前達が遊びに来ていたもんだから

狙ってきていると思ったぞ」


「め、迷惑だったか・・・・・?」


「いや、そうでもなかったさ」


ガチャと扉を開け放つ一誠の目に飛び込んできたのは


「ファック!遅いぞ、一誠!」


「おかえりなさいませ」


2人のメイドがソファーで寛いでいた。


「・・・・・不法侵入が適用されるか?」


「え、う、うーん・・・・・」


「冗談だ。久しぶりだな、ステイシーと李」


「ハハハ、久しぶりだなぁおい!元気にしているようでロックだぜ!」


「はい、お変わりがないようで安心しました。席をお代わりしますか?」


「ステイシーも相変わらず元気そうだな。李も相変わらずクラウディオの直伝の

ギャグをしている訳か・・・・・」


2人のメイドと対面するソファーに座り義経達も好きなところに座りだす。


「そう言えばヒュームとクラウディオが見掛けなかったがどうした?」


「紋白と一緒ではないのか?」


「・・・・・まぁ、クラウディオは兎も角ヒュームはどうでもいいか」


「それにしてもお前は凄い事をしてきているようだな」


「ん?」


「日本海の上空に浮かぶ複数の巨大な大地、ドラゴン、武神を倒して有名じゃん」


「あー、それか。別に出しゃばるつもりはなかったけどな」


「で、お前は従者に戻る気はあるのか?」


「いや、ないな」


「ファッーク。何で戻らないんだよ?」


「何でって、俺がいなくてもヒューム達がいるから問題ない筈だぞ。それに俺は縛られる生活が嫌いだ」


「そういえば一誠君が九鬼家にバイトしようとした理由は知らないなー」


「理由か?単純に旅に出るのに必要な資金が必要だったから給金が良い仕事を探したら此処だったから

バイトしようとしたらその場にいたヒュームに拉致られて執事に成った」


「何でヒュームさんが・・・・・?」


「知らん。俺がバイトしようと希望した実務関係だと知ると有無を言わさず『そんな仕事をするぐらいなら

執事に成れ。貴様に拒否権は無い』と強制的に従者部隊に入隊された」


「しかも俺の執事としての仕事と実力が揚羽達の目にも留まりヒュームの補佐として

九鬼家従者部隊零番隊01に昇格されたんだよなぁ・・・・・」と苦笑を浮かべながら口にした。


「しかも、英雄と帝の命を救ったら揚羽が俺に好意を向けてくるようになって局が俺を気に入って

揚羽の付き人として傍にいさせるから自分の立場に戸惑った」


「じゃあ、従者を辞めた訳は?旅人がもういないと聞いて私達はショックを受けたんだよ?」


「義経ちゃんが泣いちゃうほどだったもんね」


「せ、清楚さん!それは言わない約束・・・・・!」


「あ、そうだったね。ふふ、ごめんね?」


「あー、悪かったな。義経」


一誠の隣に座っている義経の頭を撫でて申し訳なさそうに謝罪の言葉を言った。


「それで、俺が辞めた理由も単純だ。旅に必要な資金が貯まったからだ。だけど執事を辞めるのに色々と

