第十七章 レベルアッパーと兄妹
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上条当麻が伝染った。
そう表現するしかない。
白井紅太は佐天涙子が不良に絡まれている所に遭遇したのだ。
佐天涙子の勇気は認めるが、然るべき所に連絡すべきだと思った。
だが、
「バッテリー切れで……」
ソコへ俺が現れたわけだ。佐天涙子のヒロイン力が俺を引き寄せたのか、上条当麻のフラグ体質が伝染ったのか。
「なんだテメェ!」
こうして不良の相手をすることになったのだ。
相手は三人。リーダー格のやつは金髪にピアスに歯が数本抜けていて、まさしく不良の言葉が似合いそうな人物だ。
「何かと思えば、たかが高校生かよ……。俺達に、ブガッ」
あーあ、悠長に脅しているもんだから駄目なんだ。
顎を掠めるつもりがきっちりと右頬に拳が入った。
「どんな能力者かしらねーが、ムカツクぜ!」
オールバックの細目は鉄柱を浮かしてそれを投擲してきた。
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「すごいなぁ」
全く、心配のない相手を見る。
佐天涙子は不良三人に絡まれて絶望していた所に現れた救世主に絶対の信頼を置いていた。
投擲された鉄柱を地面スレスレに走り避けてオールバックの相手を殴り倒したのだ。
それを辛うじて眼で捕らえられたのは佐天涙子が彼を凝視していたからだろう。
「カカカッ。おもしれー能力だな。加速装置でもついてんのか?」
不良の男にもそれは見えていたようだ。
だが、白井紅太は余裕の笑みを見せる。
「どうだろうな」
紅太さんの身体がブレてた。
決まったかな?
しかし、その拳は虚を突いただけであった。
「紅太さん。後ろ!」
私の声に反応したのか、相手の蹴りを防いだ。
そして、不良の言葉を返す様に、
「面白い能力だな」
言った。そして、相手の追撃をバックステップで回避して、ビルの中へ二人は消えていった。
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「あら? 佐天さんではないの。こんな所でどうしましたの?」
佐天涙子の元に現れたのは白井黒子であった。
倒れている二人の不良を見て、さらにその被害者を見て白井黒子が全てを理解したように、
「不良に絡まれていましたの?」
「そ、そうです。そこに紅太さんが、助けに来てくれて、今あの人はビルの中に不良と……」
言いかけて、それが轟音によってかき消された。
白井黒子は思う。不良が危ない。
「お兄様って、自分の身内とか友だちに手を出した相手に容赦無しですの」
それはつまり、
「ビ、ビルが……」
破壊工事のような震撃音が鳴り響いている。
「はぁ。取り敢えず、警備員に連絡して、被害者が出る前に助けだしますわ」
空間移動で移動する。
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「冗談じゃねぇ! アイツ正気か?!」
まさか、ビルを支える柱を素手でぶっ壊すなど悪い夢を見ているようだった。
相対する敵は、
「三分あればこの程度のビルならぶっ壊せるんだぜ?」
などとほざくもんだから、
「は、やれるもんならやってみな!」
挑発したのが間違いだった。
わざわざ逃げまわって最上階まで来たのは俺を嵌める為の策略だったわけだ。
床をぶち抜いて下の階へ行って震撃音が響いたのを聞いて見てみりゃ、柱が壊れていた。
悪夢だ。
さらに下の階からまだ、音は響いている。
確実に下の階層の柱を壊している音だ。
「まさか本当にビルを潰そうとするなんて、イカレてやがる!!」
ビルが軋み悲鳴を上げながら振動する。
そして、
「うわああああ」
落ちてきたビルの一部に絶叫した。
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崩壊するビルの外。
「ハア」
「嗚呼、ああぁ」
白井黒子は間一髪で不良を助けだした。
兄である紅太を想う。
全く、めちゃくちゃですわね。
背後から声が掛かる。
「やっぱ黒ちゃんは良い子だねー」
「頭を撫でるついでとばかりに抱きつくのやめてくれません?」
昨日ぶりである。それでも、少し男らしくなったと白井黒子は感じた。
男子三日会わざれば刮目して見よとはいいますが、何かあったんでしょうね。
「取り壊す予定だから別によかったよね?」
「まあ、そうですけど。こういった不良は私達、風紀委員に任してくださいと言ってますの」
警備員が集まり始めてどうしたものかと考える。
幻想御手とこの不良達は関係ありそうだ。
「いやー、結構楽しめたよ。たぶん幻想御手絡みだね。ほら、涙子が絡まれた時にそういう話してたみたいだし」
心を読んでますの?
グッと言葉を我慢して兄に忠告する。
「あまり事件に突っ込まないでくださいですの。お兄様は一般人なのですから」
「ん。黒ちゃんに助言」
よしよしと頭を撫でて、
「幻想御手を欲しがるのは無能力者だよ。友人含めて所持品を調べた方がいいかもね。灯台下暗しって言うし。この前のメールにあったけど、幻想御手って音楽ソフトならその曲自体に何かあるかもね」
事件の推測を述べた。
この兄は何なのだろうか。
プロファイリングの知識でも持っているんではなかろうか。
兄も助言を記憶に刻む。
「検討に値する情報ですわね。って尻を撫でるのはセクハラですわよ!」
関連記憶だ。
己の言葉を忘れさせない為に行った行為である。はず。
「うーん。やっぱり黒ちゃんは可愛いなぁ」
やっぱり勘違いだろうか。
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つかの間の兄妹。
兄と妹。
少しだけ物語に交わりあう。
配点:(幻想御手事件)
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