小説『IS〜インフィニットストラトス―ディケイドの力を宿す者 ―』
作者:黒猫(にじファン)

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こうして事件は解決した


攝津さんの動機は更識家に溜まってた不満


溜まるものは溢れるか爆発するものだ


なんだかんだ抵抗していた彼女も映像の後は大人しく罪を認めた


今、楯無さんと今後を話し合ってるらしい


邪魔しちゃいけんな……うん


「疲れた……」


簪はどこかに行っちゃったし、本音ちゃんも虚さんも一度実家に戻った


「はぁ……でも、退屈〜」


貸し部屋で人の家とか関係なくゴロゴロしていると


襖が開いた


「ん……簪じゃん。どこ行ってたん?」


中に入ってきたのは簪だった


「ちょっと……お話」


俺の前で正座した簪


俺もつられて正座する


「……入っても、いいよ」


簪が声をかけた


「し、しかし……」


少し、くぐもった声


それは、聞き覚えがあった


「えっと……ボブさん?」


俺の問いかけに襖はさらに開き入ってきたのは運転手のボブだった


「よ、よう……坊主」


少し、遠慮がちに笑うボブ


簪の隣で正座した


スーツ姿似合ってるっす


正座は似合わないけど


「で、どうしたんですか?」


「昨日、妹は楯無に殺されたと言ったろう?」


ああ、そういや


「はい」


「あれ……間違いだ」


やっぱりな


俺は心の奥底で思っていたことは間違いでなかったことに胸を下ろす


「いや、あいつはたしかに撃った。けど……それは守るためだったんだ」


「守る……」


俺の呟きにボブは頷いた


「ああ。俺も妹も守るため……結果、妹は死んだんだ。あいつのせいじゃない。それをこいつに聞いたよ」


そう言って隣の簪を指差した


「う、うん……その事件は、私も関係してる、から」


そうかい


でも、まぁ……とりあえず


「どうしてそれを?」


「楯無はどこか落ち込んでいる。主人がああなのも、妹を撃ったくせに暗く生きられるのも気に食わん。なんとかしてくれ」


そう言って小さく頭を下げた


なんて律儀な人だ


「りょーかい。行って来ますかね」


そう立ち上がる


「へへっ!頼んだぜ坊主!」


ボブは俺の背中を叩いた


この人は……俺以上のお人好しだな







そうして俺は再び居間にやってきた



スクリーンはすでに片付けられており、ソファーで足を組んで座っている楯無さんの前のテーブルには紅茶が揺れていた



「お話は終わりましたか?」


俺はそう明るく聞いた


しかし、帰ってきたのはそれとは違う暗い声



「士くん……ええ、彼女も家には色々尽くしてはくれてたからね……謹慎処分で終わらせてあげたわ」



「そうすか……」



訪れた沈黙



俺も楯無さんも何も話さなかった



気まずくはないが……う〜む



「楯無さん」


「ん?」


「何をそんなに落ち込んでるんですか?」




楯無side-


「何をそんなに落ち込んでるんですか?」


士は本当になぜか分からない表情で私を見つめていた


「(なんで……?)」


疑問でしょうがなかった


どうして彼はあんなひどいことを言った私に……


関係ないと突き放した私に……


そこまで優しい言葉をかけられるの?


分からない。もう、本当に分からない!


今まで人を疑って生きてきた


でないと殺されるから


暗部の人間なんてのはそんなものだ


今だって、信頼を置いているのは生徒会メンバーに一応、士だけ


教師も友だちも上司も仲間も後輩も誰も深くその正体を信じてはいなかった


しかし、彼、神谷 士に出会って


彼に恋をして


彼に振り向いて欲しくて


彼と少しでも多くの時間を過ごしたくて


彼を取り合うのすら最近は楽しみを覚えて……


そして、帰ってきた我が家「更識家」


その厳格な風情が自分に思い出させた


人を信用するなという心を……


そこで、好きなその人まで疑わなくてはならない不安定な状態で起こったこの爆破事件


正直、パニックだった


誰かに解決を任せたかった


全てを丸投げして、知らない顔をしたかった


でも出来なかった


私は当主だから


本当の名を捨て、楯無の名を襲名した人間だから


そんな中、刺した光が彼だった


いつもの優しげな声が嬉しかった


甘えたかった


でも、同時に不安定だった私の心を変に突き動かした


それは次第に苛立ちに変わり、彼にあんな言葉をかけてしまった


それも、一度や二度なんてものじゃない


会話にもピリピリとしたものを感じさせるように話し


態度も突き放すような粗雑なもの


こんな状況でも私は考えた


嫌われた?


