小説『IS〜インフィニットストラトス―ディケイドの力を宿す者 ―』
作者:黒猫(にじファン)

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「ふぅ……」


ウィザードは変身を解除し、俺と夏海を見つめた


何かを思ったように突然、歩みだしてくる


「怪我ないか?」


微笑みかけながら俺の肩に手を置いた


「あ、はい……助けてもらって、ありがとうございました」


頭を下げた


すると、彼は不思議そうに目を丸くする


「……君たち、あの化け物見てなんともなかったのか?」





そういや、流してたけど……


普通、もっと焦るよな


「え、えっと……」


俺が言いよどんでいると


「まぁ、いいや。俺は操真 晴人……」


「あ、神谷 士です」


「海東、夏海です」


夏海はどこか警戒しているようだ


「そうか、まぁなんかあったらまた連絡してくれ」


そう告げて、立ち去ろうとする晴人さんに


「待ってください」


と声をかけた


「なに?」


「あの、詳しい話を聞きたいんですけど」


晴人さんは、じっと俺を見つめた


俺も真剣な眼差しで見つめ返す


「……いいよ。ついておいで」


少しして、晴人さんはそう笑いかけた


「はい」


夏海は始終、彼を睨むように、観察するようにしていたが……








「大体、分かりました。要するに『絶望』して死亡した人間から生まれる怪物ってのがファントム」


連れてこられたのは、骨董品屋


ソファに座り、お茶をいただく


「そういうこと……っぐ。あんまり驚かないんだな」


ドーナツを頬張りながら、晴人さんは無表情のまま返す


「まぁ、色々ありまして」


「そうか……で、君たちはどこから来たの?この辺に住んでるのか?」


おっと……来たか


「いや〜。実はですね〜」


「別世界から来たの」


おいぃ!


