小説『とある白井黒子の兄』
作者:葛根()

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第十四章 勝利、友情、兄




「死ぬ! ホントに死ぬ! 本当に死ぬかと思った!! もっと早く助けて下さい!」
「喚くな! ちゃんと助けただろーが。俺だって万能じゃないんです!」

命綱なしで七階から飛び降りた度胸は感心する。
白井紅太は上条当麻を抱えて思った。
こいつ、バカだけど俺を信頼しているな。
飛び降りた上条当麻を追うようにマンションの壁を蹴って落下速度を付けて先に落ちた上条当麻を空中で確保。そして、アスファルトの地面に着地。
普通なら死ぬか、骨折する程の衝撃だ。
その落下から着地までを無事に行えたのは白井紅太の能力、身体操作(ボディコントローラー)の恩恵だと言える。



身体操作(ボディコントローラー)は学園都市でも珍しい能力である。
肉体変化(メタモルフォーゼ)と似た能力であると思われがちだが、実際は異なる。
正確には肉体変化(メタモルフォーゼ)はその名の通り肉体の変化をする能力だ。
一方、身体操作(ボディコントローラー)は身体を操作する能力である。
つまりは、己の身体を思い通りに操作できるのだ。それは、身体を構成する血や肉、骨などを操作出来るという事である。
着地の瞬間、爆発的に脚全体の筋肉を操作し、特殊ゴムに近い衝撃緩和性の高い身体になるように下半身を操作をしたのだ。

身体操作(ボディコントローラー)は肉体変化(メタモルフォーゼ)の上位能力の位置づけあると白井紅太は考えた。
それは肉体変化(メタモルフォーゼ)が出来る事は身体操作(ボディコントローラー)にも出来ると言う事である。
工程は違えど、結果が同じに至る。
学園都市に3人しか存在しない肉体変化(メタモルフォーゼ)のデータを妹の白井黒子の許可の元、閲覧した事があった。
そのデータから予測したのだ。
顔を変化させる場合の工程は肉体変化(メタモルフォーゼ)は一回の能力で顔を変える。
それに対し、身体操作(ボディコントローラー)は顔の筋肉、骨格を操作して結果として顔が変わるのである。
ならば、白井紅太のように七階の高さから飛び降りて無事かと問われれば答えは否である。
出来るのは変形であり、白井紅太の様に身体強化は無理なのだ。



白井紅太は考える。
己の能力で出来る事は何か。
あの魔術師とは相性が最悪と言える。
人の肌は熱に弱い。鉄をも溶かす温度となれば防ぐのは不可能に近い。
能力を最大限に使ったとしても『魔女狩りの王(インノケンティウス)』に対して一秒間なら己の存在を保てると考えた。
体中の水分を盾にしたとして一秒持てばいいほうだ。
あとは溶けて死ぬな。
学生寮の二階手すりに張り付いてこちらを見ている『魔女狩りの王(インノケンティウス)』を相手に戦術を練ったのだが結果は考えた通り、惨敗になる。
だが、別の思考も働いていた。
それは学生寮の外には『魔女狩りの王(インノケンティウス)』は出られない。
それが、ルールだ。
インデックスの話によれば刻まれているルーンを破壊、もしくは無効化できればあの『魔女狩りの王(インノケンティウス)は消える。
ルーンはテレホンカードぐらいの大きさで学生寮のあらゆる場所に貼り付けてあった。
一番近くのルーンが刻まれた物を見る。
明らかにコピー機を使った大量生産された自作の紙切れにルーン文字と怪しげな記号が書かれていた。
ステイル=マグヌスと名乗った魔術師は案外細目なんだなぁと思う。
そして、ルーン文字と記号をかいた紙をコピー機で量産するステイル=マグヌスを想像してなんだか切なくなった。
それを上条当麻に伝えてみた。

「なんつーか、ずるいな。あんな偽物で効果あるのかよ。あと、アイツが地道にセロテープで紙を一枚一枚貼り付ける所を想像すると魔術ってのも結構大変なんだなぁと思う。って、なんで敵に同情しなきゃいけないんですか?!」

知るか。
たぶん魔術だ。
魔術には何かしらの一定のルールがある。
そのルールを守り効果を発動させる。

「ってか、あんなに派手にやってよく火災報知器が動かねぇな」
「それだ! 上条当麻!」



ステイル=マグヌスは頭の血管が切れる程に怒っていた。
たかだかスプリンクラーの水で『魔女狩りの王(インノケンティウス)』の炎が消えるわけがない。
魔術を知らない相手だから仕方のない部分もあるだろうが、馬鹿馬鹿しい。
そんな理由でびしょ濡れにされたのか、僕は。
忌々しい火災報知器を睨みつけた。
さて、どうしようかな。消防隊がやってくると面倒な事になるかもしれない。
ふむ。
手っ取り早くインデックスを拾って立ち去ろう。
幸い奴らは飛び降りた。
ならその隙に回収を終えても文句は言えまい。
それに、『魔女狩りの王(インノケンティウス)』に再び立ち向かって来ることもないだろう。
ツンツン頭はギリギリだったし、女みたいな男は戦う気が見えなかった。
きっと女みたいな男の方が消防隊に通報しているはずだ。あの細身で戦うという事はないだろう。
だから、学園都市に不法侵入した僕達に対して然るべき対処をするだろうね。
厄介な相手はどちらだったんだろうね。まあ、今となっては関係のない話だ。
背後から音が聞こえた。
エレベーターが動く音であった。
一体誰だ?
夏休みの夕暮れという時間帯だ。生徒たちは完全に出払っていて学生寮が無人状態である事は確認済みだ。
そして振り向く。
体内の小刻みに震えている理由も分からずに。

「ったく参ったぜ。正直、ナイフ使ってルーンを刻まれていたら勝ち目ゼロだったよ」

ツンツン頭だ。
自動追尾である『魔女狩りの王(インノケンティウス)』はどうした?
その疑問に答えたのは、

「何万枚貼ろうと所詮コピー用紙は紙だ。紙は水に弱い。わりぃな。お前の苦労はボタン一つでパァだ」

背後、インデックスの側に女みたいな男が立っていた。
どうやって七階に?
その疑問を解決するよりも、優先すべき事がある。

「――『魔女狩りの王(インノケンティウス)』!」

叫んだ。
そして、ツンツン頭の背後、エレベーターの扉を溶かして這いでてきた。

「は、はは。すごいよ。君達。君達ってば格闘センスの天才だね! だけど経験が足りないかな。コピー用紙ってのはトイレットペーパーじゃないんだよ。たかが水に濡れた程度で、完全に溶けてしまうほど弱くないのさ!」

理想的な挟撃だと思ったが、甘いね。

「邪魔だ」

一言。ツンツン頭は振り返りもせず『魔女狩りの王(インノケンティウス)』を吹き飛ばした。

「バカな! 僕のコピー用紙はまだ死んでないのに!」
「コピー用紙は破れなくても、水に濡れればインクは落ちる」

焦燥。思考停止。
対して相手は翔ける。
振りかぶり、

「行け! 上条」

迫ってくる拳を他人事のように眺めて、そのまま顔に衝撃が走った。



魔術師倒れる。
無能と有能が交差した力はなんであるのか
配点:(幻想殺し)



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