そんなものは当然だ


私なんてもう嫌われている


そもそも好かれているのかすら分からないのに……


彼は優しい人間だから……人の悪いところより良いところばかりを見れるそんな人間だから


例え、好印象でも……もうそれは変わった


あの態度は……ない


「楯無さん?」


なのになぜ、この男は私の隣でこうやって私の顔を覗きこんで主人を心配する子犬のような表情でいるんだろう


「なんで……」


私は小さく呟いていた


もう、止まれそうになかった


「なんで、士くんはそうなのよぉ!」


涙が溢れてきた


身体中どころか私のミステリアス・レイディからも溢れているのではないか、というくらいの涙を流した


「なんでよ!私は貴方に酷いことを言ったわ!酷い態度をとったわ!なのに何故!何故、そうやって……優しく、するのよぉ……」


もう言葉にしているのかさえ分からなかった


私はちゃんと言葉を発しているのだろうか


「………それは」


声だ


優しい声


泣き出した赤ん坊を包み込むような優しい声


すぐ耳元で聞こえた


そして、気づく


私が抱きしめられていることに……優しく、でも強く


声とは反転……やっと見つけた母親を決して離さない……そんな無邪気な力強さだ


私がすすり泣く声が響く鼓膜に新たに響く音


否、声


「それは、きっと……楯無さんが俺にとって大事な人だからですよ」


「え……?」


見上げる


胸元に抱き寄せられていた私が見上げれば、そこには優しく微笑む彼が


「それと、本当の楯無さんを知っているから……ですかね」


「本当の……私?」


「はい。IS学園2年生で生徒会長……明瞭快活で文武両道、料理の腕も絶品。スタイルも良くてカリスマ性もある完璧超人


でも、本当はどこか弱いところがあって……人を丸め込むのは得意なクセに一押しできないところがあって……


でもそれは、大切な何かを守る優しさを持つ故で……周りのプレッシャーもあって……


ロシア代表であり一家の当主でもあって……だから、不安定になっちゃう時もある」



彼はそんな言葉を恥ずかしげもなく、ゆっくりと言い聞かせてくれた


涙はもう流れていない


「俺はそんな本当の貴方を知っているから、こうやって優しく接したいんです。たまには誰かに甘えてみるって言うのも案外いい物ですよ」


貴方に言われたくないわ!


心の中で突っ込んだ


喉元まで出かけた


でも、それ以上にまた溢れてきた涙を抑えるのに必死だった



「つかさ……くん。あ、貴方は……本当に……」


私が名を呼ぶと彼はまた優しい笑顔で








「俺は通りすがりの仮面ライダーですよ………いつも頑張ってる人に甘えさせてあげるくらい、雑作もないです」


その言葉を聞き、私はただ……泣いた





どれくらい泣いただろう


それもこんな気持ちで泣いたのは


今まで涙を流すといえば、悔しかったり、嘲笑に耐え切れなかったときなどだ


なのに今の私は


甘え、素直になれないまた別の悔しさ、寂しかった心を溶かすようなそんな涙だったような気がする


「落ち着きました?」


またも優しい笑顔を私に向ける彼は……まだ、17の人間が早いと言われるかも知れないけど


好きな人で、大好きな人で、これから先もずっと一緒にいたい、最愛の人だ


そんな彼に私はそっと―――
















口付けをした





それは甘くてとろけそうで


何も考えられなくて、でもはっきりと味わいたいなにかで


真っ白なのかも分からない


ただ、愛おしい



それから口を離した私は彼を見つめた


「ぷはっ―――楯無さん!」


急に真剣な顔になる彼に私は思わず


「は、はい!」


と、敬語で答えてしまう


期待が胸に募っていく


遂に……来た












「もう!甘えるといっても限度ってのがあります!」



そう言い放った



……………


そうだった。彼はそう言う人間だった


何を期待してたんだろう私


でも


いつか……きっと












夜になった


あの後、私は皆に謝罪して苛立っていたことも話した


キスしたことは黙ってたけど……


皆も何もなかったように笑って許してくれた


今は離れとはまた距離を置いた位置にある中庭で夜空を見ながらの食事になった


「むっ!」


ふと目を向ける彼は簪といい雰囲気になっていた



「星、きれい……」


「そうだな……でも、お前の方が綺麗だよ」


「え?」


え?


「……つ、士……それは、どういう」


「なんてな、格好よかった?俺」


あ、簪ちゃんにボコボコにされてる


でも、なんでちょっと嬉しそうなんだろう



それから数十分後


今度は本音と


「つっちー、飲んでる〜!」


「オヤジか!」


「キレてないっすよ〜。私、キレさせたらたいしたもんなのだ〜!」


変なスイッチ入ってるわね


お酒も飲んでないのに頬が赤いところを見ると緊張してるのね


そうしていると本音がよろけて転びそうになる


「あぶねっ!」


さっと身体を滑り込ませた彼はそのまま本音を抱きかかえた


「本音ちゃん」


「ううぅ〜〜。ごめんなさい」


「ははは、そう落ち込むなって!」


そう言って彼は本音の頭を撫でた


「笑ってるほうが本音ちゃんは可愛いよ」


あ、本音にポコポコされてる



さらに数十分後


今度は虚とだ


「士君。食べてるかしら?」


「はい、いただいてますよ……虚さんこそ鶏肉食べてますか?」


「ふふっ、あったわねそんなこと………その、士君」


「はい?」


「あ、あの時私が男の人に絡まれたときみたいに呼んで?」


「え!?……え、えっと〜。う、虚ちゃん……//」


「つ、士……//」


「て、照れくさいっすね」


「そ、そうね……でも、やっぱり好き」


「なんか言いました?」


「いいえ。なんでもないわ……」


そうして彼女は士から離れていった


わ、私だって……


「つ、士くん!」


「あ、楯無さん」


「どう?楽しい?」


「ええ。とっても……安心しますね。こういうの……」


「そ、そうね」


その微笑みは私の鼓動を早くした


簪も本音も虚も今は離れたところにいる


(うううっ……)


好きだと、言おう


抜け駆けみたいで申し訳ないがこの心は……


言う。言おう。言えば。言うとき。……言え!


「つ、士くん!」


「はい?」


「わ、私は、貴方がっ、す―――」











ドォオオオオオオン!!


そのとき花火が上がった


「おやっ!花火!?」


士が嬉しそうに跳ねた


「た、楯無さん!花火っすよ!綺麗ですね!……若干季節外れですけど」


そうして、彼は数歩前に出た


「渡さ、ないもん」


「かいちょー、抜け駆けはだめだよ〜」


「お嬢様。正々堂々お願いします」



そして大きく息を吸った私は






「なんなのよぉぉぉおおおお!!」


そう叫んだ



そんな声も花火で打ち消されたのだが……彼女の中では花火より大きく膨れ上がる思いとなった

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