小説『IS〜インフィニットストラトス―ディケイドの力を宿す者 ―』
作者:黒猫(にじファン)

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週末の休みも明けた月曜日


HRのために教室に入ってきた山田先生はどこか暗い顔をしていた


「え、え〜と皆さん……転校生が来ました」


は!?


え?原作ってまだ誰かいるの?


教室でざわめきが起こった


簪と楯無さん、虚さんでも俺の知識を越えてるってのに


でも、なんで一組ばっかなんだ?


ああ、千冬姉が担任だからか


納得だ


「ま、また……また部屋割りが〜」


山田先生がうなだれてる


あとで、プリン買ってあげよう


「で、では!入っていただきましょう!」


そうして扉が開き、入ってきたのは赤い髪のきれいな少女だった


スタスタと歩く姿


前を見つめる瞳


そのボディライン


全てがきれいだ


「……海東夏海です。IS適正が特別高いことで変な時期ですが転校してきました……よろしく」


暗い声だった


冷め切っていると言えばいいのだろうか


全てを見下したような、それでいて自分には絶対の自信を持っている


そんな印象だ


「か、海東さんの席は……ボーデビッヒさんのお隣ですね」


「ボーデビッヒ。面倒を見てやれ」


いつの間にか入ってきていた千冬姉が言った


「了解しました」


ラウラはそれを敬礼で返す


「敬礼はやめろ」


「はっ!」


いい返事


「海東も席に着け。あの銀髪の右隣だ」


「はい」


短く答えた彼女は俺の隣を通り過ぎていく


彼女が通ったその瞬間


何かを感じたような気がした


ビリッとしたような……


でも、なんか……


なんとも言えない感じに俺は思わず振り返っていた


もちろん彼女の後姿しか確認できなかったが


「今日は、IS実習だ。七組との合同になる……解散」


千冬姉が告げると共に皆が着替える準備をする


俺は静かに着替えなくてもいいISスーツが入った袋を持って教室を出た








「キャー!神谷君!」


「私にも教えて〜!」


「私よ!」


七組のみんなが俺を囲む


五組のときもこんな感じだったな


「ほ、箒……皆、助けてくれ!」


俺が助けを求めるが


「ふん!自分でなんとかしろ!」


「まったく前もこんなことがありましたわね!」


「本当に幸せだね。士は」


「少し反省しろ」


皆が厳しい


うっそ〜ん!


「ええと、交代な交代!」


俺は両手を上げて降参のポーズを示した


涙出てきそう





「海東さん、IS使ってくださ〜い」


山田先生が隅の方で周りを見渡していた海東に注意をする


すると


「すいません。今日は具合が悪い『そういう』日みたいで……」


とお腹を押さえた


「あわわわわわわ!すいません!無理しちゃダメですよ〜!」


ん?


急に優しくなったけど、なんでだ?


「なぁ、シャル」


「なにかな?」


「具合が悪い日なんて誰でもあるだろ……なんで、山田先生はあんなに慌ててんだ?」


「そ、それは……女の子はそういう日があるんだよ」


へぇ〜


面倒くさいな


「大変なんだな……」


俺は影で座っている海東に歩み寄った


「大丈夫か?」


屈みながら聞いた


できるだけ優しい声色を意識して尋ねた


「なにかしら?」


しかし、返って来たのは冷たい反応


「え、いや……だから大丈夫かなって……具合、悪いんだろ?」


「そうよ。だから話しかけないでちょうだい」


「そ、そんなに辛いのか?保健室行くか?」


「行かないわ。私の事は放っておいて早く訓練に戻りなさい」


「いや、そんなに辛い奴は放っておけないだろ」


「知ったことじゃないわね。いいから失せなさい」


このアマ……!


「そうかいそうかい……じゃあな」


俺は適当に手をブラブラ振って去った


すると


「あ、ちょっといいかしら?」


海東は立ち上がり言った


「あなたと馴れ合うつもりは毛頭ないわ。できれば話しかけずにこれからも過ごして頂戴」


「そんなに冷たいこと言うなよ〜……」


俺が振り返ると同時に


「神谷!訓練中だぞ!早く戻れ!」


と、千冬姉の怒声が響いた


「まずい!怒られちまう!」


全力疾走で海東の前を去った





夏海side-


噂に聞く女たらしぶりね


士が去った後、彼女は体調の悪い振りをやめて足を組んだ


こんなふざけた訓練に私の力を見せる?


冗談じゃない


それにあの男も……


「ふぅ……」


一枚のカードを取り出す


それを見つめながら夏海は寂しげな顔をした


しかし、それは数秒の事


また感情を持たないような表情を作り、カードをしまう


神谷 士……


今までの戦闘データ全てを見た


殺しではない分、戦闘をして捕らえることは避けられない


彼女はそう確信していた


「第三形態移行まであるのは厄介だけど……なんとかなるわよね……」


彼女はまたもほくそ笑んだ








実習も終わり、あっという間にその日の授業も終わった


山田という女教師に部屋割りを伝えるから待っていろと言われ教室の自分の席で座っていた


静かな空間


この雰囲気が彼女は好きだ


しかし、今はそうでもない


なぜなら


「なぜ、貴方がここにいるの?」


「山田先生に残るように言われたんだよ」


神谷 士がいること


そんな彼は一番前の席で片方だけイヤホンをして私の問いに答えた


ん?


山田に……?


