小説『IS〜インフィニットストラトス―ディケイドの力を宿す者 ―』
作者:黒猫(にじファン)

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空港


週末もあってか、多くの家族連れが笑顔で搭乗口へと歩みを進めている


中には、スーツを着た男や女もいる


それでも、仕事に精を出し生き生きとしていた


そんな中、肩を落としながらだらだらと歩く男が一人


神谷 士だ


イヤホンから流れてくる曲すら不快になりそうな苛立ち


上層部からの命令


それは、あまりに悲しすぎる別れだった


箒の怒った顔も


セシリアの垂れた目からこぼれる笑顔も


鈴の無邪気な笑みも


シャルの母みたいな優しい微笑みも


ラウラのむすっとした仏頂面も


簪の気弱そうな小動物を思わせる表情も


楯無さんのいたずらを思いついた子供みたいな意地悪なにやけ顔も


夏海の包容力のある……遠くから支えてくれそうな、そんな呆れ顔も


もう、見られない


千冬姉も山田先生も、本音ちゃんも、虚さんにも


鷹月にも、ダリルさんやフォルテさん、クラスメイトにも、先輩にも……もう会えない


「っ!」


流れそうになる涙を必死に堪える


泣いてたまるか……


自分の胸を強く叩き、前を見据える


「……ふぅ」


息を吐いて、呼吸を整えた


いつまでも、くじけてるなよ


心の中の俺がそう怒鳴っていた


手荷物検査を終えた俺は、そのまま出発ロビーへ


あとは、飛行機が来るのを待って


大阪まで行く


そこで、正式な手続きをしてその後は、そこで働く


ぼんやりとそこでの俺を想像した


自虐的に笑って、やめる


自販機で買ったコーラを一口


炭酸の刺激的な喉越しに少し、顔をしかめてまた目を閉じる


「……」


そのとき、アナウンスが流れた


『まもなく……羽田発、関西空港行きの飛行機が到着いたします。もうまもなくお待ちください』


いよいよか……


缶を捨てて、ポケットのチケットを確認


もう何度目かになる、ため息と同時に、何度目かになるか分からない思考がめぐる


―――本当に、このままでいいのか


―――いいわけ、ないだろう


―――でも、どうしようもないだろう


―――そう、だよな


―――諦めるしか、ないよな……


―――くそっ


拳を握り締めた


血が、滴りそうになるくらい


実際に、手の平の皮はちぎれ、血が滲みそうだ


目は閉じられているが、心の中は穏やかではない


今すぐにでも、ここにあるソファを蹴飛ばしてしまいそうなくらい


そのとき、またもアナウンスが


『お待たせしました……汰只今より羽田発、関西空港行きの搭乗が許可されました。ご利用のお客様は……』


来たか


じゃあな、IS学園


じゃあな、楽しかった学園生活


……じゃあな、元気でやれよ




みんな








『尚、チケットは必ず―――って、何ですか!?貴方たちは!?ちょ、やめてくださ!きゃっ!』


アナウンスが乱れた


なんだ?


客も俺もアナウンスが流れている方へ目を凝らす


トラブル?


