小説『とある白井黒子の兄』
作者:葛根()

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第二十一章 科学の兄と魔術師達




『インデックスは魔術を使えないのは嘘である』
『インデックスは一年置きに記憶を消さなければ助からないのは嘘である』

2つの事実の前に恐らく、という前置きをしなければならない。
だが、神裂火織はそれが事実であると白井紅太の言葉を垣根なしで信用した。
何故ならファミレスを後にして人気のない道路脇で、

「もし信じられないなら、誓おう。この身を髪の毛一本から爪先の先まで神裂火織に捧げよう」
「本気、ですか?」
「間違っていたら好きにしろよ」

誓いを聞いた。
己の話を信じさせる為に対価として、命を差し出したのだ。
それは私達と同じくらいの覚悟。

「どうしてそこまで……」
「はぁ〜。そりゃ、辛そうな顔したお前の顔だったり、年下の分際で俺より身長高いタバコ臭い野郎の辛気臭い顔だったり、シスターの強さだったり、色々理由を出せば限りないが。アイツの言葉を借りるなら、困っている奴を助けるのに理由なんているのかい?」



神裂火織と別れた後、上条当麻にも俺の推察を聞かせた。

「本当か! じゃあ、今直ぐに――」
「アホか! 魔術師と共同作業だ! 後1日は待て」

神裂火織はステイル=マグヌスと話をつけに、そして俺は、上条当麻とインデックスの説得役だ。
まあ、こちらの説得は直ぐに終わる。
問題は堅物の魔術師達の方だ。
インデックスへの説得は俺より説教野郎の上条当麻に任すとして、後俺ができることは、何も無いな!



「どうですか、ステイル」
「……。ふぅー。一理あるね。確かに僕らに『必要悪の教会(ネセサリウス)』が正しい情報を与えていないかもしれないね」
「では――」

ステイル=マグヌスはタバコを吸いながら熟考する。
それは、神裂火織が相手の男に篭絡されている可能性はないかというものだ。
女みたいな男にうまく騙されてはいないか。アイツは頭が回る。

この時ステイル=マグヌスは疑心暗鬼に陥っていた。
僅か数時間で神裂火織の思考を操れるものなのだろうか、と。
そして、白井紅太の持つ能力。身体操作(ボディーコントローラー)が他人の意思や思考まで操れるものだとしたら? という疑惑が消えなかったのだ。
さらに悪いことに、超能力の力を魔術で解析することはできないのだ。
それが、ステイル=マグヌスに取って不気味なものであり、確かに白井紅太の意見は魅力的であった。
魅力的であるこそ、ステイル=マグヌスはその裏に何かしらの陰謀があるのではないかと魔術師らしい考え方をしていたのだ。
何よりも、神裂火織の盛りのついたメスのような顔が気に食わなかった。
彼女が彼に好意を抱いているのなら篭絡されている可能性がかなり高くなる。
そうなると孤立無援で自分自身が立ち向かわなくてはならないのだ。
ステイル=マグヌスは助かるかもしれないという曖昧な可能性よりも、とりあえず命を助ける事ができる方法を取ると決めているのだ。

「3日後、彼女の記憶を消す」
「な、ステイル!」
「僕はね、そんな曖昧な可能性よりも、とりあえず、彼女の命が助かる方法を取るよ。そうすれば彼女の命は助かるんだからね」

それでも、ステイル=マグヌスは垂らされた希望を見捨てることが出来なかった。

「3日後だ。どの道時が満ちないと儀式は行えないからね。僕は3日後まで動かない」
「約束は明日の夜です。ステイル、あの部屋で私達は彼女を助け出します。来るか、来ないかは貴方次第です。それに、彼がインデックスに私達は敵では無いと説明してくれています。私達の望んでいた事が直ぐ目の前にあるのに貴方はどうして!」

タバコがまずい。

「僕の意見は変わらないよ。ま、女みたいな男の言い分では、『必要悪の教会(ネセサリウス)』が怪しいらしいから、先にそちらに確認入れてみるさ。間違えだったら、彼。殺すんだろ」

そう言い残して立ち去る。

「全く、素直じゃないですね。貴方は」

聞こえないふりをした。



「そういう訳で、インデックスを襲っていた魔術師は貴方のお友達です」
「ハイそうですかって納得すると思うのかな?」

簡単にインデックスは納得しなかった。
上条当麻と白井紅太の二人がかりでも未だに信じようとしないのだ。
それはそうだろう。一年間も追われていた相手が実はお友達でした。と言われて信じるお人好しではなかったのだ。

「だがなぁ。それが、『必要悪の教会(ネセサリウス)』の仕組んだ思惑なんだよ」
「でもでも、確証はなかったりする」

それを言われると弱い。ステイル辺りが確認を取ってくれていれば良いのだが。

「じゃあ一つ、お前は俺達を仲間だと思うか?」
「え? 仲間じゃないの?」

つまりは、

「なら、その仲間が信じるアイツら魔術師を信じてくれないか?」
「うーん」

これでダメなら厳しい。

「一回だけ! 今回の一回だけでいいから信じて! ね、ちょっとだから。痛くしないよ?」
「紅太さーん! なんかイヤラシいですよ!」

汚れ役を引き受けようではないか。

「インデックスさんの慈悲深い所を見てみたい! ね、一回でいいから。怖くないから! 怖かったら電気消すから!」
「だから! 紅太さん! 後半全部だめだから!」
「うーん、紅太がそこまで言うなら一回だけ信じてみるかも」
「信じましたよ?! このシスターは!」



魔術と科学の共同。
その先に待つものは何か。

配点:(インデックス)


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