小説『とある白井黒子の兄』
作者:葛根()

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第十五章 兄と教員




上条当麻の部屋。
インデックスに簡易的な治療をした。
それは、家にある裁縫セットを使用した麻酔なしの縫合であった。
それに対して上条当麻は苦言を投げた。
しかし、白井紅太は答えた。

「インデックスを殺したいのか?」

上条当麻は絶句する。
インデックスは『外の人間』だ。
IDを持たない部外者を医療機関に任せるわけもいかず、碌な治療も受けさせてやれない。
だから、緊急措置として家庭の裁縫セットで傷を縫合して命をつなげるのだ。
ただ、それはインデックスに取って相当堪える痛みだ。
それを苦言としたのだ。
結果としてインデックスの出血は減ったが、完全に止血されているわけではない。
インデックスの持つ10万3000冊の中に傷を治す魔術はないのか?
上条当麻は問う。

「ある、けど……。君達じゃ……無理」

それは上条当麻の幻想殺し(イマジンブレイカー)が原因ではなく、超能力者というものが原因なのだ。
インデックスの発した言葉は、凍えるほど冷たかった。
能力開発を受けた人間の脳では魔術というシステムは使うことができない。
インデックスを唯一救える魔術を使うことはできないのだ。
つまり、学園都市の人間で彼女を救える生徒はいない。
目の前に人を救う方法があるのに誰も彼女を助けることが、できない。

「ちくしょう!」



白井紅太は尊敬を持っていた。
その相手はインデックスである。
縫合の時、彼女は叫ぶことも泣くこともなく耐えた。
それに、危険を承知で上条当麻を巻き込む前にフードを回収しようともした。
こんな小さな女の子。
だけども、強い。
そして、その強い女の子が死にそうでもある。
大切な娘。妹の顔とインデックスの顔が折り重なるような錯覚に震える。
どうも、年下には甘いな。
記憶の関連付けから年上なのに年下の容姿の存在が思い浮かんだ。
答えだ。

「魔術って、一般人なら誰でも使えるんだな?」
「え? うん」

学園都市の学生が魔術を使えないのであれば、学園都市の超能力を開発する側の教師ならただの人間のはずだ。すなわちインデックスの魔術を使える一般人に当たる。

「おい、紅太。まさか、先生か?」
「そう、月詠小萌先生だ」



ボロいという言葉通り。ボロの木造二階建てのアパートだ。
通路に洗濯機が置いてある所を見ると部屋に風呂場があるとは思えない。
白井紅太が携帯から調べだした小萌先生の住所に三人はたどり着いた。
上条当麻はどうやって白井紅太が小萌先生の住所を調べたのか謎だった。
それを聞いたら、

「は? 小萌先生は入学式の当日に教室でクラス担任挨拶の時に何かあったら相談するですよーって連絡先教えてただろ? あとは番号から住所を調べたんだけど。上条、お前、俺をストーカーとか思ってね?」
「いえいえいえ。まさか、まさか」

確かそんな事も会ったような。
ストーカー疑惑なんてまさか。
シスコンだろーが。

「はいはーい。今開けますよー」

チャイムの音に反応が聞こえた。
ドアががちゃりと開いて、緑のぶかぶかパジャマを着た小萌先生が顔を出した。

「うわ、上条ちゃんと、白井ちゃん?」
「ちょっと色々困ってるんで、入ります。はいはい、上条もな」
「お邪魔しまーす」

紅太って結構強引だな。

「ちょ、ちょちょちょっとーっ!」

紅太の横に押された小萌先生は慌てて俺達の前に立ち塞がる。

「せ、先生困ります。いきなり部屋に上がられるというのは。部屋がすごい事になっているとか、ビールの空き缶が床に散らばっているとか灰皿のタバコが山盛りになっているとか、そういう事ではなくてですね!」

だが、小萌先生の抵抗も虚しく、紅太に抱え上げられて、部屋に侵入を許してしまったのだ。
インデックスは俺が背負っているのだから実力行使は紅太の意思による行動であって、決して俺は関係ない。

部屋の中。
競馬好きのおっさんが住んでそうな部屋という感想がまず思い浮かんだ。
ボロボロの畳の上にビールの缶がいくつも転がり、銀色の灰皿にはタバコの吸殻が山盛りにされていた。
部屋の真中にはちゃぶ台まであった。

「ぎゃああ?! その娘どうしたんですかー?」

インデックスの事を説明していなかった。
あと、今気づいたんかい!

「簡単に説明すると彼女は怪我を負っている。訳あって病院に搬送は不可。さらに死にかけで助けるすべが月詠小萌先生にしかできない。よって、彼女の指示の元、小萌先生は適切な処置をしていただきたい。端的に言えば、困ってるから助けろ」
「最後! もっと丁寧に!」

こんな状況でツッコミを入れさせるな!

「こんな状況で言うのも何ですけど、タバコを吸う女の人は嫌いなんです?」

関係ねー!
だが、不意にインデックスが言葉を発した。

「出血に伴い、血液中にある生命力が流出しつつあります」

背中から聞こえた声は冷静であった。

「取り敢えず、寝かそう」

いつの間にか紅太が小萌先生の部屋にインデックスを寝かせるだけのスペースを作っていた。
背中の傷が床に触れないように、うつ伏せに寝かせる。
インデックスの服には縫合したにも関わらず赤黒い染みがあふれていた。

「警告、第二章第六節。出血による生命力の流出が一定量を超えたため、強制的に『自動書記(ヨハネのペン)』で覚醒(めざ)めます。現状を維持すれば、ロンドンの時計塔が示す国際標準時間に換算して、およそ20分後に私の身体は必要最低限の生命力を失い、絶命します。これから私の行う指示に従って、適切な処置を施していただければ幸いです」

小萌先生はぎょぅとしたようにインデックスの顔を見た。

「そういうわけで、インデックスが言った様に、小萌先生。お願いします。俺達じゃ、駄目なんです」

紅太は無表情だった。
コイツの、怒った顔や、悲しい顔を見たことがなかった。
笑っている顔や、からかっている顔の印象が強すぎて、紅太の印象は明るい奴、良い意味の嫌な奴だったが、今はどうだろうな。



生徒と教師。
導くのは誰か。
配点:(先生)



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