小説『IS〜インフィニットストラトス―ディケイドの力を宿す者 ―』
作者:黒猫(にじファン)

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七回の表


二組の攻撃は一番の鈴


「さぁて、放すわよ〜」


伸びをしながら打席に入る鈴


前の打撃はセカンドゴロだったものの、強い当たりだった


下手したら、ヒットのレベル


でも……


「いや、抑えるぜ」


俺のサインはストレートではなく、カーブ


初球からインコースを攻めに行く!


清香は頷き、一球目を投じる


「ボール」


力みすぎたか、ワンバウンドして俺は捕る


考えろ……次は……


正直、鈴を歩かせるなんて思っていない


絶対に討ち取る


そうして決めた球は



「っふ!」


清香が投じる


インコースの球に鈴は手を出す


空振り


ストレートだ


「良い球!」


俺は清香にボールを投げる


「いいリードしてるじゃない……」


「どうだろうな……」


小言でしたやり取り


その三球目は


カーブ


これは見送ってストライク


続く四球目は遊び球


ストレートを高めに浮かした


「さてと……」


やっぱり二球だけじゃな、不安だな


カーブか……ストレートか


どっちだ……?


考える


鈴の今までの打席


その配球


そこから分かる苦手なコース


得意なコース


バットを積極的に出す球


恐らく、この一球で決まる


そして俺は





ストレートのサインを出した


清香が頷くと同時に俺は自分の胸を叩き、腕を軽く振る


「(思いっきり、来い……!!)」


構えたのはアウトコース


ゆっくりと……投げた!


球は注文どおり


いけるか……!


俺は左手に力を込める


が、


「このまま、終われないのよ!」



鈴はバットを振るう


その当たりは


ライトへと飛んだ


歓声があがる


俺はマスクを取る


「本音ちゃん!」


皆も叫んだ


「本音!」

「布仏!」

「布仏さん!」



「はわわわわわわわ!!」


本音ちゃんはひたすらに前進


打球にもう少しで追いつけるというところで……















転んだ



「わひゃ!」


悲鳴が上がる


「くそ!櫛灘!走ってカバーだ!いそ………げ」


その瞬間、奇跡が起こる


本音ちゃんが転んで一回転


うつ伏せになった彼女は手を伸ばしていた


伸ばした手に嵌めているグラブ


そのグラブは






ボールを乗せていた



「いたたたた、あれ?……あー!ぼーる捕ってるよ〜!ははは〜」


割れんばかりの歓声が再び起こる







『わあああああああああああああああ!!!!』


「「「「「「「「しゃぁあああああああああ!!!」」」」」」」」


他の野手……もちろん俺も吼えた


いける……流れは、俺達にある!


これで、調子がまたあがったのか、ティナを三振


三番をファーストゴロで抑えた


ベンチに戻る一組ナイン


「いけるぞ!」


「ああ!まだチャンスはある!」


「櫛灘さん!任せましたわ!」


「OK!」


「布仏さん!ナイスプレー」


「お〜う。照れますな〜」


「あれはナイスプレー?」


「まだ、投げられる……!」





ベンチは壮絶な盛り上がりを迎えていた


「しゃあ!この回……決めるぜ!」


「「「「「「「「おおおーーーーー!!!」」」」」」」」





『七回の裏、一組の攻撃は……三番、センター、櫛灘さん』


櫛灘は大きくバットを構える


「もう、一発!ライト狙い打ち!」


一球目


ストレート、ボール


二球目はナックル


これは完璧に捨てているのか櫛灘は振らない……ストライク


三球目を櫛灘は迎えた


「ふぅ……落ち着いて」


櫛灘は大きく息を吐き、呼吸を整える


投じられたのはナックル……!


