小説『とある白井黒子の兄』
作者:葛根()

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第十三章 魔術師とシスターと兄と友人




「炎よ――」

魔術師。
ステイル=マグヌスと名乗った。
Fortis931とも名乗った。
この際、どちらの名でも良い。
問題なのは、自称だった魔術師達は実在して目の前で魔術を使った事にある。
火炎放射器並の炎。それは剣を型取り、さながら炎剣と呼べるものだ。
それをステイル=マグヌスは上条当麻に向かって横殴りに叩きつけていた。
白井紅太は友人の安否を考えない。
あの、上条当麻の右手。
|幻想殺し(イマジンブレイカー)は異能の力に対しては無敵の効力を発揮する。
だからこそ、上条当麻を駆除したと思い違いしてこちらに向かってくる魔術師に警告をする。

「話の通じそうな君。ソレ渡してもらいえないかい?」
「そりゃ、無理だな。だって、お前の相手はまだ諦めてねーからな」



今の一撃。
普通の人間ならば、溶けているはずの高熱だ。
だが、女みたいな男の視線は確かに物語っている。
やれやれ。
一応、忠告を聞いてふり返る。
こちらの話を聞いてもらうには相手の話を聞いてやることもやぶさかでない。
煙の中、生きているとは思えない相手に声をかけた。

「ご苦労様、お疲れ様。残念だったね。そんな程度じゃ1000回やっても勝てないって事だよ」
「誰が、何回やっても勝てねぇって?」

火炎と黒煙が渦を巻いて吹き飛ばされ、その中央にツンツン頭がいた。
傷一つなくそこに佇んでいた。



「ったく、そうだよ。何をビビってやがんだ。インデックスの『歩く教会』をぶち壊したのだって、この右手だったじゃねーか」

バカな俺でも分かる事がある。
相手の魔術師も所詮、ただの『異能の力』だ。
なら恐れることはない。
未だ俺を取り囲む様に綺麗な円を描いて燃えている炎を、

「邪魔だ」

消し飛ばした。確信する。俺の右手は異能の力に対しては絶対だ。
だから目の前の魔術師は俺の『予想外』にうろたえている。
そう、相手はただの人間なのだ。
同じように炎剣が向かって来たが、右手で弾く。



「チッ!」

まさか。魔術を?
口の中で呟くが否定する。
魔術はおろか降臨祭(クリスマス)を交尾(デート)の日としか感じないとぼけた国に魔術師なんているはずがない。
目の前のツンツン頭からは『魔力』を感じられない。
後ろの女みたいな男もそうだ。
魔術師ならば、一目で見れば分かる。魔術師という『同じ世界の匂い』がしないのだ。
だから目の前の不条理に納得がいかない。
摂氏3000度の炎の剣を何の魔術強化も施していない生身の右手で叩き砕くだと?

「インデックスの『歩く教会』は誰が壊したんだっけな」

背後から声が掛かる。
脳裏に走る。
インデックスの修道服『歩く教会』は絶対で、その結界の力はロンドンの大聖堂に匹敵する。
アレを破壊するには伝説にある聖(セント)ジョージのドラゴンでも現れない限り絶対に不可能だ。
しかし、現に神裂に斬られたインデックスの『歩く教会』は完膚なきまで破壊された。
一体、誰が? どうやって?
その答えは目の前まで歩いてきていた。
あと一歩踏み込まれれば手が届くほど近い。

「世界を構築する五大元素の一つ、偉大なる始まりの炎よ」

目の前の夏服を着たツンツン頭が人間の形をしているからこそ。その皮の中には血や肉ではなくもっと得体の知れないドロドロした何かが詰まっているような気がした。

「それは生命を育む恵みの光にして、邪悪を罰する裁きの光なり。それは穏やかな幸福を満たすと同時、冷たき闇を滅する凍える不幸なり。その名は炎、その役は剣。顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せ――!」

その名は『|魔女狩りの王(インノケンティウス)』。その意味は『必ず殺す』だ。
つまり、ツンツン頭。君は、死ね!



「ルーン――」

それは血まみれのインデックスの声だ。

「――『神秘』『秘密』を指し示す24の文字にして、ゲルマン民族により二世紀から使われる魔術言語で、古代英語のルーツとされます」

白井紅太は驚く。こんなにボロボロで、血まみれでどうしてこんなに冷静に話せる?

「――『魔女狩りの王』を攻撃しても効果はありません。壁、床、天井。辺りに刻んだ『ルーンの刻印』を消さない限り、何度でも蘇ります」

炎の塊『魔女狩りの王(インノケンティウス)』が上条当麻の|幻想殺し(イマジンブレイカー)で消せないわけだ。
消滅した直後に復活している。
おそらく、消滅と復活を続けているのだ。
俺にステイル=マグヌスの相手はできない。
よくて焼け死ぬ。普通は蒸発するように溶けるだろう。
運良くインデックスのそばにいるから攻撃は来ないのだ。
さらに、魔術という不可解なモノに戸惑いを感じる。
上条当麻に気を取られているステイル=マグヌスを攻撃することは可能だ。
しかし、何を仕掛けているかわからない以上、むやみに攻撃を仕掛けていいものかと悩んでしまう。
勇敢と無謀の判断を冷酷にも弾きだす。
静観だ。
いま自分に出来る事は現状を俯瞰し、観察し、答えを出すために静観することだ。
相手が発火能力者(パイロキネシス)だったら相手に出来るのだが。

「お前がインデックスでいいんだよな?」

倒れこんでいるインデックスに話しかける。
俺としては初対面であり、自称シスターだと思っていた人物だ。

「はい。私はイギリス清教内、第零聖堂区『必要悪の教会(ネセサリウス)』所属の魔導書図書館です。正式名称はIndex-Librorum-Prohibitorumですが、呼び名は略称の禁書目録(インデックス)で結構です」
「なら、インデックス。アイツをどうにかするには何をすればいい?」
「それは――」



「灰は灰に――塵は塵に――吸血殺しの紅十字!」

左右から炎が上条当麻を引裂くように二本の炎剣が水平に襲いかかろうとしていた。

「飛べ! 上条」

聞いた。
マンションの七階から飛べと。
普通なら躊躇う。だが、上条当麻は白井紅太を信用した。
通路の先、空に身を投げた。



シスターと無能
シスターと有能
配点:(禁書目録)




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