苦労をしたぞ・・・・・」


「その事は従者部隊の間でも有名です」


「というと?」


「九鬼家従者部隊零番隊のヒューム・ヘルシングと一対一で戦い勝利したら従者部隊から除外してもらい

正式に辞める決闘をしたのです」


「まあ、余裕で倒したけどそれでも俺を辞めさせようとしてくれなかった。特にずっと一緒にいた揚羽が

『辞めないでくれ!ずっと私の傍にいてくれ!』と泣きながら懇願されて・・・・・」


「私達の知らない所でそんな事が起きていたんだ・・・・・」


「お前達も悪かったな。一言ぐらい別れの言葉を告げたがったけど周りが俺を引き止めようと必死で

説得してくるからそれどころじゃなかった」


「それほど一誠の事が気に入っているんだと義経はそう思う」


「まったくだぜ、仕事が気に入らないから辞めたのかと思っていたんだぞ?」


「私も必死に止めたのに貴方は逃げるように去って行って悲しかったです」


「・・・・・悪い」


バツ悪そうに一誠が謝罪の言葉を発した。しかし、李が首を横に振って一誠を真っ直ぐ見詰めて言った


「ダメです。言葉だけでは私は許しません。―――私を抱きしめて『李、好きだ、大好きだ。愛している』と

言ってください」


「・・・・・何故、その要求をする。というか、俺はお前に好意を抱かせるような事を

してはいないと思うんだが・・・・・」


「曰く、一目惚れと言う奴です。あなたに組み敷かれ今まで闇稼業してきた私に『今度は光がある仕事をして

人並みの幸せを手に入れろ。俺も手伝ってやるから』と、優しい声音と共に温かな笑顔で言われては

誰だって貴方に一目惚れをしてしまう」


「あの時か・・・・・」


「もう一度言います。私を抱きしめて謝罪して下さい。それが私への謝罪です」


立ち上がって一誠に近づく。無言でソファーから立ち上がり黒い長髪を揺らしながら李へ近寄り、

胸の中に抱え込んだ。


「李、今まで寂しい思いをさせてごめん。李、好きだ、大好きだ、愛している」


「―――はい」


一誠の胸に顔を埋め背中に腕を力強く回して短く呟いた。


「―――で、李だけロックな思いをさせる訳にはいかないんだよなぁこれが」


ニヤニヤとステイシーが近づき、強引に一誠と李の間に割り込んだ。


「おー、久しぶりにお前の温もりだ。お前ってロックな塊だな」


「お前も温かいな。ロックなほどに」


「―――っ!へへ、嬉しいぜ。お前とまた会えてよ」


「ああ、俺もだ」


李と割り込んできたステイシーを強く抱きしめた。俺はここにいると、そう想いを伝える為に・・・・・。


コンコンッ


「誰だ?」


『クラウディオです。晩餐の準備が出来ました』


「ん、分かった。それじゃ、行こう」


知らせに来たクラウディオの言葉に一誠達は部屋から出ようと扉を開け放つ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