櫛灘は振り素振りだけ見せて、バットを止める


ストライク


追い込まれた


バットの先端をピッチャーに向けて、構える



そして……投げられたのはストレート


球速の差をついたいい配球だが……



「小笠原、道大!」


あの、ジャイアンツのサムライ


彼の名前を叫びながら、彼と同じような打法で彼女は打球を引っ張った


打球は三遊間抜けてレフトへ


「しゃあ!」


一塁で、櫛灘はガッツポーズ


「俺も……行きますか!」


そうしてメットを被ったと同時に


「つ、士……」


と、呼ばれた


「ん?」


振り向くと夏海が……


でも、その格好は


「えっと……どした?その格好?」


ごっつ短いスカートにへそ出し姿。それは……


「チ、チアガール……よ」


いや、見りゃ分かるけど……


窮屈そうな胸元は……とにかく、でかい


「え、え〜と……」


「わ、私が!……私が、こんな格好して、あ、貴方を応援してあげるんだから……か、感謝なさい」


顔を真っ赤にてモジモジしながら俯く夏海


え?誰コレ?可愛い


「にやけてないで、早く行け!」


ラウラと箒に蹴られた


「ふんっ!」


セシリアとシャルに叩かれ


「ばか……」


本音ちゃんと鷹月にもつねられた


ん?


鷹月?


彼女もお怒りの様子


「なんでやねん……」


小さく、言ってベンチを出る






俺は、左のバッターボックスで構える


一球目……ナックル


またも、櫛灘の走力を無視した配球だ


舐められてるねぇ


「そう何度も、同じ球で討ち取られるかよ!」


二球目はスライダー


これはキレが良すぎて、手も出なかった


三球目


甘いナックル


風の抵抗もあってか、緩い球だ


ここしか……ない!


「うおおおおおお!」


ベルト辺りで俺は思いっきり、打球を放つ


振ったボールは重い


それでも俺は振りぬく


秋の風が優しくそよぐ


その程よい、快晴の空に白球が舞う


時間が止まったように静かになる


その大きな打球は、滞空時間が長かった


櫛灘も走るのを忘れて、打球の行方を追っている


そして……


























『わああああああああああああああああ!!!』



ホームラン


試合を振り出しに戻す女房役の一振り


俺は、片手を突き出して、ベースを回る


ベンチは暖かく俺を向かえた


「しゃあ!!」


七回の同点劇


そこで二組はピッチャーを交代


まだ鳴り止まない歓声は箒にも向けられた


が……


そのピッチャーはその歓声をかき消す


そんな剛速球を放った


140は軽く出てる


箒は三振


セシリアですら、詰まらされてキャッチャーフライ


鷹月は粘ってフォアボール


本音ちゃんは続いてサードゴロに討ち取られたように見えたが、守備がもたついている間になんとか一塁に


サードにエラーが記録された


清香は三振


ピンチになっても真っ直ぐ一本で投げきった豪腕


同点から未だ、ノーアウト


そんなチャンスは一気に崩れたのだ


それでも一組は、勢い劣らずベンチを飛び出す


俺も浮かれずに守備についた


八回の表


打順は四番から……


「でかいんだよ……」


俺は小さくぼやいて、カーブのサイン


空振り


次は真っ直ぐで外してボール


三球目はストレート。これも外すつもりだったのだが……





ガッ!


