小説『IS〜インフィニットストラトス―ディケイドの力を宿す者 ―』
作者:黒猫(にじファン)

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夏休みが明けた翌日からはもう授業が始まる



面倒くせー、神谷 士です



今は午後の実習のためにロッカールームでお着替えタイム



俺専用で作られたそのロッカールームは無駄に広い



「君に伝えーたいおーとが、君に届けーたい音が♪

たくさんの点は線になって 遠く彼方へと響く♪」



神谷君は初音〇クも聴くんです



なんて思ってると



「誰だ?」



後ろに気配を感じて振り返る



そこには知らない女子が立っていた



口元には扇子が当てられており、どこか余裕を感じさせる態度だ



「バレちゃった♪」



リボンの色は二年生、一応先輩



「誰ですか?」



「んふふ」



俺の問いかけには笑ってやり過ごし



「あっ」



と俺の後ろを指差す



つられて後ろを振り向くと



「引っかかったなぁ♪」



むにっと頬を扇子で押される



「………何か、用すか?」



若干イライラしてきた俺は苛立ち気にその扇子を手で弾く



「それじゃあね。キミも急がないと、織斑先生に怒られちゃうよ」



時計はすでに授業開始から二分を過ぎた時刻を表していた



相手もこれで退くと思ったのだろう。どこか速く行きなさいオーラを出してる



―――でも



「俺の質問に答えてないっす……あんたは?」



撤退しようとする彼女の腕を掴む



「わお……私の腕を掴むなんて……やるわね」



だから……!



「俺の質問の答えになってな―――」



再三、同じ文句を言おうとした瞬間



蹴りを入れられた―――って、おいおいおいおいおいおい!



腕を離して左手でその脚を掴む



「あれ?もしかして、敵?」



つまらない冗談だ…………冗談だろ?



「次は―――これよ!」



今度は拳、結構速い



って、ガチじゃね?



「危ねっ!」



その拳をまたも左手で受け止め、反らす



体が若干浮いたその隙に、右手で腹パン―――しようと思ったけど、やめた



なんか……ねぇ?



右腕では受け流した腕を取り投げ飛ばす



それでも華麗に着地し、跳びかかってくる



「もう、何なんだよ!」



面倒臭くなった俺は、手を弾くように叩き



真正面に向かい立つ



その瞬間には見事な、否見事すぎるすり足移動で俺の目の前にその女子が掌打を俺の関節に向けて放っていた



これって当たったらやばいヤツじゃね?



無駄なことはしない……一撃で倒す



その掌打を受け流すこともなにもせず、避ける



懐に入った俺は足を払って床に倒れる前に受け止める



「えっ?」



何があったか分からないような顔でその人は俺を見てる



「怪我ないっすか?これくらいは許してくださいよ」



その人を立たせてから再度、手を弾くように叩く



「まぁ、俺そろそろ行くんで……今度会ったらちゃんと説明してくださいよ」



そう言って俺は走り出す





そのあと、優しいお姉様から愛の拳骨を17発もらって涙を流したのはまた別の話









???side-



少しときは遡って士が走り去った直後



士を襲った?犯人の彼女は未だに呆然と立っていた



「大丈夫ですか?お嬢様」



そこに一人の女子がタオルを持ってやってくる



三つ編みに眼鏡のその女子はタオルを彼女に渡す



「アレ、私の本気なんだけどな〜」



そのボヤキにも似た呟きに



「そ、そうなんですか……」



と、分かってたような口調で―――しかし確実に驚いている声色でそう答えた



「さすがはあの簪ちゃんを落とした男ね……神谷 士」



「そうですね……どうしますか?」



渡されたタオルで汗を拭った彼女は



「まぁ明日、彼には色々と説明しましょう」



「そうですね……では、準備を進めます」



「お願い」



そう短く答えた彼女は彼―――神谷 士の事を考えていた



整った容姿に自分を上回る戦闘技術、あの飄々とした態度の中に隠されている揺るがない熱い何か



「欲しい……」



そう短く呟いた彼女は扇子を取り出し、無邪気に小さく笑った









士side-



翌日



今月にある「学園祭」を内容にした全校集会が行われ、校内のホールに生徒は集められていた



しっかし、昨日のあの人はいったい―――



「士?」



箒が声をかけてくる



「どした?」



「いや、難しい顔をしていたからな……何かあったら誰かに相談するのだぞ―――できれば私だけにしてほしいが……///」



最後の方はよく聞こえたかったけど、神谷くん感動した!