そのとき、耳を射すような怒声が響いた


『おい!士!聞こえてたらすぐに、出てきやがれ!アメリカの代表がこんなので黙ってるなんて思うなよ!』


『そうよ、士くん。話は聞いたわ……本当に、このままでいいの?……って、ちょっとイーリ!何よ!』


『ナタルこそ!私が先に言ってたんだろうが!』


この声は……


『そんなことは、どうでもいいわ』


『そうだな……私たちが言いたいのは』









『このままじゃ、納得できないくせに……納得したような振りするな!』


『無理しない!』


『気楽にいけや!それが、お前だろう!』


『貴方は、貴方でいいのよ』


ナターシャさん、イーリスさん……


これを言うためにアメリカから飛んできたのかよ


ったく、どんだけお人好しなんだ


『君(お前)に言われたくない!!』


……なんか、怖い


でも……


「ありがとう、ございます」


近くで呆然としている添乗員の肩を突いた


「すいません。今、このアナウンスしてる人が捕まったらこう伝えてください」


「え?」






「言われなくても、分かってます!って!……お願いしますね!」


そう言って駆け出した


「ロマンはどこだ」














士side-out


校門をくぐり、彼女達が訪れたのは日本IS管理支局


東京に設置されたそこは、東京ドーム30個分の敷地を有しており、日本が所有する全てのISを管理する場所で


IS総合管理連合のトップ……ジョン・ウィリアムスはいる


彼女達は彼に直々に告訴するのだ


「覚悟は、いいかしら?」


鈴が先陣を切るように、皆の前に立った


「当然ですわ」


「当たり前だ」


セシリアとラウラの意気込みに他の皆も頷いた


力強く


「行きましょうか」


扇子を広げて、楯無が歩き出した


応接間がある建物に行くには、IS学園にもあるようなアリーナ設備もあるグランドを抜けなければならない


彼女達は、堂々と足を踏み入れた


道を閉ざそうとする警備員はいない


IS学園の生徒であることは服装で分かるし、そのうえ……この決意を秘めた目は何か止められない気がしたからだ


グランドに出る彼女達


すると、そこには目的の人物がただずんでいた


「なんだ、君たちは」


ジョンだ


重々しく尋ねた彼に口を開いたのは、夏海だった


「IS業界のトップがこんなところに立って、よくそんなことが抜け抜けとほざけたものね」


その文句に容赦など無かった


「僕……私たちが来るのは、分かってたんじゃないですか?」


シャルが続く


「士への、命令を……取り消して、ください」


簪もその小柄な体で精一杯、喉を振るわせた


しかし……


「やはりな………答えは、だめだ」


そう告げる彼に揺るぎはなさそうだ


「これは、世界の決定だ……彼は優秀すぎる。学生にしておくのはもったいない……それは、君たちが一番分かっていることでは?」


「ああ、確かに分かっている……」


箒が、一歩前に出た


「でも、それでも!」


セシリアが喉を振るわせる


「彼は、士は!私たちに必要なんです!」


鈴のツインテールが揺れた


「国がとか、世界がとか関係ありません!」


シャルが足を踏み鳴らす


「異論は認めんぞ」


ラウラの黄金の眼が輝いた


「お願い、します」


簪も頭を下げた


「ロシアの代表への挨拶もないのは、失礼でなくて?」


楯無もおどけて笑う


しかし、その目は本気だ


「私は、ISだとか……世界の決定だとか知らない、どうでもいいわ……でもね!」


夏海がグランド全体に響くほどの怒声を


「私の好きな人に!ちょっかい出さないでもらえるかしら!!」


それは、普段の彼女を知るものには想像もできない夏海の声だった


それを聞いたジョンは、それでも表情を変えず、ただ一言









「黙れ」


怒りが込められているわけでもない


単純なものに聞こえた


「貴様等の茶番に付き合ってやるのは構わんが、この決定は変わらんぞ」


指を鳴らした


すると、アリーナから


空から


背後から


右から


左から


ISに詳しい者なら誰でも知っているような腕利きの操縦者達がずらりと武器を構えていた


「この数の代表格の操縦者は相手にしたくないだろう……さっさと去れ」


ジョンの声はどこまでも深く、重い


「断るわ」


楯無が専用機【ミステリアス・レイディ】を展開


水のベールがいつにも増して、高く波打っていた


「そうね……ここまで、こりゃね」


鈴も頷きながら【甲龍】を展開した


皆も、次々と専用機を展開する


「行くぞ!」


箒の掛け声と共に少女達は弾けた














ものの、十分


それは、六百秒という時間


グランドの中心で大きく息をするのは、まさに夏海たち学園側だった


「思ってた以上……ですわね」


「少し、甘かったかな」


セシリアとシャルがボヤく


「諦めろ……貴様等もよくやった。もう学園に帰れ」


ジョンは嗜虐的に笑い、嘲る


しかし、それが引き金で彼女達はまたも空へ、地上を、舞う


それでも、世界を飛び交う操縦者達の前にひれ伏してしまう


「くそ!」


「士を……奪い、返す……」


「でも……」


実力の差がそうさせなかった


「少し、おいたが過ぎたな……反省してもらおう」


ジョンの右手が挙げられる


すると、IS数機が武器を構えられた


だめか……ここにいる


皆が、そう思ったとき……


しかし、どこか予想していた通り……爆音が響いた


「なんだ?」


ジョンが通路へ目を向ける


「遅いわよ……」


「でも、今回は許してあげる」


夏海がシャルが、呟く





「俺は、皆に約束した……たとえ、どんなことがあっても絆を忘れるな」


彼は、腰部に手を当てた


「これはな、俺の先輩二人が教えてくれたんだ……たとえ、何があったって絆があれば、何だって乗り越えられる……


そんなことを教えてくれた二人で一人の探偵がさ」


その手には、バックルが……


「俺は、皆に約束した……たとえ、どんなことがあっても大切なものを守り通すことを忘れるな」


それは、ベルトとなり装着される


「これも、俺の先輩が教えてくれたんだ……欲望に埋もれたって、何かを守るためなら……それでもいいかもなって……」


エンジン音を鳴らして、彼はカードをかざした


「俺は、皆に約束した……たとえ、どんなことがあっても友情を忘れるな」


それをバックルへ


「これは、最近だな……リーゼントが言ってたよ。ダチは青春の特効薬だ。なんでも治っちまうんだよ!って……


友情は、なんだって出来るんだって……」


『KAMEN RIDE・DECADE』


彼は、見慣れたマゼンダの戦士になりて尚、歩む


「俺は、皆に約束した……たとえ、どんなことがあっても希望を忘れるな」


一枚のカードを取り出した


バックルは挿入口を九十度に傾けてある


「それも、つい最近さ……どんなことがあったって、希望さえありゃ大抵のことは出来るんだって」


暗がりから、遂にグランドへ出た彼はフルスキンながら、笑っているように見えた


「貴様……どうして」


ジョンが目を見開く


「……約束もしたからな。俺が皆の最後の希望だ」


『KAMEN RIDE・WIZAED』


『ヒー・ヒー・ヒー、ヒー、ヒー!』








「お前は、何者だ」


「俺は、いつまでたっても……通りすがりの仮面ライダーだ!覚えておけ!」




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