小説『IS〜インフィニットストラトス―ディケイドの力を宿す者 ―』
作者:黒猫(にじファン)

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学園に戻ってきた俺は眠っているセシリアを医務室に預け、専用機持ちが集められている教室に向かう



「すいませーん。遅れやした〜」



頭を掻きながら扉を開け、イヤホンを外す



「来たか……適当に座れ」



教卓の前に立っていた千冬姉が腕を組む



普通の教室であるこの部屋で皆はバラバラに座っていた



俺は誰も座っていない一番後ろの席に座る



「よし。では今回の件の報告をしろ」



千冬姉がどこか苛立ち気に言った



「はい。自分、ラウラ・ボーデヴィッヒはグランドで敵ISの襲撃を受け、応戦できないと判断し援護射撃に徹しておりました」



「僕も同じです」



ラウラの報告にシャルが続く



その腕には包帯が巻かれている



「私は、グランドで異変を感じ向かったところ襲撃を受けているラウラとシャルロットを発見し、応戦しました。途中、セシリアが敵と共に市街地へと移動したので自分より的確に思えた士に援護を頼みました。その後、士が相手をしていた臨海学校のときに現れた女と交戦しましたが逃げられました」



「右に、同じ」



「私も」



箒が述べ終わると簪と鈴が続いた



「専用機持ちが6人もいてたった2人相手にできんとは、お前らの実力不足が伺えるな……明日からはより一層訓練に励むように」



千冬姉の言葉に返事をする者はいなかった



皆、言い返せずに俯いている



「更識姉は?」



「はい。私は敵のリーダー格と対峙しましたが逃げられました。そのあとは生徒の安全確保に……」



「ふん、楯無の名も落ちたな」



「………」



楯無さんも言い返せず俯いて肩を震わせている



それは、自分への怒りや失望のためか



「神谷、報告を」



千冬姉が俺のに視線を送る



「俺は、臨海学校のときにいたISと交戦していましたが箒たちの指示でセシリアと市街地でもう一人と交戦……が、逃げられました。次は潰す……いや、破壊します」



「まぁ、今回はお前が一番活躍したか……お前のお陰で備品の破壊程度に被害は済んだからな……それでも今回のお前らの功績は目に余る……もう少し気合を入れて今後は過ごせ。では解散」



