小説『とある白井黒子の兄』
作者:葛根()

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第十二章 魔術師と兄




白井紅太は最悪の事態を想定していた。
目の前の光景は最悪の事態よりもマシであると言える。
上条当麻の暮らす寮の七階。その通路に自称シスター、インデックスはゴミの様に清掃ロボットに扱われていた。
出血の量から、生命維持が難しい。つまり、瀕死の状態だと見て取れる。
清掃ロボットは別階に投げ捨て、白井紅太は容態を診たのだ。
上条当麻の方は、動けずに怒りに満ちていた。

「くそっ、何だよ。一体何だよコレは?! ふざけやがって、一体どこのどいつにやられたんだ!」

突如の気配がした。
ソイツは、エレベーターの横、非常階段からやってきた。
エレベーター側の上条当麻と、通路奥側の白井紅太とインデックスを分断する様に割って現れた。

「うん? 僕達『魔術師』だけど?」

視覚情報から得たのは、白人の外人。身長は二メートルに近い。
顔は幼く見える。14、5だろうか。何より、教会の神父の着ているような漆黒の修道服。
そして、赤髪に香水の強い匂い。顔には右目のまぶたの下にバーコードらしき刺青が刻みこんであった。
さらに、タバコを吸っており、耳にピアス。指輪がメリケンの様に並んでおり、チンピラに見える。
これが、魔術師。
異質な存在であった。
これが、魔術師?
どう見ても不良神父か、ヤクザの若手だな。
その魔術師が口を開く。

「うん? うんうん。これはまた随分と派手にやっちゃって」

魔術師はあちこち見回した。

「神裂が斬ったって話は聞いたけど……。まあ、血の跡がついてないから安心とは思ってたんだけどねぇ」

魔術師が最低でも二人。
神裂と呼ばれた人物はの獲物は刃物だ。
さらに、安心ということは傷つかないと思って襲ったと予測できる。
インデックス、自称シスターの行動は褒められたものではない。
追われている立場の人間なのだから、上条当麻の部屋に忘れた物など放っておけばいいものを律儀に回収しに舞い戻って来たのだ。
それは、逃走者としては正しくないと思うが、人間として高貴な物だと思う。
ならば、この傷ついて倒れた娘は良い奴である。
そして、それは、

「ばっかやろう」

上条当麻にも心当たりがあるようだった。

「うん? 嫌だな。そんな目で見られても困るんだけどね」

上条当麻の瞳に宿るものは憤り、もしくは自己嫌悪からくる怒りか。
瞳の奥に燃える炎は確かなものであった。

「ソレを斬ったのは僕じゃないし、神裂だって何も血まみれにするつもりなどなかったはずだ。『歩く教会』は絶対防御として知られるからね。本来ならアレぐらいじゃ傷もつかなかったはずだったのさ。まったく、何の因果でアレが砕けたのか。聖(セント)ジョージのドラゴンでも再来しない限り、破られるなんてありえないんだけどね」

その上条当麻に油を注ぐような言い方だ。

「こんな小さな女の子を、寄ってたかって追い回して、血まみれにして。テメェ。まだ自分の正義を語る事ができんのかよ!」
「だから、血まみれにしたのは僕じゃなくて神裂なんだけどね」



ツンツン頭に、女みたいな男。
インデックスの知り合い見たいだけど、僕には関係ない。
それに、魔術師の事を知っているとも思えない。

「もっとも、血まみれだろうが、血まみれじゃなかろうが、回収するものは回収するけどね」
「回収?」

意味が分からないって感じだね。
魔術師なんて言葉を知っているけど、全部筒抜けってわけじゃなさそうだ。
なら、インデックスは彼らを巻き込むのが怖かったのか。
それでも、僕は僕の使命を果たす。

「そう、回収だよ。正確には、ソレじゃなくて、ソレの持っている10万3000冊の魔導書だけどね」

明らかに不機嫌なツンツン頭より、女みたいな男の方が話が通じそうだ。

「ソレの持っている、この国で言う禁書目録って所か。それは教会が『目を通しただけで魂まで汚れる』と指定した邪本悪書をズラリと並べたリストの事さ。だから、君。注意したまえ。ソレが持っている本は、一冊でも目を通せば廃人コース確定だから」
「そうか! インデックスの記憶(あたま)の中か!」

気付いたようだ。やはり、冷静さと頭の切れがあるのは女みたいな男の方か。

「当麻、完全記憶能力ってやつだ。『一度見たものを一瞬で覚えて、一字一句を完全に、永遠に記憶し続ける能力』って言えばわかるな」

説明ご苦労様。

「そうそう。ならいいかい? ソレ回収するけど?」



「使える連中に連れ去られて、拷問と薬物で悪用しようって連中から僕達はソレを保護してあげようって言っているんだ」
「ほ…‥、ご?」

上条当麻は愕然とした。
この男は今なんて言いやがった?!
女の子を血まみれにしといて保護?

「てめぇ! 何様だ!」

頭で考えるより、魂が反応した。
目の前の、クソ野郎を殴り飛ばさないと気が済まない。

「ステイル=マグヌスと名乗りたい所だけど、ここはFortis931と言っておこうかな」

右手を握りしめ、飛び出した先。
ステイル=マグヌスと名乗った魔術師は口の端を歪めてタバコを揺らしているだけだ。
目測で魔術師との距離は15メートル。
駆ける。

「僕達魔術師って生き物は、何でも魔術を使う時には真名を名乗ってはいけないそうだ。古い囚習だから僕には理解ができないんだけどね」

さらに距離を詰める。

「Fortis――日本語では強者と言った所か。ま、語源はどうだって良い。重要なのはこの名を名乗り上げた事でね。僕達の間では、魔術を使う魔法名というよりも、むしろ殺し名かな?」



初めて見た。
確かにそれは存在した。
タバコを起点に爆発的に、一直線に炎の剣が生み出されたのだ。



魔術師と不幸。
不幸と友人。
配点:(邂逅)

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