―――リビングルーム


「お、和食がメインの料理とは珍しいな。どれもこれも美味しそうだ。・・・・・俺の所だけだけど」


「不満であるか?」


隣の席に座っている局が訊いてきた。一誠は苦笑して首を横に振る。


「いや、不思議だと思っている。それに・・・・・」


チラッと揚羽に視線を向けた。何時もは堂々と勇ましく覇気がある揚羽だが、少しそわそわと

落ち着かず一誠を気にしているようでたまに視線を送ってきている事に気づいている。


「―――揚羽の手作り料理を食べるのが楽しみだ」


「・・・・・!」


「ふふふ、そうか。一誠殿にはお見通しだったか」


「手紙に気に成る文章があって何かと思ったら・・・・・なるほど、これはびっくりした。

揚羽が作った料理に食べなくても想いが伝わってきそうだ」


「それは困ります。娘が一誠殿の為に懸命に作ったのだから食べて想いを受けて下さい」


「は、母上!」


「だな。では・・・・・いただきます」


「「「「「いただきます」」」」」


各々と食事を口の中に入れ咀嚼し胃の中に送り込む。一誠も目の前にある玉子焼きを

摘まんで口の中に入れる。


「・・・・・」


ジッと一誠を見詰める揚羽。次に味噌汁を飲んだ後、たくあんを食べるとご飯を、焼き魚を、

きんぴらごぼうを、一誠の前に置かれている揚羽が作った料理の数々をゆっくり噛んで全て平らげた。


「・・・・・」


「・・・・・うん」


「一誠殿。我の娘が作った料理に舌が合いましたか?」


「その前に訊くけど、俺の所に置いてある料理は揚羽が全部作ったんだと認知して良いんだよな?」


「うむ。その通りでありますぞ」


「そっか・・・・・揚羽」


「う、うむ」


「―――美味しかったぞ」


「っ!」


「それ以上に俺に対する想いが料理に籠もって更に美味しさが倍増して文句なしに美味かった」


「では、揚羽を嫁に出しても恥ずかしくないと?」


「その通りだ。成長しているぞ、局さんの娘は」


「当然である。我の娘だけではなく息子も成長し続けているのだから」


微笑みながら局は言った。揚羽は安堵のため息を吐き同時に薄らと顔を朱に染める。その後、

一誠は局達と雑談し全員が食べ終わると


「俺は最後で良いから先に従者部隊も含め皆は入ってくれ」


と、一誠の申し出に首を傾げる一同だが素直に言う通りに風呂に入った。


―――大浴場


「・・・・・はぁ」


湯煙が立ち昇る中、のんびりと金色の翼を展開して湯に浮かんでいる。


「結婚・・・・・婚約・・・・・か」


ポツリと呟く。その声音に哀愁が含まれていた。


「・・・・・無理な事だ。俺は―――この世界の人間じゃない。いずれ、あの世界に帰る。

だからそんな関係はできない」


独り言をつぶやき続ける。現在、一誠の言葉を従って全ての九鬼家従者部隊は先に風呂を入って最後に

風呂を入っていないのは一誠だけであり現在は一誠が大浴場を独り占めしている状況。


「・・・・・」


風呂から立ち上がり縁に座る。短く息を吐いて一誠は口を開く


「身体を洗って出るか、翼も洗わないと」


「―――では、手伝いましょうか?」


「ああ、たの・・・・・」


不意に掛けられた声に反応するが一誠はバッ!と顔だけ後ろに向けた。


「暗殺者だけに貴方の観察をしに来ました」


「・・・・・ジョークにもギャグにもなっていないぞ」


「・・・・・残念」


「何で風呂に入ってきた」


「貴方と入る為です。因みに私だけではございませんので」


「・・・・・マジかよ」


と言いつつ、一誠は既に気づいていた。奥から複数の気がこっちに近づいて来ている事を。


「よぉ一誠!洗いに来てやったぜぇ!」


「フハハハ、未来の夫と成る男の身体を洗うのは少し恥ずかしいが誠心誠意を持って洗う所存だぞ!」


「べ、弁慶・・・・・義経は恥ずかしい・・・・・一誠に肌を見せるなんて・・・・・」


「大丈夫、別に恥ずかしがる事なんて無いんだ。それに一誠にお礼をしたいんでしょ?私も一緒にやるから」


「そうだよ、皆で一誠君にお礼をしなきゃ。これだけじゃ足りないけどその一歩として身体を洗おうよ」


ステイシー、揚羽、義経、弁慶、清楚の五人がタオルを身体に巻いて現れた。


「わっ、金色の翼・・・・・天使の翼とでも言うのかな?とっても綺麗!」


「鳥のような翼だ・・・・・」


「柔らかいね」


「ふむ、一誠の体はやはり男らしい身体をしているのだな。鍛え上げられた身体をしている」


「それにとてもヒュームさんを倒した身体とは思えねぇ華奢な身体だな」


ジロジロと一誠の裸体を文字通り観察する。その行動する揚羽達に一誠は話しかけた。


