小説『とある白井黒子の兄』
作者:葛根()

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第八章 虚空爆破事件と兄 後編




街を疾走する中、白井黒子は同僚の安否と先に飛び出した兄を想う。
第一七七支部を出発する前に同僚である初春飾利に事件の続報を知らせた。
偶然、観測地点であるセブンスミストにいたのだ。
知らせたはいいが、重大な要件である事を伝える前に避難誘導を開始すると言って電話を切られた。

「今回のターゲットは初春だと言うのに!」

空間移動(テレポート)を使い全力で現場に向かう。

「お兄様も、黒ちゃんの友達に万が一があったら悲しむだろ〜。とか言い残して飛び出すし。全く自分勝手すぎますわ!」



居合わせた御坂美琴に協力を仰ぎ、セブンスミスト店内の一般市民の避難は滞り無くすんだ。
店側の協力もあり、爆弾が配置されている事を悟られないように店内放送で電気系統のトラブルという名目で避難させた。
パニックは避けられた。あとは、肝心の爆弾を探しだすことだ。
とりあえず、避難終了を報告するために白井黒子に連絡をとる。

「全員避難終わりました」
「初春! 今すぐそこを離れなさい!」

悲鳴にも近い通話音に驚く。

「過去の事件全てで風紀委員(ジャッジメント)が負傷していますの! 犯人の真の狙いは、観測地点周辺にいる風紀委員(ジャッジメント)! つまり今回のターゲットはあなたですのよ! 初春!」
「え?!」



セブンスミスト周辺の人集りに上条当麻はいた。
せっかく幼女と戯れていたのに店内放送で本日終了のお知らせが届いたのだ。
不幸だ。

「あれ? あの子。どこだ?」

はぐれた。自分に付いてきているとばかり思っていたのだが、人ごみの中、はぐれてしまったようだ。
そして人集りの中から誰かのつぶやきが聞こえたのだ。

「もしかして、さっきの放送って方便で、最近起きてる連続爆破事件じゃね? 風紀委員(ジャッジメント)の娘もいたし、爆弾があるって知らせないのは店側のファインプレーだね」

同時に、自分の不幸体質から最悪の結論が導かれる。
彼女はまだ店内にいる。さらに、爆弾の存在が事実だとすれば最悪だ。
そして、目に入って来たのは避難誘導を手伝っていたビリビリだ。

「ビリビリ。さっきの子、見なかったか?」
「は? 一緒じゃなかったの?」
「外にいないんだ。もしかしてまだ店の中にいるのかも」
「なにやってんのよ!」

自分でもそう思う。しっかりと手を繋いで一緒に外に避難するべきだった。
横断歩道を挟んだ向こう側のセブンスミスト。
そちらに駆け出そうとしたその時、疾風と共に現れた人物がいた。

「到着〜。ん? 不幸の塊がいるな。ちょうどいい。来い!」
「紅太?! 何だよいきなりっ?!」

普段の容姿では紅太と呼び、ソレ以外の容姿ではレッドと呼ぶ。
同一人物なのだが自分の中では別人として見ているため区別の仕方として呼び方を変えるという方法をとっているのだ。

「美琴も一緒か、不幸量産機の癖にピンポイントで役立つな」
「はぁ? 紅太さんとコイツが知り合い? どういうこと?」

疑問を浮かべるビリビリだが、そんな場合ではない。
紅太の真剣な顔がそれを伝えている。

「美琴は事の詳細を知ってるな? だったら外で犯人らしき人物を探せ。不幸は俺と来い」
「え?」

疑問の声がビリビリと重なる。
犯人という言葉からセブンスミストで爆弾事件が関わっていると理解できる。
そして、焦る。幼女が危ない。

「人助けに行くぞ」

その言葉で全て伝わる。

「おう!」
「ち、ちょっと?! 私も行くわよ!」



結局、御坂美琴は俺達に付いてきた。
話を聞かないやつだ。だが、助かったのは初春飾利と最後に別れたフロアの場所を覚えていた事だ。
二人を脇に抱えてエスカレーターを二足で登り切る。
そして、

「おねーちゃーん」

子供の女の子が呼ぶ相手、初春飾利が居た。
女の子の手の中にはカエルの人形。

「メガネかけたおにーちゃんがおねーちゃんにわたしてって」
「よかった無事だったみたいだ」

抱えていたのを開放していた人物が俺の横で安堵した。
初春飾利もこちらに気付き何か言いたげであった。
だが、初春飾利は人形を女の子から受け取り投げ捨てる。

「逃げて下さい。アレが爆弾です!」

投げ捨てた人形から女の子を守るように初春飾利は女の子を抱く。
それを守るように御坂美琴が立つ。
更にその先に俺と上条当麻が並ぶ。
直線上に並ぶ。
人形が異形を始める。