「ありがとな箒、やっぱり持つべきは幼馴染だな」



その頭を撫でる



いいこと言われたなぁ俺



「う、うむ。気にするな……///」



顔が赤い



「むっ!嫁よ、不倫は許さんぞ……」



ラウラが不機嫌そうにわき腹を抓る



って、痛い痛い



「今、箒にメッチャいいこと言われた……感動で泣きそうだ」



「何?なら私もいいことを言えばいいのだな……お前は私の嫁だ!」



ラウラが清々しいくらいのドヤ顔で俺に向かって言った



「ラウラ……それはいい言葉?」



シャルが聞く



「うむ、私が嫁を嫁にした時の言葉だ……あの時の……その、アレは……初めてだったんだぞ///」



「俺もだよ!」



なんで、そんなこと言うかなぁ……思い出すじゃねぇか



なんて、ことをしていると



「それでは、生徒会長から説明をさせていただきます」



静かに告げたのは生徒会の役員の人だろうか?



最悪、北海道の「あの」生徒会には絶対いないようなまじめな声だった



さっきまでのざわつきが嘘のように静まる



「やぁ、皆。おはよう」



「ん?」



思わず声が出る



だって壇上で挨拶をしているその人は





―――昨日、俺を襲った?犯人だっから



「ふふっ」



目が合った瞬間、小さく笑みを浮かべられる



……可愛いじゃねぇか、コノヤロウ



「さてさて、今年は色々と立て込んでちゃんとした挨拶がまだだったね。私の名前は更識楯無……君たち生徒の長よ。以後、よろしく」



にっこり笑顔でそう言った彼女の容姿は異性同姓とか関係無く魅了するらしく、あちこちから熱っぽいため息が聞こえる



って、更識?………まさかな……



「では、今月の一大イベント「学園祭」だけど、今回に限り特別ルールを導入するわ。その内容とは……」



一旦言葉を切った会長は扇子を取り出し、横にスライドする



その扇子を広げると同時に空中投影ディスプレイが現れ



「名付けて『各部活動対抗、神谷 士争奪戦』!」



ディスプレイに俺の真顔がでかでかと映される



あ、あんなところにほくろが……ってそうじゃなくて!



「はぁ!?」



『ええええええええええ〜〜〜〜〜!?』



俺の「はぁ!?」の後に続くようにホールが叫び声に揺れる



……皆さん、めっちゃ見てますやん



「静かに。学園祭では毎年、各部活動ごとの催し物を出し、それに対して投票を行って、上位組には部費に特別助成金が出る仕組みでした。しかし、今回はそれではつまらないと思い」



びしっと俺を扇子で指し、



「神谷 士を一位の部活動に強制入部させましょう!」



再び、雄たけびが上がる



「キタァァァああああ!」



「いいわ!いいわよ!会長!」



「今日から準備するわよ!……え?秋季大会?ナニソレ、おししいの?」



最後の人言うねぇ……



てか、俺なんて入れてどうするつもりだ?マネージャーとか嫌だよ



「ってか、俺の了承は?」



もう一回、会長を見ると



「あはっ♪」



ウィンクされた……なんでやねん



「よしよしよし!!盛り上がってきたぁ!」



「最高で一位、最低一位よ!」



「今日の放課後から全員強制参加で準備進めるから……え?お通や?知るか!」



おいおいおい、だから言いすぎでしょ



「オーケー、オーケー……そういうことなら容赦しねぇぞ、てめぇらあ!」



『FORM RIDE・W・HeatMe―――』



「―――士さん!?落ち着いてください!」



チッ、セシリアに免じて許してやるよ





同日、放課後



俺達はクラスの出し物を決めるため盛り上がっていた



一応、クラス代表



皆の意見をまとめてみたんですけど



内容が「神谷 士のホストクラブ」「神谷 士とツイスター」「神谷 士とポッキー遊び」「神谷 士と王様ゲーム」などなど……もちろん



「きゃっーかあぁ!」



却下じゃぁ!



「アホ共がぁ!誰が嬉しいんだよ!」



「断言する!私は嬉しい!……もう一度言おう!私は―――」



「女子を喜ばせる任務を全うしなさい!」



「他のクラスからも言われるのよぉ……部活の先輩とかうるさいし」



「助けると思ってさ」



「メシア気取りで!」



なんでやねん



「ちふy……織斑先生!ダメですよね?こんな企画」



助けを呼ぼう!