鈍い当たり


それでも風が左中間へボールを運ぶ


二塁打


五番はセカンドゴロに討ち取ってワンナウト、二塁


ここで四番に代走が告げられた


足の速そうな彼女は小走りでセカンドベースへ向かう


ここで六番は……



あの豪腕ピッチャーだった


余裕を見せる無表情


それがなんとなく怖い


俺のサインはインコース


カーブで様子見だ


「っし!」


清香は放る……


ゆっくりと、インコースからさらに中へ入ってくる嫌な球を


それでも、そいつは


身体を捻って、その球を打つ


それはレフト、セシリアへと飛んだ


セシリアは素早くワンバンでボールを捕球


三塁回った代走を見てバックホーム……しようとして



「貸せっ!」


ラウラがセカンドから全力疾走


守備の苦手なセシリアからボールを奪い取り、今度こそバックホーム


良い球が返ってくる


ランナーも滑り込んだ


俺はボールを掴み、素早くタッチ……


判定は







































「アウトッ!!」



千冬姉が腕を振るう


「しゃああああああああああああ!!」


七番をセンターフライ討ち取りベンチに戻る





「ナイス、ラウラ!」


頭を撫でてやった


「ふん。当然だ……だが、もっと褒めろ嫁よ」


「はいはい」


「むぅ……わたくしの見せ場が……」


セシリアはやさぐれていたが……



八回の裏


打順は一番帰ってラウラ


またもその左眼は隠されていなかった


右のバッターボックスで彼女はバットを構えた


またも振り投げられる剛速球……しかし


ヴォーダン・オージェの不適合により変色してしまった憎らしくもある左眼


それでも、彼……士は(幼少だが)は言ってくれた


キレイだと……


彼女はありったけの想いを胸にバットを振った


「うおおおおおお!!」


ピッチャー返し


捕れるわけもなく、鈴ですら飛び込んだが間に合わなかった


ノーアウト一塁


二番のシャルはバント


二塁へ進めた


櫛灘はフォアボールで塁に出し、ワンナウト一塁、二塁


ここで打順は


『四番、キャッチャー、神谷君……背番号2』


『きゃあああああああああ!!』


歓声が沸き起こる


俺はバット振って打席に


目を細めるピッチャー


初球から考えられないほど伸びのある球が


「くっ!」


慌てて振るが遅い


ど真ん中なのに……否、ど真ん中だからこそ下手なコントロールも要らなくて……


そうして、来た二球目はワイルドピッチになってキャッチャーが後ろに反らす


ラウラと櫛灘が進塁して二塁、三塁


ここまで来たら、打たないとな……


息を吐いてピッチャーを睨む


その三球目はファール


いいぞ。当てれている






「うおぅら!」


振る


「せいっ!」


振る


「はあぁ!」


振る


もう何球目だろうか


すでにフルカウント


ファールで何度も甘い球を待つ俺


不意に三塁を見る


ラウラは俺をそのキレイな瞳で見つめていた


そして、手を叩く


「っ……分かったよ」


俺は力を抜いて、構えた


しゃあないから、乗ってやるよ


投じられた何球目か


それは低いストライク







カンッ


俺は、転がす


ラウラは本塁に向かって走っていた


三塁へ強めに弾かれた打球


ラウラは走る




そして、三塁手はファースト送球


俺はアウトになったが……ラウラが生還した




『わああああああああああああああ!!』


グランドが揺れる


「しゃあ!ナイスラン!ラウラ」


「ああ、うまくいってよかった……だが、よく分かったな……」


「ま、夫婦なら当然……だろ」


「う、うぅ……///」


しぼんじゃった!?



箒はセカンドゴロで追加点はなかったが、6−5


遂に逆転した





最終回


山田先生のアナウンスが鳴り響く










『一組……守備の交代をお知らせいたします。キャッチャー神谷君に代わりまして、篠ノ之さん……ファースト布仏さん。ライト相川さん





ピッチャー、神谷君』






マウンドには俺が上がった


千冬姉からボールを受け取る


投球練習を終えて


八番がバッターボックスに




俺は腕を胸の前に置いたまま、左脚を下げる


ロッテ唐川のように少しだけ跳ねて、足を上げて……西武涌井のように足と腕をそろえて突き出す


そのまま、オーバースロー


箒のミットが大きな音を立てた


ストライク。ど真ん中直球


スピードガンは……152を表示していた


「まだまだ!」


俺は投げる、投げる、投げる


三振


続いてバッターボックスに入った九番にもひたすらストレートで押した


「うおおおおおおおおお!!」


俺は構わない。アウトコース、インコース、ど真ん中


投げ分けているようで俺はただ、純粋に放っているだけ


ひたすらに……


三振


マウンドの周りをゆっくり歩く


サードの鷹月は頷きながら俺にボールを渡した


「ふぅ……よしっ!」


ラストバッター、鈴


「私はアンタを打ち崩すわ!なんとしてもね!」


「ああ、やろうか……」


俺はゆっくりとモーションと取る



スナップをきかせた球はミットを打ち鳴らした


ストライク


「いっけー!」


今度も真っ直ぐ



鈴は空振り


「最後だ……」




そうして、投げられた球



鈴のバットは空を切った




試合終了のサイレンがけたましく鳴り響く


















後書き


黒猫です


野球回はこれで終わりです!お疲れ様でした!


一応、難敵二組を倒してそのまま優勝ってことで……この話は終わりです(後日談)


いや〜、書いててやっぱり楽しいですが、難しいですね


初めて、スポーツ物を書いたので……至らないところもあったとも思いますが……


さて、次話からは新章です


章と言っても大した話はないですが……頑張ります


これからもどうぞヨロシクお願いいたします

-80-
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