「防げ無能」
「はは、少しは遠慮ってもんを――」

上条当麻が俺より前に立ち構えて右手を差し出す。



轟音の後。
静けさが支配する空間で御坂美琴は目の前に居る両名を見る。
超電磁砲(レールガン)で爆発物ごと吹き飛ばそうとしてコインを取り出したのだが手から滑り落ちた。
間に合わないと思った。
その先にいた両名は普通であった。
先頭のツンツン頭からU字を描くように私達の居る場所は爆発の被害を逃れていた。



「スバラシイぞ! 僕の力だ! 徐々に強い力を使いこなせるようになってきた! あと少し数をこなせば、無能な風紀委員(ジャッジメント)もバカにしてきたアイツらもみんなまとめて殺せる!」

人気のない路地裏。
不意に肩に触れる感触に驚き振り返る。

「ガッ! ゲフッ!」

衝撃。
そして痛み。
顔面を殴られたのだ。

「俺はさぁ。お前がどんな被害を出そうとも知ったこっちゃないと思っていた。それこそオマエをバカにしてきた奴が死のうと関係のない話だからな」
「な、何を言っている?」
「でもなぁ。無能な風紀委員(ジャッジメント)だと?! ふざけんなよテメェ」

身体が浮く。
首元の服を掴まれて持ち上げられたのだ。

「ひっ」

恐怖だ。アイツらとは次元の違う明確な殺意を感じる。

「残念な事にテメェの目論見は外れた。死傷者どころか誰一人カスリ傷一つ負わなかったぞ」
「バカなっ! 僕の最大出力だぞ?!」

いつもこうだ。
何をやっても上手くいかない。
力のある奴がムカつく。
僕をつかむ彼。
左手は僕を掴んでいる。もう一方の右手でビルの壁に手を当てて、そのまま壁の一部を毟りとった。

「あぁ……」
「昔はできなかったけど、努力して頑張ってレベルを上げた。風紀委員(ジャッジメント)だって頑張ってるさ。それに、テメェみたいに楽してレベル上げしている奴に風紀委員(ジャッジメント)がどうこう言われたかねぇ!」

掌に収められた壁の一部が握撃で砕ける。
その光景を目に入れた。
そして、右手が僕の頭に添えられて、

「こ、殺さないで……」

懇願した。

「ま、もう一発くらいくらっとけ!」

拳骨だ。
それもあまり痛くない。
身体的なダメージはないのだが、何故か心にダメージが来た気がした。



「容疑者の少年が自首という形で確保されました」
「……。了解ですの」

先に到着しているはずの兄の姿はなく、負傷者無し。死傷者無し。犯人は捕まる。
残る風紀委員(ジャッジメント)の仕事は事後処理だ。
初春達がいた場所だけ全くの無傷。
一体、能力をどう使ったらこういう風になりますの?
疑問をぶつけるべき相手の兄に向かって思った。
初春は背を向けていたため結果としてお姉様がどうにかしたと思っているのだが、私は別の可能性を捨て切れていない。
何かしたに違いないのは兄だ。たぶん。



結局私は何もしていない。
実際に初春さん達を救ったのはアイツらだ。

「いいの? 今名乗り出たらヒーローよ?」

爆破を防いだ人物と犯人を自首させた人物に声をかける。

「おい、不幸。なんかキレ気味に聞いてきてんぞ?」
「はあ。ビリビリ。みんな無事だったんだからそれで何の問題もねーじゃんか。誰が助けたなんてどうでもいい事だろ」

なーに、カッコつけてんのよ。

「あのなぁ。美琴。俺らはヒーローになりたいわけじゃない。ただ困っている人がいたから助けた。そこにお礼はあっても名誉はいらないんだよ」
「そーゆーこと」

お人好し。偽善者。
だんだん紅太さんの本性が見えてきた。
性悪……。
立ち去る二人を見送る形になった。

「スカしてんじゃないわよ! 私にカッコつけてんじゃないわよ! ムカつく!」



正義の味方かお人好しか。
事件は終焉を向かえた。

配点:(主人公達)



シスコン早見表。
主人公はレベル4。
レベル0 無能。感心がない。落ちこぼれシスコン。
レベル1 低能。会話が少ない。メールのやり取りをする程度のシスコン。
レベル2 異能。親しいが家族レベル。買い物の荷物もち程度のシスコン。
レベル3 強能。休日に一緒に遊びに出かけれるレベルのシスコン。エリートシスコン扱いされ始める。
レベル4 大能。一緒にお風呂に入れるレベルのシスコン。互いに尊敬の価値が得られるシスコン。
レベル5 超能。一線を超えちゃってるレベルのシスコン。シスコン軍曹とも呼ばれ肉体関係をほのめかす重度のシスコン。




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