「余り俺の体を見ないでくれ。少しばかり気恥ずかしいぞ」


「あっ、ごめんなさい」


「それじゃ、一誠君の身体と翼を綺麗にしよっか」


清楚の言葉に一誠は、ん?と首を傾げた。


「いや、翼をしてくれたらいい。身体は自分で洗う」


「何を言っておる。身体も洗ってやるのだ」


「百歩譲って背中だけでいい」


「ファッーク!男がなに恥ずかしがっているんだよ?ほら、あっちで身体を洗ってやるから移動するぞ!」


「あのな、別に恥ずかしいからじゃなく嫁入り前の女がいるんだぞ。普通に拒否するだろう」


「よいではないか、よいではないか」


「それ、古過ぎるぞ・・・・・」


台座がある場所へと半ば強引に連れて行かれ座らされる。


「1人、2枚というところだな」


「優しくしてくれよ。翼は鳥と同じで折れやすいから」


「カルガモと同じ?」


「・・・・・そうだ」


「分かった。義経はカルガモを触れるように優しく洗う」


少しカルガモと一緒にされた事に心の中でショックを受けながら首を縦に振った。義経は真剣な表情で湯を

金色の翼に濡らし羽を優しく撫でるように柔らかいスポンジで擦る。揚羽達も翼が折れないように優しく

丁寧に擦りだす。


「この感じで大丈夫か?」


「ん、いいぞ」


「分かった、義経は頑張る」


「んー、フワフワして羽が柔らかい」


「翼を洗うのってかなり気を使うんだね」


「ファックな程に結構めんどいなぁ・・・・・」


「・・・・・」


「ふふ、他人の身体を洗うのは小さい頃の英雄と紋白以外で初めてだな・・・・・」


「・・・・・皆、上手いなぁ・・・・・。(ステイシーが少し雑だが・・・・・まあ、いいか)」


揚羽達の洗い方に瞑目して感じていると・・・・・。


「一誠君、髪も洗おうか?」


「よろしく頼む」


「うん、頑張るね」


清楚が声を掛けてきた。不意に温かい湯が頭に落ちるようにぶつかってきて黒い長髪が濡れると、一拍して

清楚の手が一誠の髪を洗髪し出す。―――たまに首や肩に柔らかい弾力が当っている事を内心、

もう少し離れて洗ってくれと密かに願った一誠。


「気持ちいい?」


「ああ」


「ふふ、良かった」


「―――では、我は前を洗おう」


目を開けると目の前に揚羽の姿が映った。背中に二つのスポンジが擦る感触も感じて両腕が

ステイシーと李の手によって現れていた。


「フハハ、逃げ場はないぞ」


「・・・・・もう好きにしてくれ」


「うむ。では、こっちの方で―――」


「おい待て」


一誠が瞬時で口を開いた。揚羽はキョトンとして首を傾げ不思議そうにする。


「なんだ?」


「・・・・・どうして、タオルを取ろうとする」


「ん?男は女の胸で身体を洗ってもらうのが好きなのだろう?一誠も男だからそうだろうと

思っていたが・・・・・違うか?」


「・・・・・違うと言えばうそになるが普通にスポンジで洗えばいいと俺は言いたいんだ」


「―――ははは、そりゃあ良い事を聞いたぜ。なら、こうしてやるよ」


刹那、一誠の腕にスポンジとは違う柔らかさに挟まれた。恐る恐る横を見ると―――ステイシーが豊満な

自分の胸を一誠の腕を挟んで洗っていた光景が視界に入った。


「んっ・・・・・はっ、どうだ?気持ちいいだろう?」


「・・・・・負けません」


「おい」


「あっ・・・・・はん・・・・・」


李もステイシーに負けじと自分もタオルを解いて自分の胸を一誠の腕に挟んで洗い始める。

そんな二人に顔を赤く染め、弁慶に問い掛けた義経。


「あわわ、べ、弁慶・・・・・なんか、可笑しなことになっているのでは・・・・・?

一誠の体を洗うだけだと義経は・・・・・」


「うん、ここは義経もするべきだと私は思うよ?」


「よ、義経も!?」


「だからこのタオルを取って胸にボディソープをつけて一誠の体に擦りつけな。一誠も喜ぶよ?」


「う・・・・・そ、そうなのか?」


「私もするから・・・・・ね?」


「・・・・・理解した」


「うぉい!?」


「フハハハ!我も負けられんぞ!」


「え、えっとぉ・・・・・ええい!」


―――同時に六つの弾力が一誠の体に伝わった。前に、背中に、そして―――顔に。


「〜〜〜〜〜っ!?」


声が出ず、驚愕の余りに目を見開き頭の中が真っ白になった。一誠はまさに酒池肉林の状況化にいる。

普通の男なら此処で押し倒すどころだが一誠は鋼の理性で耐え抜く。


「どうだ?我の胸は気持ちいいだろう?」


「なんか・・・・・擦っていく内に変な気分になっちゃう・・・・・」


「べ、べんけぇい・・・・・この身体中に電流が流れる感覚は一体なんだ・・・・・?