嫌な予感


すると扉が開き


「すいませ〜ん。遅れちゃいました〜!」


山田が入ってくる


「お二人ともいますね〜」


「山田先生……で?俺はなんで?」


神谷 士が問う


「はい……実は、海東さんのお部屋が手配できなくて……それで……」


まさか


「海東さんは士くんと同じお部屋ということで」


「マジですか……」


それはこっちの台詞だ


神谷 士がこちらをちらりと見る


「私は嫌です」


きっぱりと断った


「え?」


なんでそんな反応をしているんだ。当然だろう


「高校生の性欲の塊みたいな男とと同じ部屋なんて……先生は私の処女をなんだと思っているんですか?」


淡々と述べた


「……そう言われたらな〜」


神谷 士は苦しげに笑っていた


「そういうわけで先生。どうにかしてください」


私が再度、山田を見ると


彼女の肩は少し震えていた


「先生?」


神谷 士が彼女の顔を覗きこんだ瞬間


「士くんは!そんな人じゃありません!」


そう怒鳴りつけられた


意味が分からなかった


「士くんは、強くて、優しくて、こんなダメな私でも助けてくれました!支えてくれました!そんな酷いこと言わないでください!」


涙が浮かんでいた彼女は必死だ


「先生……いいんですよ。確かに男と二人なんて嫌でしょうし……」


「よくありません!士くんは優しいからそんな風に許せるんです!私は許せません!」


この女……まさか教え子なのに……?


その関係を越えてまで彼女はこの男の事を……


なにが……


何がそうさせるの?


私は困惑した


この女はなぜこうも必死なのか


「おい」


不意に目の前で声がした


神谷 士だ


「お前が俺が嫌な理由も納得はできるし、毛嫌いする気持ちも分かる……でもな、俺の親しい人を泣かせるのは絶対に許さん!」


この男……


本気だ


今でも胸倉を掴みあげる勢い


拳が飛んでくるかもしれない


蹴りがかまされるかもしれない


今までに感じたことがないような殺気に正直、怖気づいていた


「俺に関わってくれる人間は笑顔でいてもらう。これは揺るがない……たとえ、お前が俺を嫌おうとな」


「わ、分かったわよ……」


口がそう動いていた


いや、そう言えと脳が判断したのだ


この男……簡単には倒せない


私は拳を握り締めた


「そいつは良かった」


さっきまで感じていた殺気は消え失せ、それどころか包容力すら感じる彼の笑顔を見て


私は……









それから彼の部屋へ荷物を運び、部屋の使い方を教えてもらった


「あ、そうそう。音楽とかかかってるのは嫌か?」


唐突な質問


「えっ?」


「いや〜、音楽聴くのが好きだからさ……たまにかけるんだけど……」


「好きにしなさい」


私はシャワーを浴びるために浴室に向かう


「あ、俺外で時間潰してこようか?」


「いいわよ。別に」


そんなやり取りをしながら私は浴室へ


水を浴びてシャンプーボトルに手を伸ばしたとき


「………はぁ」


中身がないことに気がついた


どこに替えがあるのかは聞いていない


シャワーの水を止めて、バスタオルで体を適当に拭き、巻きつける


「ちょっと」


声をかけるが反応がない


「聞こえていないの!」


「はいはいはい。ゴメンゴメン……ってなんちゅう格好してんだよ!」


彼は私の姿を見て目を手で隠した


「そういうありきたりな反応はいいから、早くシャンプーの替えを出しなさい」


「シャンプー?……ああ!悪い!そういや、切らしてたな!ちょっい待ち」


そう言って棚をまさぐる


この隙に麻酔でも打てれば……


まぁ、そんなに焦る必要もないか……


あの人も準備があると言っていた


むしろ今捕獲するのはダメだ


「おお!あったあった!ごめんな!」


そう言って足早に出て行く


「ふぅ……」


そっと浴室の扉を閉めた










風呂を上がると


パカーーン!


とクラッカーが鳴り響いた


「………」


クラッカーから飛び出した紙ふぶきを取って前を見ると


「転校おめでとう!」


神谷 士がケーキを持って立っていた


「いやな?やっぱりあんなに嫌われたままじゃ俺的にも寂しいから、こんなものを即行で作ってみました」


満面の笑みを浮かべる彼


「ほら、まぁ座れよ」


肩を押されて座らされる


「さ!食ってくれ!結構自信はあるんだけどな……」


神谷 士は鼻を擦りながら笑った


しかし……





パシンッ!





私はケーキの乗ったその皿を弾いた


ケーキは運よく机の上に落ちたがグチャグチャだ


「言ったはずよ。馴れ合うつもりはないの……放っておいて頂戴」


彼は俯いている


「ふん……」


私は鼻を鳴らすと、ベッドに腰掛けた


彼は無言でケーキを片し始めた





正直、少しは後悔していた


しかし、私はターゲットになんの感情も持ってはいけない


それは宿命だ


聞こえはいいが、呪いと大差変わらない


気づけば神谷 士は私の前に立っていた


やりすぎたかしら?


そんな考えが浮かんだ瞬間


「ご、ごめんな」


彼は不器用に笑いながら頭を少し下げた


「は?」


「いや、そんなに嫌がられるとは思わなかったんだ……」


「わ、分かればいいのよ……」


困惑した声を出している私


分からない


なぜこの男はあんなことをされてまだ頭を下げるのか


口に出している言葉と思考が一致しない


「お休み……」


短く、小さく言った彼は隣のベッドに身を預けた


何も言えずその様子を見るしか出来なかった

-70-
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