小説『とある白井黒子の兄』
作者:葛根()

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第十六章 生徒の兄と教員の大人



上条当麻は自分の能力を恨む。
部屋の中で何が起こっているか分からない。
ただ、治療の邪魔になるから出ていくしかなかった。
片や、俺に付き合う形で白井紅太も部屋の外にいた。

「建物全体が揺れたな」
「ああ……」

白井紅太の言葉に心ここにあらずといった生返事を返す上条当麻だった。
一旦、道路まで二人は移動して、自販機の明かりの元にいた。

「なあ、これからどうなるんだろうな?」

上条当麻の問に俺は考える。
小萌先生に託したはいいが、インデックスが回復した所で先生の立場上、『外の人間』を警察か学園都市の理事会へ伝えるだろう。それが大人として、教師としての役目である。
手段を選ばない方法で解決するのであれば、

「誤魔化すにしろ、小萌先生に協力してもらうにしろ、前途多難だな。所で上条、小萌先生とセックスできるか?」
「ぶっ! ゲホ、気管にコーラが……。いや、紅太さーん! 何言ってんの! 結構シリアスモードで聞いたじゃん?!」

教師と生徒が肉体関係を持てば問題がある。
それは大人である教師に責任がかかり易い。
生徒と肉体関係を持った教員というのを免罪符にこちらの要求を飲んでもらう心算なのだ。

「悪魔ですかー?! それに、幾ら小萌先生でもちょっとそれは……」

可哀想だと。

「しかしなぁ、今日あった事を忘れてもらうのが一番いいのだが、そんな都合のいい話はあるわけもないし、最終手段として頭の隅に入れておけ。それにこれ以上小萌先生には魔術を使って欲しくない」

魔術だろうが超能力だろうが、代償なしに使えるはずもない。

「それには同意するけど、何か手はないのか? 小萌先生とセックス無しで!」
「飛車角落ちの上にさらに、金銀落ちでプロ棋士に勝てって言っているようなもんだぞ、それ」
「でもそれって、頑張ればできますですよー?」

さて、いつから聞いていたのか、小萌先生がソコにいた。
インデックスの治療を終えてこちらを呼び戻しにきたのだ。

「まあ、厳しい事に変わりませんが、それより、シスターちゃんが呼んでますよー」

上条当麻はココぞというチャンスにかけ出して小萌先生の部屋に向かった。
野郎……。俺を捨て駒にしやがった。

「白井ちゃん」
「はい」

見た目が小学生の小萌先生は教員である。

「上条ちゃん達が一体どんな問題に巻き込まれているか分からないですけど、それが学園都市の中で起きた以上、解決するのは貴方達生徒じゃなく、私達教師の役目です。子供の責任を取るのが大人の義務です。上条ちゃん達が危ない橋を渡っていると知って、黙っているほど先生は子供ではないのですよ?」

それは正しい言い分であり、ただ真っ直ぐに見つめる月詠小萌の瞳は強い。
年の功と言ったら泣くだろうが、さすが年上で教師やっている女性(ひと)だ。
だからこそ、コレ以上巻き込むのは憚られる。

「それでも、小萌先生をこれ以上巻き込みたくないです。上条も同じ考えだと思います。だから――」
「白井ちゃん」

言葉を遮られ、

「私は明日スーパーに行ってご飯の買い物をしなくてはいけないです」

全く関係のない話を続ける。

「先生はお買い物に夢中になってると色々と忘れるかもしれません」

それは、気遣いであった。
この人には敵わない。
心から尊敬できる教師を持って良かった。



翌日、小萌先生は昨夜言った通りスーパーに買物に出かけた。
上条当麻もインデックスも小萌先生に再び魔術を使わせてはいけないという話になり、やはり魔術は危険なものであると知った。
上条当麻は小萌先生に錬金術を使わせたかったみたいだが、それは意味のないことであった。

「純金の変換はできるけど、今の素材で道具を用意するとこの国のお金だと……えっと、七兆円ぐらいかかるかも」
「……超意味ねぇ」

だがそれは同時にある事を示唆させた。
白井紅太は思う。鉛を金に変える事ができるのなら、それは、

「原子配列変換ができるのか?」

簡単に言えば、核融合施設がなくても核融合を引き起こせるということになる。

「???」
「まて、そんな不思議そうな顔すんな! アレだ! どれだけすごい事かって言うと、アトミックなロボとか起動戦士が普通に作れちゃうぐらいすごいんだぞ!」

上条当麻は斜め上の考えを持っていた。男のロマンである。

「なにそれ?」

くだらないと言う感じでバッサリ切り捨てられた。
時刻は昼頃だ。
唐突に白井紅太は言う。

「やべ、黒ちゃん成分が足りん」
「は?」
「愛しの黒ちゃんを求めている。一日近く顔を見てないじゃないか!」

上条当麻はがっくりと肩を落として言う。

「行けよ。全く、シスコンめ」

上条当麻は思う。白井紅太の妹の顔は知らないが似た顔をしていると聞いた覚えがある。
ならば、可愛いこと間違いない。だが、一度も合ったことも無ければ、どんな人物なのかもあまり知らないのだ。
その辺りのガードは固いし、また妹に付いて詳しく知りたいとも思わない。
知ろうとすれば、青髪の如く、ぶん殴られるからだ。



生徒思いの教師。
生徒は教師を尊ぶ。

配点:(生徒)


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