小説『IS〜インフィニットストラトス―ディケイドの力を宿す者 ―』
作者:黒猫(にじファン)

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楯無side-



士は簪を連れて出て行った



本音もどこかに行くと言って出て行き今は虚しかいない



「よかったのですか、会長?」



お茶のおかわりを淹れながら虚が聞いてくる



「何が?」



「簪お嬢様と仲直りしなくても?」



「いいわけ無いでしょう?私の大切な妹よ?」



明瞭快活で文武両道な彼女の悩みの一つは妹の簪にあった



それは単純明快





―――避けられている



理由はこっちが聞きたい



「虚ちゃん、どうしても教えてくれないの?」



虚にはどうやらそれが分かってるらしいのだが教えてくれない



それは意地悪とかそういうものではないことは分かっていた



「はい、これはご自分で見つけ出す事かと」



「じゃあ、いいわ」



お茶を飲み干し、立ち上がる



「どこへ?」



「散歩よ……」



いい気分ではなかった



自分らしくもない



「神谷 士との対戦の件は?」



そういえばそんなこともすることになった



「楯無会長、俺とISで勝負しましょう……会長が勝ったら、従います……か」



あのやる気のなさそうな表情のなかにある熱い視線



私を見下しているわけでも、ましてや自分を謙って言ってるわけでもない……そう、どこか私のような態度に少し苛立ちを覚える



「会長」



虚が扉を開きかけた私を呼び止める



「失礼を承知で伝えておきたいことが……」



「何?」



「簪お嬢様との関係修復には、ほぼ絶対といっていいほど神谷 士の存在は必要です」



虚が珍しく相手を―――まして、男を褒める



「あら?虚ちゃんが男を褒めるなんて―――惚れた?」



「そ、そういうわけでは……」



「冗談よ」



部屋を出る







士side-



あの後、夕飯を本音ちゃんと簪でとり、今は部屋で音楽を聴いていた



「喉渇いたな」



喉の渇きを覚えた俺は、飲み物を買いに部屋を出た



廊下を歩いていると、



「何回かに分ければいいからよろしくね」



曲と曲の間のほんの数秒で聞こえてきたそんな声



見てみると、山積みのプリントを教師が生徒の前においていた



って、あれは―――



「布仏先輩」



「あら?」



虚先輩だった



「どうしたんすか、このプリントの山」



「先生に運んでおけと言われてね……全部資料でもう使わないから、生徒会室に……」



捨てるわけにもいかないのだろうか……良く見ればたいした量じゃない



「手伝いますよ」



「いえ、悪いです」



謙虚な人だな……鷹月さんタイプだな



こういう人は強引にでもしないと聞かないからな



「こんなの女の子一人じゃとても運びきれませんよ……こういう時は適当な男に任せてればいいんです。行きましょう」



プリントを両手に持って歩き出す



所詮、紙の山……たいした重さじゃない



「ありがとう……」



そう小さく聞こえた気がした









「失礼しまーす」



「今は、誰もいないわ//」



そう言いながら部屋に入れてくれた虚先輩の頬が赤いのは気のせい?



「ここに置いときますね」



「ええ……ありがとう。座って、お茶淹れるわ」



適当なところにプリントを置いて、放課後に座った椅子に腰掛ける



「また、あのお茶飲めるなんてラッキーだな……」



「そ、そんなことないわ///」



アレ?声に出してた?



「でも、布仏先輩のお茶はマジで美味いですよ……例えるなら……そうだな〜……」



考えたけど



「とにかく、美味しいです」



「ふふっ……ありがとう」



そう言いながら、俺の前にお茶を置いてくれる



「あと、私の事は虚でいいわ……苗字だと二人いて、紛らわしいでしょう?」



「まぁ、本音ちゃんも下で呼んでるんすけどね……そうですね〜、虚さんって呼んでいいですか?なんか、先輩は距離置いてる感じしますし……」



「別にいいけど、距離置くのは嫌なの?」



虚さんが俺の対面に座り、聞いてくる



「俺に関わってくれる人には、笑顔でいて欲しいですからね……それに俺が知ってる人でこんな人がいるんです『俺はこの学校の全員と友達になる男だ!』って言ってる人が……」



俺もあんなリーゼントにしたらどうなるかな?



