小説『とある白井黒子の兄』
作者:葛根()

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第二十二章 魔術師の感情と兄




神裂火織は号泣していた。
それこそ、白井紅太が引くくらいに。
上条当麻もまた、その光景を見てもらい泣きしそうであった。
インデックスは困った顔である。
神裂火織を泣かせたのはインデックスである。
手狭な小萌宅に四人。この部屋の主である小萌先生は学校で仕事らしい。
夏休みなのにご苦労様だ。
俺が神裂火織に連絡を入れた。この前のファミレスで携帯の連絡をゲットしておいたのだ。
何故かステイルはいなかったのだかそれはある意味良かったのかもしれない。
少なくともインデックスと同性である神裂火織に対してなら警戒を解きやすいはずである。
初めは警戒心丸出しのインデックスであったが、神裂火織の所持していた思い出の写真などを見て、

『覚えてなくてごめんなさい』

その謝罪で神裂火織は泣いた。
色々と思う所があるのだろう。
掛ける言葉も思いつかずこういった時の己の引き出しの少なさに俺は少し反省した。
幸い時間は余っている。
だから、存分に親睦を深めればいいと思う。



「インデックス、脱げ」
「ええ〜! いい雰囲気が台無しですよ?! 紅太さん! イキナリ出した言葉がそれですか?!」

正直、インデックスと神裂のイチャイチャ具合に呆れていた。

『インデックスは魔術を使えないのは嘘である』
『インデックスは一年置きに記憶を消さなければ助からないのは嘘である』
これらを施している『必要悪の教会(ネセサリウス)』がインデックスの身体に何らかの仕掛けを刻み込んでいると踏んだのだ。
ならば身体の隅々までそれを確認しなければならない。

「大丈夫だ。この容姿の身体なら妹で見慣れているから」
「大問題です! 家族の裸と他人の裸は別物です!」

神裂までも上条と同じくツッコミを入れてきた。
インデックスを観察する。

「あ、あの、あんまりじっと見られると恥ずかしいんだよ?」

完全記憶能力、それを消さなければならない仕組みであるなら頭に近い場所に魔術が仕込まれているはず。
決して下半身などに刻むバカはいないだろう。

「上条、インデックスの手を右手で握ったことは?」
「ないけど?」

なら握れ。

「何? 何? なんの意味があるのか説明して欲しいかも」
「インデックスに話した通り、教会の陰謀を暴こうという実験?」
「何で疑問形なんですか?!」

神裂、楽しそうだな。
何の反応もナシか。
いや、待てよ。
もし、何らかの仕掛けがあるとして、それが破られた時の対処があるはずだ。
魔術である以上、上条の右手で破れない魔術はないはずだ。
たとえ再生機能付きであろうとそれごと破壊できると思う。
なら再生が無理とすれば、破壊が待っているはずだ。
立場を変えて考える。
俺が教会側の人間だとしたら。
インデックスに刻んだ魔術に二重三重の罠を仕掛ける。
完全記憶能力の事がバレて真相に辿り着かれても大丈夫なように罠を仕掛ける。
インデックスを縛る魔術の仕掛けを解除しようとしたその相手と周辺を撲滅させるように仕組む。
だとしたらインデックスが魔術が使えないという神裂火織の言葉の真相は、この魔術の仕掛けに魔力を使用するように強制されていると考えるのが自然だ。

「よーし、上条。待て、お座り。一歩もそこから動くなよ? インデックスに不用意に触るなよ?」
「俺は犬ですか? インデックスに触れと言ったり触るなといったり大変そうですね!」



『そ、そんな。恥ずかしいんだよ……』
『恥ずかしがらずにもっと広げてごらん。ちょっと入れるだけだから』

扉の向こうから何やら如何わしい発言がステイル=マグヌスの耳に聞こえた。

『痛くしないで欲しいかも』
『大丈夫。綺麗なサーモンピンクだよ。それに痛くしないって。きっとすぐ良くなるよ』

何を考えている!
彼女に手を出そうなど僕の眼が黒いうちは許さない!
部屋に踏み込むタイミングを見計らっていたのだが、聞こえてくる発言についに重い足が動いた。



「貴様ら! 何をしている!」

炎だ。
現象的には怒っているステイル=マグヌスを四人の視線が捉えた。

「やっぱり来ましたか……」

神裂火織の呟きを聞き逃さなかったのは、白井紅太である。
さて、現状としてインデックスのお口あーんさせようとしていた所にステイルが何故か怒り状態でいきなり部屋に入り込んできたわけだ。

「……」

そして絶句していた。
何がしたいのか理解不明なステイルに誰もかける言葉が見つからないようであった。
ならば、俺が協力者として補足してやらなければいけない気がする。

「遅刻だな。さて、役者も揃った所で物語(はなし)を進めようか」



ステイル=マグヌスにコレまでの経緯を改めて説明をした。
予測と推測である白井紅太の考えの証明として、インデックスの身体のどこかに魔術の仕掛けがどこかに隠されているはずである。
なのでインデックスの身体を調べなければならない。

「それで?」

不機嫌を貼りつけた顔に、くわえタバコのステイルが続きを催促してきた。
せっかくインデックスとの仲を取り持ったのだが、苦虫を噛み潰したような顔で何かを耐えている様で一言二言言葉を交わして今に至る。
改めて、まるで仕事で実績のない新人の自信満々で作り上げた企画書を読み終えた後の上司のような態度で、

「それで、どうしたいんだ?」

今後を問うてきた。



泣く魔術師。
泣かない魔術師。
それは男女の違い。
配点:(我慢)


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