千冬姉が教室を出た後も誰も動かなかった



「ふぅ……ま、過ぎたことなんだし考えてもしょうがないでしょ」



背もたれに体重をかけながらつぶやく



「貴様……恥ずかしくないのか!」



ラウラが立ち上がり叫んだ



その表情は怒りに溢れている



「恥ずかしい?俺は過去の事をいつまでも引きずってるほうがよっぽど恥ずかしいね」



すると、ラウラは俺の胸倉を掴み



「見損なったぞ……!」



と、震えた声で言った



「誰も今回のことは予測してなかったんだ……上手く、対処しろってのが無理だ」



「それでも私達、専用機持ちは対処しなければならないんだ!」



ラウラが叫ぶ



その目にはうっすらと涙が……



皆も何も言わない



「はぁ〜。なら、どうして誰も咎められねぇか、一人ずつ言ってやろうか?」



ラウラの手を外す



「まず、ラウラとシャルは襲撃を受けても尚、援護射撃をして箒たちを援護した……お前らの対処のお陰でこの騒ぎに気づかない奴だっていたんだぞ?」



黒板へと歩み寄りながら言葉を続ける



「箒と鈴、簪だが……相手を市街地に追い込むまでしたんだ。学園に直接被害が来なかったのもお前らのお陰だ。セシリアの援護も俺に頼んだところも冷静な判断だしな」



教卓の前に立つ



「楯無さんだって、リーダー格と対峙しただけでも十分ですよ。そのお陰で『亡国機業』の「スコール」「エム」「オータム」ってのが割れたんですから」



楯無さんが顔を上げる



「問題は俺なんだよ……!」



黒板を殴る



「俺が一番問題なんだよ……オータムに止めは刺せないし?格好つけてセシリアの援護に行っても怪我してるし?挙句、逃げられる……ホント、ふざけすぎだろっ!」



もう一発、黒板を殴る



黒板が歪み、俺の拳が血に染まる



「士……」



誰かが俺を呼んだが興奮状態の俺には誰かは分からない



「俺に比べたら、皆は頑張ったよ……」



格好付けても俺だって悔やんでる



教室を出た



夕日に染まる廊下が妙に赤く見えた











夜――



ベッドに横になっていた俺の右手には包帯が巻かれている



「ふぅ〜」



体を起こしたとき





コンコン



ドアがノックされた



「はい」



ドアを開けると



「箒?」



箒だった



「あ、ああ……入ってもいいか?」



「おう」



箒を部屋に入れ、ベッドに腰掛けてもらう



「で?どうした?」



俯いたままの箒だったがやがて顔を上げて



「あの後、皆で話し合った……お前の言うとおり過去ばかり振り向かず前を見ることにしたよ」



「そうか」



「だから、士も前を向け!過ぎたことを考えるなと言ったのはお前だろう!」









はは……そうか……そうかい、箒



「分かったよ……なら前どころか上すら向いて見ようかね〜」



箒の頭を撫でながら告げた



「う、うむ///すぐにでなくていいから早く元のお前に戻ってくれ」



「ああ」



顔を赤くした箒はそのまま部屋を出た



入り違うようにドアがノックされ入ってきたのは鈴だった






「アンタ、偉そうなこと言っといて一番悔やんでるんだってね……」



入ってきて早々そう切り出した



「ばか……」



俺が答える前に抱きついてくる



腰に回された手が暖かい



「アンタが元気なかったら……私までテンション下がるじゃない」



「そうか……なら、テンション上げていこうかね!」



「うんっ!」



ひまわりみたいな笑顔で頷いた



鈴が出て行き次に部屋を訪れてたのはシャルだった



ベッドに腰掛けたシャルは俯いたままだ



「どうした?具合でも悪いのか?」



俺が聞くとシャルは震える声で返してきた



「ううん、違うよ……悔しいんだ……箒がセシリアが鈴がラウラが簪が更識会長が戦ってるのに……僕だけが……ひっく……役に、立てなくて」



「そうか」



「悔しいよぉ……」



「そうだな」



「僕は……ぼくばぁ……」



言葉にならない嗚咽の羅列



それは次第に大きくなり、俺が横に座り肩を抱いてやると同時に爆発した



「うわああああああああ!!」



その嗚咽が収まるのに必要な時間が短いわけがないのは、お分かりいただけるだろう



落ち着いたシャルが部屋を出た後、しばらくして控えめなノックがされた



「はいはいっと……ラウラか。入るか?」



「あ、ああ……」



ラウラだった



「その……すまなかった」



「何がだ?」



突然、ラウラが謝りだしたが意味が分からない



「やっぱりか……それはだな、その……胸倉を掴んだり、失望しただの言ったり……」



そんなこと気にしてたのか



「まぁな……あれは俺も悪かったし、気にするなよ」



「でも!」



ラウラがまた掴みかかってくる勢いで食い下がる



「ま、おあいこってことでいいんじゃない?俺は気にしてないしさ」



ラウラの頭を撫でるたびにシャンプーのいい香りがする



「……///で、では!仲直りの証に……その……キ……キキ……キs」



「抱っこでもしてやろうか?」



「………もう知らん!」



「なんで!?」



なんか、拗ねてしまった



「ふんっ!勝手にしろ!」



部屋から出て行こうとするラウラを



「あ、チョイ待ち。ラウラ」



引き止める



「俺の食べ差しでよかったらケーキあげる」



「ほ、本当か!?」



おおっと、急にどうした?



「お、おう……ほら」



冷蔵庫のケーキを渡した途端、ラウラは飛び出していった



「どうしたんだ?そんなにケーキが欲しかったのかな?」



飛び出したラウラが開けっ放しにしたドアを閉めようと手をかけると



「お?簪?」



簪がこちらに歩いてきた



その手にはバスケットが



「つ、士……これ、クッキー……焼いたから……一緒に、食べよ?」



バスケットを差し出しながら言う簪の誘いを断れる男がいるなら俺の前に連れて来い



……その幻想を―――



「士?」



「あ、ああ……食べる食べる。部屋入り」



「うん♪」



簪にはベッドに腰掛けてもらい、俺は紅茶を淹れる



「ほいよ……甘めね」



「甘めって……言った?」



簪が受け取りながら不思議そうに首をかしげる



「ん?前に俺の部屋に遊びに来たとき甘めって言ってたから、今日も甘い方がいいかなって……いやだったら淹れ直すよ?」



「ううん!これが……士が、淹れてくれた、この甘い紅茶が、いい」



首が取れそうなくらいブンブン横に振る簪



嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか



「じゃ、クッキーでも頂きますか」



ビスケットから可愛らしいハート型のクッキーを取り出し、パクつく



「おおおおっ!美味い!」



「ホン、ト!?……うれ、しい!」



簪がガッツポーズ一歩手前みたいに握りこぶしを作る



可愛い……



「士……元気、出た?」



「え?」



突然、簪がつぶやくように聞いてきた



「士は……何でも、抱え込んじゃう、から……気にしてる、と思って……」



不意に背中に回される腕



「大丈夫だよ……私がいる、から」



「簪……」



「えへへ……士の真似♪」











………危ない危ない



泣くところだった



うっすらでた涙を拭って俺も、簪に腕を回す



「うぇ……?」



「簪のおかげで……元気、出たよ」



「ほん、とう?」



不安げに見つめてくる簪の頭に手を置く



「本当も本当だよ……簪にはいつも助けられるな……助かる」



「いつでも、頼って……いいんだよ?」



「おう」



簪が部屋を出る





簪が部屋を出た後、楯無さんにドアをノックされた



「楯無さんすか……入ってってください」



「ありがと……」



とりあえず、お茶を淹れた俺は楯無さんに渡す



「で?どうしたんすか?」



どこか、テンションがお低い楯無さん



こりゃ、何かあるでしょ



「……おねーさん、何も出来なかったな〜」



「そんなことないですよ」



「全く、歯が立たなかった……」



悔しそうに唇を噛み締める楯無さん



その表情にいつもの飄々とした雰囲気はない



「楯無の名も落ちた……か」



千冬姉に言われたこと気にしてたのか……



「年下の子には負けるしね」



俺を見ながら皮肉に言う楯無さん



しかし、その目にはうっすら涙が……



「うぅ……うっ……」



「さてと、じゃあ俺は行きますね」



「え?(士君……私のこと……嫌い……?)」



楯無さんの真正面で向かい合う



「……?」



「楯無さん……助けてって言ってくれないとヒーローは助けに来れませんよ」



そう告げる



「助けて……助けてよぉ……士くん……」



楯無さんを抱きしめた



「助けに来ましたよ……楯無さん。もう大丈夫っす……俺から言わせてみれば、楯無さんだって普通の女の子ですよ」



「……っ!///」



あれ?顔赤いぞ?



涙堪えてんのか?



「だから……泣きたい時には泣いてもいいんですよ」



「誰にも……言わないでね」



「はい」



俺の胸にしがみついた楯無さんが泣き止んだのはそれからどれだけの時間を要しただろうか?



月明かりが部屋の中の俺と楯無さんを照らす

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