千冬姉に殺されるな……



「その人は先輩も後輩も関係無い人で……だから俺もそんな人にね、なりたいわけですよ」



「そう……」



優しく微笑んだ虚さん



「そういや、昼に言ってたことって?」



「?」



「簪が会長に引き目を感じてるとか、なんとか」



「ああ……そのことね」



虚さんの表情が少しだけ曇る



「明朗な姉と違い内気な性格なお嬢様は偉大過ぎる姉にコンプレックスを覚えている……よくある話よ……ただ、簪お嬢様の場合はそれが強いの」



「そうだったんすか……」



だから、簪と話してても楯無会長の話は出てこなかったのか……



「この姉妹仲……解決できるのは貴方かも知れないわね」



虚さんが俺に向かって微笑む



「姉妹仲って言ったら、本音ちゃんと虚さんは仲いいっすね」



「そうね……妹があんなだから」



妹にあんなって



「幼馴染としても、仕える身としてもお願いしたいわ……お嬢様をお願いできないかしら?」



「姉妹仲がいいお二人ではダメなんですか?」



「私どもは仕える身だから……」



なるほど



「分かりました……でも、まずは……」



「会長との対戦ね」



「はい」



分かってらっしゃる



「こう言えば悪く聞こえるかもしれないけど―――貴方では会長には勝てない」



「それは……虚さんの思ってることですか?それとも、仕えてる身ってやつ?」



「両方よ……確かに、自分が仕えてる主人が年下に負けるのは見たくないけど、あの人はIS学園の生徒でありながら自由国籍権を持ち、ロシアの代表操縦者に加え、在学生で唯一の現役の代表者でもあるの……」



あの人ロシアの代表なんだ……すげー



でも……



「いいじゃないですか……燃えてきた」



「正気?……まさか、勝つつもりでいるの?」



「そうですけど……」



「やめておいた方がいいわ……」



「じゃあ、俺が勝ったらどうします?」



「え?」



不敵に笑う俺に腑抜けた声を出す虚さん



「俺は……負けないです」



「……楽しみにしてるわ」



そう、小さく微笑んだ





翌日



俺が来たのは生徒会室



目的はもちろん、話を聞くため



更識楯無に



扉をノックする



「どーぞー」



楯無の声だ



「失礼しやす」



扉を開けて、中に入る



「あら?士くん」



「ちっす、今日はお聞きしたいことが……」



「へぇ〜」



楯無が猫のように目を細める



「なにかしら?」



「単刀直入に……簪とはあまり仲がよろしくないようで」



その瞬間、楯無の笑顔は消え、鋭い眼光を向けていた



「……私を挑発してるの?」



かなり怒っている……声を聞いただけでも分かる



「余計なお世話かもしれませんが……俺にその仲を修復させてもらえませんか?」



小さく頭を下げる



「え?」



今度は一変、キョトンとした顔になる



「簪とはペア組んでまして……その相手が姉妹仲よくないってのも、喜ばしいことではないかと」



「誰に聞いたの?」



あれ?ばれてーら



「……虚さんです」



「そう……あの子も心配してくれてるのね」



あんた、年下だろう……って言ったら怒られるからやめよ



「お願いします」



「どうして、そこまでするの?日時は決まってないものの私達は敵同士―――」



「―――そんなのは関係ないです!」



「!?」



つい、大きな声をだしてしまう



「すいません……でも、そんなのは関係ないんです……敵同士だから憎しみあうのは昔の考え方ですよ。楯無会長は覚えてますか?俺が勝ったら―――ってやつ。俺決めてなかったですけど、決めました……楯無会長……いや、楯無さんと仲良くなります!いや、仲良くなってもらいます!」



言い切った



「ふふっ……はははっ!」



数秒の沈黙の後楯無さんが笑い出す



「仲良く……ねぇ……虚ちゃんの言った通りね」



「そうですね」



って、虚さん!?



なんか、出てきた!?



どこから!?



疑問点が多すぎるよ!



「……任せても……いいの?」



なんか、急にしおらしくなったな



「任せといてください……俺はすでに、姉妹仲を一組改善してますから」



篠ノ之家のな!……すいません、調子にのりました



「じゃあ、任せようかな?」



「任されました、早速行って来ます……あ、最後に一つだけ」



「何?」



「楯無さんは簪のことどう思ってますか?」



「決まってるわ!大切な『妹』よ」



ソレが聞きたかった







生徒会室をあとにした俺は簪の部屋に来ていた



昨日、虚さんに言われたし?任されたし?



今日、楯無さんに言われたし?任されたし?



