小説『とある白井黒子の兄』
作者:葛根()

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第五章 無能力少女と兄




ファミレスだ。
学生対象にしているため商品の値段は安くてフリードリンクも豊富であり、料理も美味しいのだ。
初春飾利と佐天涙子の正面には白井紅太が座っていた。
それは白井紅太が割引券を持っていたので、それに便乗する形で二人は昼食を頂いたのだ。
偶然ではなく、二人の内一人。初春飾利が白井紅太の行動を監視カメラで追い、偶然を装ってばったり出会ってしまったという演出をした。
目的は勧誘である。
一方、佐天涙子は風紀委員(ジャッジメント)に遊びに来ていた。
友人の黒い部分を垣間見たのだが、彼に会えるならいいかという理由で初春飾利に付いていったのだ。

「結局、いつになったら風紀委員(ジャッジメント)に入ってくれるんですか?」
「やだよ」

佐天涙子は何度目かのやり取りにため息をつく。
意外に初春ってしつこいんだなぁ。

「ところで涙子達の学校生活はどう? 楽しい?」

あ、無視した。
初春とのやり取りの間も話しかけてくれるので、嬉しいのだが逃げ道に使われている気がする。

「え、ええ。まあ、まだまだレベル0ですけど。目標は目指せレベル1です」

アレ以来、地道に能力開発をしている。
その熱心さが教師に伝わったのか、褒められた。

『佐天さん。熱心でよろしい。心境の変化ですかね。いい? あなた達の年齢は心と身体の成長期です。考え方が変われば一気に伸びる子もいますよ』

「それで良い。それと初春。風紀委員(ジャッジメント)には入らん。俺より美琴に声をかけてみればどうだ?」

初春の目が輝いていた。
あちゃー。御坂さん。頑張れ。



佐天涙子はつい先程の事を思い出す。
ファミレスを後にした際に初春飾利は風紀委員(ジャッジメント)からの呼び出しで不在になった。
本当はこのあと三人でセブンスミストでウィンドウショッピングをする予定であった。
それが二人きりのデートのようなモノになるとは思いもしなかったのだ。
紅太さんとは出会ってまだ間もないし、これも数度目の邂逅である。
二人きりとなると初めてのことである。
若干の緊張と期待と興奮が織り交ざる。

「さ、行こうかー」

衝撃が走る。
心の準備も無いまま手を握られた。

「え? あ、はい」

その態度は慣れたものであり、容易に予測ができる。
妹の黒子さんとこんな感じなんだろうなぁと。
それでも、嬉しいと思う。それにドキドキする。

「あ、あのー、慣れてますね。こういうの……」

自分でも驚く。口が滑った。人生初の自分の意思とは関係なく口が動いたのだ。

「ん? ああ、手か。黒ちゃんといつのも感じだった。嫌なら放すよ」

手から力が抜けるのがわかる。
それを放してしまうことは相手の心を放してしまいそうであり、焦燥感が奔る。
だがら、思わず握る。自分から。

「い、いぇ。ちょっとびっくりしただけです。是非このままで、お願いします!」



驚くことに、洋服や下着に詳しかった。
それは女性物である。選ぶのは男性である。
複雑な感情を持ったのは佐天涙子であった。

まあ、黒子さんとの付き合いとかで詳しくなったと。
それでも、自分のバストサイズにぴったりのブラを出された時は驚いたと共に若干引いた。
ならば仕返しとばかりに女性物の洋服を私が選び渡して見るとなんの抵抗もなく、更衣室で着替えたのだ。

「うわー、かっわいいです」

顔立ちが黒子さんに似ているとは思っていたが、女の子の格好をすると黒子さんの姉に見える。
それより、なんで女装になんの抵抗がないんですか?!

「黒ちゃんに良く着せ替え遊びさせられたからね」



次々に店内を回る。
時間を忘れるというのはこのことだろう。
気付いたら午後6時間際であった。

「まじーな。こりゃ警備員(アンチスキル)に見つかるとうるさいぞ」
「もうそんな時間ですか?! ちょっとやばいかも」

それはバスの時間が終了してしまう事を示していた。
プレゼントされた服が荷物だ。それに歩いて帰るには遠い。
なによりスキルアウトが動き始める時間でもある。

「ああ、心配するなよ。送って行くから」
「え? いいの?」

たった一日で随分と仲良くなったと思う。
言葉から敬語が消えたのは相手が必要ないと言ったからだ。

「ま、少し我慢しなよ?」
「うわっ!」

お姫様抱っこというやつだ。

「きゃー!」

次の瞬間には景色が高速に移り変わった。
自分の体重を気にする間もなく、文句を言う暇もなくただ驚いた。
車とか抜いてるんですけどー!!
うぎゃー。と、飛んだ。
交差点の信号機の上を飛び越えて着地。
衝撃もなく、速度も落ちなかった。
絶叫系の乗り物は苦手ではない。だが、これは叫ばずにはいられない。

「非常識ですー!」



ぐったりと言う言葉が今の自分にどれだけ似合うだろうかと思う。
だが、自分の部屋が見える所までの移動時間はわずか数分であった。

「楽しかったよー」
「最後のがなければ満点だった。いやー、あれはもう無しで」

ハハッと乾いた笑いで答えが来た。
そして、

「うんうん、じゃあまたな」

頭を撫でられた。
はあ、私は妹かなんかですか?
今日は紅太さんの事をよく知る日だった。
人をからかうのが好きな人だ。
女装が似合う人だ。
優しい人だ。
私の憧れる人だ。
そして、心を動かされる人だ。

「うん、じゃ、またね。紅太さん」

私の顔は赤いだろうか。
それでも言う。

「今日は楽しかったです。よかったらまた二人きりで遊んで下さい」
「おっけー」

俺、帰るわ。と短い言葉を残し、夕焼け空の中に飛んでいった。



親交と進展
少女が想うのは何か
配点:(喜び)
 



-6-
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