教室の後ろに腕を組んで立っている千冬姉に言う



「……///山田先生はどう思いますか?」



「わ、私に振るんですか!?」



オイコラ、担任or副担任



「わ、私は……ポッキーのなんかいいと思うというか……して欲しいです」



「山田先生、喜びたまえ転勤だ……アフリカ南部に今すぐ!早速手続きをしに行こう!」



そう言いながら千冬姉は山田先生を引っ張って教室を出る



「あ、ダメだ。こいつら使えねぇ……皆ももうチョイなんか無いの?」



「メイド喫茶とかどう?」



小さく手を挙げながら言ったのはクラスのしっかり者「鷹月 静寝」さんだった



「マジで?」



鷹月さんが……ねぇ



「神谷君の執事……いい!」



「それでそれで!」



「衣装は任せといて!演劇部だしね!リアーデ手伝ってね」



「当然よ!」



ってことで一年一組は『ご奉仕喫茶』になりました



どうしてこうなった……









職員室に報告書てきな書類を出しにいったが、千冬姉も山田先生もいなかったので仕方なしに机に書類を置いて職員室を出る



「やぁ」



職員室を出たすぐのところに立っていたのは―――



「あんたは……会長」



昨日俺を襲った?生徒会長殿だった……



「ん?警戒してる?」



「まぁ、一応」



あんたのせいで遅刻はするし、学園祭は面倒なことになったし



そのくせアンタは、涼しい顔して楽しそうに眺めていると……



「ああ、最初の出会いでインパクトがないと、忘れられると思って」



「忘れるか!あんな出会いで忘れるやつがいるかよ……」



思いっきり蹴りかましてましたやん……俺に



「アレは私も驚いたな〜まさか、私が負けるなんて……ねぇ、知ってる?」



「なにをですか?」



「IS学園において、生徒会長というのはある肩書きを証明しているの」



「ほぉ〜」



会長は扇子を広げ、



「生徒会長、即ち全ての生徒の長たる存在は―――最強であれ」



宣言する。その扇子には「最強」の二文字が……



格好いい……



「……とね」



「俺、勝ったんじゃないんすか?」



嘘つきだ……



「……ISでは負けないわ」



苦虫を噛んだみたいにその整った容姿が歪む



「でもまぁ、生徒会室に招待するから来なさい。お茶くらい出すわよ」



「はあ」



「その返事は肯定?」



どうせ断っても無駄なんだろ?



「折角ですしね……連れてってください」



「うむ、よろしい。素直な神谷 士くんはおねーさん好きだぞ」



「名前でいいっすよ」



「そっか。なら、私も楯無って呼んでもらおうかな。たっちゃんでも可」



「楯無先輩で」









「……いつまでぼんやりしてるの」



「眠……夜……遅……」



「しゃんとしなさい」



「りょ〜……かい……」



生徒会室のドアの向こうからはそんな会話が……この声って……



「ん?どうしたの?」



「いや、どっかで聞いたような―――どころかさっきも聞いたような声が……まぁオチは若干見えてるけど」



「ああ、そうね。今は中にあの子がいるからかしらね」



そう言って楯無先輩がドアを開ける



「ただいま」



「おかえりなさい、会長」



出迎えたのは今朝、集会で皆を静めた役員らしき人―――やっぱり役員だった



眼鏡に三つ編み、いかにも『お堅いけど仕事はできますけど?』風な人だ



そして、その後ろにいたのは



「わ〜……ツッチ〜だー………って、ツッチ〜!?」



本音ちゃんだった



机にグダってなってた本音ちゃんがシャキンという効果音が聞こえてきそうなくらいの勢いで背筋をのばす



「まぁ、適当にかけなさい」



「何で、ツッチ〜が?……変なとこ見られたよ〜///」



「本音……まさか、アナタ……」



「わわわわわああ〜〜言っちゃだめだよお姉ちゃん!」



本音ちゃんが大きな声で言う



ん?



「お姉ちゃん?」



「ええ……私は布仏虚。よろしく」



「むかーしから、更識家のお手伝いさんなんだよー。うちは、代々」



いつもの調子に戻った本音ちゃんが言う



「ふ〜ん。姉妹で生徒会に?」



「そうよ、生徒会長は最強でなければならないけど、他のメンバーは定員数になりまで好きに入れていいの。だから、私は幼馴染の二人をね」



楯無さんが説明をくれる



なるほどね



「お嬢様にお仕えするのが私どもの仕事ですので」



カップの一つ一つにお茶を注ぐ虚さんが言う



そのカップは5つあった



ん?4人しかいないよ?