よ、義経は・・・・・義経の体はどうなって・・・・・」


「ふふふ、んっ、義経のその表情が可愛い・・・・・。それは好きな男から感じる感覚だよ」


「一誠から感じる感覚・・・・・義経は・・・・・この感覚が癖に成りそうだ」


「ファック・・・・・こいつ、私達がこんな事をしているのに反応しないなんてつまらないだろう」


「ステイシー、一誠は耐えているんですよ。理性が外れないように」


「その通りだ。見ろ、一誠の顔が赤いぞ?フハハハ、あの一誠が顔を赤くするとは初めて見たぞ。

そのうえ、可愛いではないか」


「・・・・・っ」


「フハハ・・・・・では、こっちの方も洗ってやろうか。その前に邪魔なこの布を取ろう」


揚羽は一誠の下半身も洗おうと手を伸ばす。心なしか、熱を帯びた息を吐き瞳が潤っている。

一誠は流石にヤバいと腕を動かそうとするが


「あんっ!って、いきなり動かすなよ!」


「あっ、悪いってそうじゃない!」


ステイシーの胸に挟まれていた事に気づき翼を動かして止めようとした―――


「させません」


「なっ!?」


「一誠の・・・・・その・・・・・見たいです」


胸を曝け出して翼を動かせないように李が顔を赤らめながらも両腕で拘束した。

その間にも揚羽は一誠が腰に巻いていたタオルを掴んで―――バッ!と、思いきり取り払った。―――刹那


「・・・・・!」


「―――っ、見るなぁ!」


バチィッ!


大浴場に一誠を中心に電流が迸った。周囲にいた揚羽達はその電流によって身体中に流れ、

悲鳴を上げる事もなく意識を狩った。


―――01番隊室


「はぁ・・・・・精神的に疲れた」


ソファーを深く座りだし頭を真上に逸らし溜め息を吐く。ベッドにはパジャマ姿の揚羽達6人が寝転がり

寝息を立てている。


「・・・・・」


静かに部屋の空間に穴を発現して中に潜る。―――そして、一誠が九鬼財閥極東本部の外に

現れジッと夜空を見上げる。


「・・・・・」


夜空に輝く星を見上げて一拍。


「―――何の用だ。ヒューム、クラウディオ」


「ふん・・・・・気づいていたか」


「流石はヒュームを一撃で倒した伝説の元執事ですね」


金髪と銀髪の老執事の2人が前触れもなく一誠の背後に現れた。


「・・・・・クラウディオ、その話は俺の前でするなと言った筈だが?」


「おや、それは失礼。貴方が唯一の恥ずかしいお話でしたね」


「それで俺に何か用か?」


「・・・・・やはり、お戻りにならないのですか?」


「ああ、戻る気はない。あれはそいつが強引に従者部隊に入れさせられたから執事に成っただけだ。

それとあの部屋はもう物置きでも何でもすればいい。何時までも取っておく必要はないだろう」


「一誠・・・・・」


「世話になったな。また何時か縁があれば会おう」


―――――ドスンッ!


『主、参りました』


一誠の目の前に金色の体を持つドラゴンが舞い降りた。そのドラゴンの頭部に飛び乗ってヒュームと

クラウディオに振り返る。


「局さんによろしく言ってくれるとありがたい。揚羽達もまた何時か会いに行くと伝えておいてくれ。

―――じゃあな」


バサッ!


ドラゴンが金色の翼を羽ばたき夜空へ飛翔する。その際、ドラゴンが話し掛けてきた。


『どうでしたか?久々に彼女達と会って』


「時が経てばやはり、変わるものは変わるんだと改めて思い知った」


『そうですか・・・・・』


「対して俺達は何一つ変わらないな・・・・・」


『はい・・・・・』


「それが良い事なのか悪い事なのか、俺には分からない。俺は皆と楽しく幸せな日常を過ごせば

それで良いと思っていた」


『・・・・・』


「もう一つの地球、異世界、パラレルワールド。成功する確率は極めて低いだろうが成功すれば

この世界とあの世界が繋がる」


『それを宇宙でするのですね?』


「失敗して天変地異になったら困るからな。・・・・・月の辺りでいいだろう」


『成功する事を我は願います』


「俺もだよ」


淡く優しい白い光を輝き続ける満月を一誠は見詰める。全ては元の世界に戻る為に一誠は絶対に

失敗してはならない計画を密かに企てる。

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真剣で私に恋しなさい!S 音楽集
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