夏海ェ……そんなストレートに


「別世界……面白いことを言うな」


「本当よ。貴方が信じるか否かは知らないけどね」


「なら、信じてみようか……もう遅いし、今日はここに泊まるといいよ」


晴人さんは奥の小さな部屋に向かって声をあげた


「いいだろ?」


「ああ、部屋はまだあるから……」


やっさしそうな顔だな、おい


「おおっ!ファントムに襲われたんだって?災難だったな?ゆっくりしていくといいよ」


「そういうこと。明日はこの街を紹介でもしてやるよ」


そう告げて早々と立ち去った


「ありがとうございます」


「いやはや、大変だったろう……さ、こっちだ」


そうして、輪島繁さんによって俺たち二人は部屋に


「輪島さん」


「ん?」


布団を出してくれた彼に俺は問いかける


「晴人さんはいつから魔法使いに……?」


「それは……」


「教えてください」


これは、俺たちが学園に帰る手がかりも探さないといけないし……


「あいつはな……」


そうして、語られたあの人の過去


ファントムを生み出す儀式の生贄にされかかるが、強い意志でそれを乗り越え、白いローブを纏った魔法使いから「仮面ライダーウィザード」に変身する力を授かった


俺だったら、多分……無理だろうな


「そういうこと、ですか……」


「そういうことだ……」


輪島さんはそのまま立ち去る


残された俺と夏海は座ったまま何も言えずにいた


「……思ったより重いわね」


「……そうだな」


夏海が顔を歪めた


「でもさ、あの人はやっぱりすげーよな」


「…………」


「自分と同じ目に合わないようにって……それって中々出来ることじゃないと思う」


夏海は俺の表情を見て、目を少し丸めた


そして俺の肩に寄りかかる


「大丈夫よ……貴方だって、たくさんの人を救ってきた。あの人と変わらないわ」


「……そうかな」


急にどうしたよ


照れるだろうが……














翌日


晴人さんに連れられて俺たちは色んなところを紹介してもらった


「で、この塔がこの街の希望……プラネット・タワーね」


そう、指差されたのは言うほど高くない小さなタワー


でも……


「なんか、見てるだけで元気出てきそうですね」


「そうだろ。士は中々分かってるな。夏海ちゃんはどう?」


「ま、まぁ……」


夏海は少し引き気味に頷く


「あ、あのこいつ少し人見知りするタイプでして」


「誰が人見知りよ」


痛い、痛いよ夏海さん


「仲いいな」


晴人さんが微笑みかける


ドーナツ頬張りながら


「晴人さんはドーナツ好きですね〜」


「まあな」


またも一口


「それにしても、どうやったらお前達は帰れるんだろうな」


晴人さんが首をかしげる


「多分、何かしらやらないといけないことがあると思うんですけど」


「ふ〜ん。面倒くさいな」


晴人さんが頭をボリボリと掻いた


「……そろそろ、帰ろうか」


「はい」


今日も特に収穫はなしか


いや


「すいません。俺、夏海と少しこのタワー登ってから帰ります」


「そうか……じゃあ、先帰ってるぜ」


そう言って晴人さんは立ち去っていく


「さてと……登ってみようか」


「そうね……何かしら見つかると思うし」


俺と夏海はタワーを登る


展望台?みたいなところまではエレベーターだ


意外にも人はたくさんいて、老若男女問わなかった


「いい風だ」


「じいさんや、あそこがわしらが住んどる家じゃよ」


「お父さん!見て!飛行機!」


「おっ!なら雄太は大きくなったらパイロットか?」


「いや、無理だから。もっと安定している公務員になるよ」


「…………」


お父さん……頑張れ


「でも、本当にいい景色ね」


「そうだな」


そんなに高いわけじゃないんだけどな


なんだろ


「写真、撮っとくか」


「カメラあるの?」


「いや、写メだよ……ほいチーズ」


パシャリ


「……あれ?」


「何よ」


「ピンボケしてる」


しかも、考えられないほど


「携帯、古いんじゃないの?」


「バカ言え。三ヶ月前に買った最新スマホじゃい」


失礼な


まぁ、この世界じゃメールも電話も出来なかったけど


皆、元気かな?


「なら、貴方にはセンスがないのよ」


「むぅ」


そんなに言われるとなんか悔しい


「……寒くなってきたわ」


確かに、高いところだから肌寒いな


「降りようか」


「ええ」


そうしてタワーを降りた


帰ろうか


そうして、骨董品屋へと足を向けた瞬間






ズドォオオオオオオォオオンン!!!!!!



爆発音が響く


目を向けると……


「ファントム……」


頭は牛だろうか。二本の角が


体はゴリラのように強靭だ


「これが、プラネット・タワー……これをぶっ潰して、ファントムを一気に産むか」


させるかよ


走りこもうとするが


「士、避難が優先よ」


見てみると、若いカップルや親子、老夫婦までもが逃げ遅れている


「でも……!」


「急ぎなさい」


………


「くそっ!」


さっさと避難させないと!