「あん、お嬢様はやめてよ」



「失礼しました。ついクセで」



ま、いいか



「それにしても、本音ちゃんが生徒会役員なんてな」



「あら?あだ名で呼んでないなんて、仲がいいのね」



「そうなんすか?……いやー、まぁ俺と本音ちゃんの仲だしな」



俺達、割りと色々つるんでるもんね



「へ?……私とツッチ〜の仲か〜、えへへ///」



「まぁいいわ……本音ちゃん、冷蔵庫からケーキを持ってきて頂戴」



「はーい」



冷蔵庫から無事ケーキを持ってきた本音ちゃんが皆の前にケーキを置く



そのタイミングで扉が大きな音を立てて開いた



「はぁはぁ……つか、さ」



「あれ?簪?」



息を切らした簪だった



「あ〜、かんちゃんだ〜」



本音ちゃんが伸びた口調で言う



俺の横に座った簪は俯いている



「簪お嬢様は会長の妹君なんですよ」



そう言いながら、簪の前にもケーキとお茶を入れる虚さん



「簪お嬢様はそのことにコンプレックスを感じてらっしゃいます……そのことを頭の隅に」



俺の耳元で、俺だけに聞こえるくらいの小さな声でそう呟いた



どういうことだ?でも、これってあんまりいいニュースじゃねぇよな



「そうだったのか……じゃあ、簪も本音ちゃんとは仲いいの?」



「私は〜、かんちゃんの専属メイドさん〜」



本音ちゃんが長閑な声で説明してくれる



「へぇ〜……」



簪の表情は相変わらず暗い



「ところで、士くん!……キミを鍛えてあげる、学園祭までの期間ね」



「!?」



簪が顔を上げる



急に何を言ってるんだ?



「遠慮します」



「まぁ、そう言わずに……お茶どうぞ」



「……いただきます」



おいしいです



「美味いです」



「そうでしょ〜、虚ちゃんが入れるお茶は世界一美味しいの。ケーキもどうぞ」



生クリームたっぷりのケーキも一口頂く



おいしいです



「そして、私の指導もどうぞ」



「だから、いらねぇって」



小さく、呟き



「だから、いらないですよ」



「わざと、聞こえるように言ったでしょ」



楯無先輩がジト目で睨んでくる



「なんの事っすか?……てかなんで、俺の指導?」



「簡単だよ……たしかに、キミは強い。データで見ただけだけど、面白いISだしね……だからそれを伸ばす意味でもね」



「ほぉ〜、もう下で見られてると」



「当然よ。言ってるでしょう?最強だって」



言うじゃねぇか……



「お姉、ちゃん!」



簪が突然声を上げる



「なーに?簪ちゃん」



「士は、嫌がって、る……」



「そうかしら?それにこれは私達生徒会の決定事項よ」



「でも!」



「大丈夫だよ、簪」



簪の頭を撫でる



「つか、さ……?」



簪の目の淵にはうっすら涙が



……勇気出したんだよな


偉そうな気がするが……まぁ、大体悟った



「楯無会長、俺とISで勝負しましょう……会長が勝ったら、従います。俺が勝ったら……また適当に考えます」



「いいわよ♪」



こんな状況でも彼女は笑みを崩さない



「ダメ……士は、わかって……ない……お姉ちゃん、が……どれだけ、強いか……」



簪が止めてくる



「信じろって……男にはな負けられないときがあるんだよ……それは、何かを守るときと……自分より上のやつと戦うときだ」



「私、そういうの好きよ?」



楯無さんが口を挟む



「だから、俺を信じろ……てか、勝ったらパフェ奢ってくれ」



「「「「え?」」」」



俺を除く皆が腑抜けた声を出す



「いや〜、最近甘いもの食べてないからさ〜……ってことで勝ったらパフェ奢ってくれよ〜簪」



これで和んでくれ



「随分と舐められたものね……私と勝ってパフェだなんて」



「楯無先輩には違うのお願いしますよ」



「それでは、アリーナの使用許可の申請は私が」



「お願い」



短くそう言った楯無先輩は笑顔だった



「士くん……覚悟してね?」



……笑顔でした

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