別に来たかったわけじゃないんだからねっ!………ごめんなさい、めっさ来たかったのもあります





言い訳すまん!ってことでノック



コンコン



「つ、つか……さ?」



小さくドアを開けた簪が俺を確認する



「おう……急でごめんな、遊びに来たわ」



「士が……遊び、に?……うれ、しい!……入っ、て」



快く入れてくれました



おお、部屋の中が女子っぽい!



そして、簪の私服が可愛い!



他の女子と同じでラフな格好してるかと思ってたら黒のネグリジェみたいなの着てた……俺、制服



「す、座って……」



「おーう」



ベッドに座らせてもらい、簪から紅茶をもらう



「あー、今日はちょいとお話がな……」



「?」



簪が可愛らしく首をかしげる



言いづらい……



姉貴と仲直りしろだなんて



『幼馴染としても仕える身としてもお願いしたいわ……お嬢様をお願いできないかしら?』



虚さんが言ったことが再生される



『……任せても……いいの?』



任されたって言ったじゃねえか



くそっ……



「か、簪は……なんで姉貴さんが苦手なんだ?」



俺が聞いた瞬間、簪の表情が固まる



地雷か……



「ああ……その、なんというか」



「あの、人の……差し金?」



「ん?」



「士も……あの、人の……差し金……で、来たの?」



あの人ってのは、楯無会長のことか?



も?前にもあったのか?



「いや、俺は単に……」



「聞きたく、ない……!」



簪が耳を塞いで目も瞑る



「士は……信じてた、のに……!」



おうおう……さっきから勝手言ってくれるじゃねぇか



だんだん、腹立ってきた



「悪いのは……妹……妹は、いつだって、迷惑掛けてばかり……」



「いい加減にしやがれ!」



もう聞いていられない



「さっきから聞いてりゃ、自分がいらない子みたいに言いやがって!自分がどんだけ思われてると思ってるんだ!」



「え?」



「楯無さんは言ってたよ……お前のことは大切な妹だってな……」



「……妹は……迷惑、じゃないの?……守られる、ことが……妹に、とって……迷惑、じゃないの?」



「それは、楯無さんに聞け……でも、楯無さんはお前が思ってるより悪い人じゃねぇよ」



「………でも、私は……怖い……あの人に拒絶、されるのが、見えてるから……」



まだ言ってんのか?



まぁ、もう怒鳴らないけど



「1人で歩き出せないなら俺が手を引いてやるよ。歩きたくないなら、俺が運んでやる……歩きたくなる場所まで連れて行ってやるよ。一歩踏み出せない奴に優しさとか、強さは付いてこないよ……誰かの手を借りても一歩踏み出せた奴が強かったり、優しかったりするんだよ」



「士は……強い、の?」



簪が問う



「さぁな……でも、弱くても……優しくないことはないと思う……偉そうに言ったけど俺だって一歩踏み出すのは超怖かったからな……だから、簪も怖くても大丈夫だ。俺がお前を引っ張る主人公になってやる……頼りないかもしれんけどな……」



「……」



だんまりか



「俺じゃなくても、誰かを……いや、皆を信頼するってのも案外いいものだぜ?」



そういい残して、部屋を出た







部屋に帰ってドアを開けると



「お帰りなさいあなた。ご飯にします?お風呂にします?それともわ・た・し?」



ドアを閉める



気のせいだよね



裸エプロンで楯無さんがいるなんてな……



もう一度ドアを開ける



「お帰りなさいあなた。わたしにする?わたしにする?それともわ・た・し?」



「選択肢がない!?」



「あるよ、一択なだけで」



どうでもいいけど、裸エプロン超エロイ



ってか、胸でかい



「今日から私、ここに住むから」



「はい?」



「生徒会長権限でね」



「嘘だろ?」



がっくり膝から崩れ落ちた







「……楯無さん、すいません。簪に怒鳴っちゃいました」



「あら?」



とりあえず、ベッドに座ってもらいお茶を出す



「どうして怒鳴ったの?」



「あいつが、楯無さんのことも考えずに好き勝手言うから……」



「優しいのね、士くん」



楯無さんが俺の頭を撫でてくれる



いつもは人にしてるけど、いざされたら気持ちいいな



「……///」



「どうしたの?」



楯無さんがニコニコしながら聞いてくる



「いや、気持ちいいな〜と……」



「可愛いこと言うじゃない……でも、勝負では負けないわよ?」



「俺だってそうですよ……負けないです」



二人、笑いあった

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