「ほら、早く逃げろ!急げ!」


「早く逃げなさい!早く!」


必死に避難させようとするが……


「タ、タワーが……」


「あの、化け物に」


「言ってる場合か!」


くそ、だめだ


完璧に依存しちまってる


どうすりゃ


そのとき、弾丸がファントムを撃ちぬいた


「待たせたな!良く頑張った。あとは任せろ」


晴人さんはすでに変身していて、ファントムに突っ込んでいく


「はあぁ!」


銃は剣となって、斬り付けていった


「貴様の相手はこいつらだ!」


よろめいたファントムは数個の石を投げつける


すると


「くずヤミーみたいね」


夏海が呟く


これが、昨日晴人さんが言ってたグールか


「くそっ!邪魔だ!どけぇ!!」


晴人さん……焦ってるな


動きが荒い


「そうやって、眺めていろ!このタワーが崩れ落ちるのをな!!」


「やめろぉおおおおおお!!」


そうして、ファントムは角から紫の禍々しいレーザーを放つ


タワーは音を立てて崩れた


晴人さんは膝をつく


変身は解除された


「晴人さん……」


そして、阿鼻叫喚が響き渡る


誰もが、叫び、絶望した


「うわああああああああああ!!」


……嘘、だろ


なんだよ、これ


「よくやったわ」


「おおっ!!絶望してるなぁ!ははははは!」


声がした方を睨みつけると


黒髪の美少女と


無精髭を生やした派手な服装の青年が


「この調子で続けなさい」


「そういうこったな!」


「お任せください」


そうして、ファントムは次の地点へと向かったのだろう


俺たちには、そこが分からない……


晴人さん、そうだ


「晴人さん!」


彼に目を向けるが、俯いてしまっている


おいおいおい


「晴人さん!」


「俺は、だめだ……」


暗い声


まるで、死人が出しているような……


「散々、格好つけて……結局……」


そこで、俺の中の何かが切れた


「おい」


俺の声に晴人さんが顔を上げる


俺はその頬に拳を入れた


「……何しやがる!」


髪を撒き散らし叫ぶ晴人さん


「あんたは!希望を与える存在じゃねぇのかよ!」


怒鳴りつける


しかし


「はがっ!」


俺も晴人さんに殴られた


「俺が頑張ったって!こうやって絶望してちまってるじゃねぇか!」


俺はよろめきながらもまたも殴る


「じゃあ!それで諦めんのか!?エンゲージリングは!」


殴られた


「この人の数だぞ!」


殴る


「方法はいくらでもあるだろうが!探せよ、あがけよ!」


殴られた


「出来ないことだってあるっ!こんなリングがあったって!」


晴人さんは変身リングを投げつけた


殴る


「いい加減にしろ!」


殴られた


「お前がな!」


倒れこむ


息が乱れて顔が痛い


くそ……


「分かったろ!もう、だめなんだよ!」


納得できねぇ……


絶対に


体中が痛い


ふらふらと立ち上がり、よろよろと歩く



晴人さんの前で俺は笑い―――







瞬時に憤怒の表情で思いっきり殴りつけた


顔面を


今出せる最高の力で!


「アンタができるか、できないかなんて……どうでもいいんだよ」


彼に向かって歩み寄る


「今、大事なのは!あんたが本当は諦め切れてない癖に!諦めた振りして諦めたことだぁ!!」


胸倉を掴む


服が千切れんばかりに


「っ!」


晴人さんが目を見開く


「諦めれないんだろう!?助けたいんだろ!?無理なんて、決め付けるなよ……」


力を抜く


晴人さんは俯いたままだ


「アンタがしちまったこと……それは、自分との約束を破っちまったことだ……


そのせいで、沢山の人がこうやって絶望した。崩れ落ちたタワーの瓦礫で怪我した人だっている……


アンタが自分を責めるんなら、俺は止めぇ……でもなぁ!


もしも、そのことで贖罪を望むなら……自分を責めるんじゃなくて、そんな人たちに、沢山の人たちを、あんたの魔法で救え


それが、あんたの願いだろう?」


「……」


「それでも、アンタは自分を許せないかもしれない。周りだって、許しちゃくれないかもしれない。力があるくせにってな……


でもきっと、それが贖罪ってもんだと思う」


俺は、彼の肩を掴む


「もしも、辛すぎて、潰れそうってんなら」


「……つか……さ」


「諦めてしまいそうになるってんなら、そん時は」


「……つかさ……っ」








俺が半分―――背負ってやる!!







晴人さんは、はっと肩を震わせた


「つ、士……」


「約束する―――俺が、希望の最後の希望だ!!」


左手に変身リング……フレイムを嵌めた


「さ、行きましょうか」


立ち上がり、振り返る


夏海が、皆を介抱しているが、ひび割れが始まっている


「時間が無い……晴人さん!アイツが次に狙う場所は!」


「……っ!あそこか!」


晴人さんは全力で走り出す


それが、嬉しくて自然と笑みが


「ライダー舐めんなよ」


呟いた俺は、晴人さんを追いかけた

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