小説『とある白井黒子の兄』
作者:葛根()

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第十八章 魔術師たちと兄




雑居ビルの屋上。月詠小萌宅から600メートルほど離れたソコに二人の男女がいた。
片方は長身の男で双眼鏡を片手にタバコを咥えていた。
片方はやはり長身で、女であった。
女の方は腰に長さ二メートル以上の日本刀を帯びており、ジーンズに白い半袖のTシャツであった。
ジーンズは左脚の方だけ何故か太ももの根元からバッサリ切り落とされており、Tシャツは脇腹の方まで布を縛っていた。
日本刀は革のベルトに挟むようにぶら下がっており、西部劇の保安官が拳銃の代わりに日本刀を下げているといった格好である。
二人共まともな格好とは思えないものであった。
その二人は観察をしていたのだ。

「それで、神裂。アレは何なんだ?」
「それですが、ツンツン頭の少年の情報は特に集まっていません。少なくとも魔術師や異能者といった類ではない、という事になるのでしょうか」

ステイル=マグヌスは考える。
ツンツン頭の方。いくら、インデックスからの助言があったとしても、アレが一般人なわけがない。
それに、もう一人の女みたいな男が気になっているのだ。

「女みたいな男の方は?」
「学園都市で言うレベル4。身体操作(ボディコントローラー)という能力者らしいです」

神裂火織が言い淀むという珍しい瞬間にステイル=マグヌスは笑みを浮かべた。



「それで? 神裂は彼に一目惚れでもしたのかい?」
「そんなわけありません!」

腰まで届く長い黒髪ポニーテールを揺らして怒鳴った。
視力8.0の彼女の眼には白井紅太が部屋を出ていくのが鮮明に見えていた。

「彼の能力は学園都市でも珍しもので身体操作(ボディコントローラー)は彼一人。肉体強化魔術に近いものだと思いますが……」

視線の先の人物と眼があった。

「が?」

彼はこちらを見て笑ったように見えた。

「能力の詳細は不明。夏休みの期間に再度能力測定が検討されています」

彼の名は白井紅太。

「ツンツン頭の方ですが。ステイルの話が正しければ、アレだけの戦闘能力が『ただのケンカっ早いダメ学生』という分類となっている事が問題ですね」

この学園都市は超能力者量産機関という裏の顔を持つ。
五行機関と呼ばれる『組織』に、ステイルや私、その上の『組織』はインデックスの事を伏せているとはいえ、事前に連絡を入れて許可を取っている。

「情報の意図的な封鎖、かな。しかもインデックスの傷は魔術で癒したときた。神裂、この極東には他に魔術組織は実在するのかい?」

二人の勘違いは上条当麻達は五行機関とは別の組織を味方につけていると踏んだことだった。
他の組織が、上条達の情報を徹底的に消して回っていると勘違いしたのだ。
それをステイル=マグヌスは最大限に勘違いをした。

「あの、女みたいな男。随分と頭が回る。彼がブレーンである可能性が高いと思うが……」
「……。この街で動くとなれば、何人も五行機関のアンテナにかかるはずですが、まさか彼が?」

そのステイル=マグヌスの勘違いに真面目な神裂火織は思考する。

「敵戦力は未知数、対してこちらの増援はナシ。難しい展開ですね」

さらに神裂火織は先程の白井紅太がこちらを見て笑った事にある種の懸念をしていた。
その白井紅太はただ、今日も天気が良いなぁと空を見て笑っただけであったのにもかかわらずに。

「最悪、組織的な魔術戦に発展すると仮定しましょう。ステイル、あなたのルーンは防水性において致命的な欠点を女みたいな男、つまりは白井紅太に指摘されたと聞いてますが」

神裂火織は白井紅太が魔術の弱点を見抜いたと勘違いしていたのだ。
本当はインデックスの助言から弱点を突いただけである。
しかし、魔術戦というのは先の読み合いである。
戦闘が始まった時点で既に敵の罠にハマっていると考え受けては相手の罠を読み、逆手に取り、さらに攻め手は反撃を予測しなければならない。
常に変動する戦況を100手、200手先まで読まなければならない。それは戦闘と言うよりもとてつもない頭脳戦と呼べる。
そういった意味でも、『敵の戦力は未知数』というのは魔術師にとって大きな痛手なのだ。
上条当麻の謎の右手、白井紅太の詳細不明な能力。これらが魔術師にとって脅威となっていたのだ。



片側三車線の大通り。
ずらりと並ぶ大手デパートには誰も出入りしていない。
さらには車道には車の一台も走っていなかった。

「ステイルが人払いのルーンを刻んでいるだけですよ」

神裂火織は相対する相手に言葉をかけた。
ステイルが言う女みたいな男。
白井紅太を相手にする。
ステイル曰く、

『どうも彼とは相性が悪そうだ。だから神裂。相手は君に頼むよ』

本当に女みたいな顔。それにステイルが何をどう思ったかは敢えて考えないでおこう。
また、神裂火織自身も白井紅太と対峙することを望んでいた。
ステイルが頭の回転が早いと称した為、こちらの話が通じる相手であると踏んだのだ。
ツンツン頭の上条当麻の裏にあるはずの『組織』の情報を聞き出すためにも、

『そういう事ならやっぱり、女みたいな男の相手は神裂がいいよ』

ステイルが言ったので望んだ結果として白井紅太と相手するのだ。



魔術師達の頭脳戦。
能力者達の頭脳戦。

配点:(勘違い)





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