小説『IS〜インフィニットストラトス―ディケイドの力を宿す者 ―』
作者:黒猫(にじファン)

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「士さん!」


ある日の放課後


教室で掃除を終えて帰ろうとする俺に、声をかけたのはセシリアだ


「どした?」


その声はどこか上擦っていて、緊張した面持ち


俺は肩にかけた鞄を机に置いて、微笑みかける


セシリアはふぅと息を一つ吐いて、ついに話した


「そ、その……わたくし、明日バイオリンのコンサートがありまして……関係者専用席のチケットをいただいたので……」


ああ、そういやセシリアはバイオリン上手だったな


「よろしければ……」


「いいのか?」


セシリアが言い終わる前に聞いた


「ええ!是非!」


セシリアは俺の手を握って体を寄せてくる


ちょっ!ちょい!


「セ、セシリア?……近、近くない?」


震えそうな声で、言葉を続ける俺


すげーいい匂いがする


甘いってか、甘い


「す、すいません!///」


セシリアも慌てて体を離す


「え、えっと……まぁ、セシリアがいいならお邪魔しようかな」


頬をポリポリ掻きながら俺は笑った


ぱあぁ!と花が咲いたみたいな表情になるセシリア


「こ、これ!チケットですわ!」


どこからともなく差し出したチケットを受け取る


「第58回全国高校女子バイオリンコンサート……58ってすげーな」


ん?全国?


「全国!?これ全国大会なの!?」


「え、ええ……まぁ、そうですわね」


セシリアが戸惑ったように頷いた


「全国大会って凄いじゃん!」


すらって流してたけど!


「イギリスにいたときも、こんなに凄かったのか?」


「まぁ、コンクールでは何度か賞をいただいておりますけど……」


おお、すげー


「俺、絶対見に行くから!」


「は、はい!」


そう約束して、教室を出た












その夜


「バイオリン?貴方、バイオリンなんて分かるの?」


夏海に話してやると鼻で笑われた


腹立つな〜


「舐めんなよ!俺だって音楽聴くの好きなんだから、ちょっとくらい分かるわい!」


ムキになって言い返す


夏海はその言葉すらさらっと流して、またも鼻で笑う


「へぇ〜、それはいいことを知ったわ」


「ぐうううううぅ」


なんか、悔しい


「そういう、夏海こそ分かるのかよ……バイオリン」


「バイオリンは詳しくないけれど、クラシックはよく聴くわ……チェロをやったこともあるし……」


「負けた……」


俺は膝を折ってうなだれる


悔しいぃ……


「おっ!」


そんな俺に突然訪れた吉報


ついていたテレビから歓声が沸き起こった


「しゃあああああああああああ!!巨人優勝キターーーーーーーーーー!!!!!!!!!」(2012 9 21)


阿部ナイス送球!


「うるさいわね……別に貴方が優勝したわけじゃないでしょう」


夏海が顔をしかめる


「うるせいやい!藤村のバックトスも格好よかったし……原監督いいこと言うな〜」


「はぁ……早く寝なさいよ、コンサートあるんでしょう?」


「は〜い」


おかんか









当日


コンサートは午後6時から


控え室に午後4時にはいないといけないらしい


そんな彼女と俺はスタ〇でコーヒーを啜っていた


めっちゃ余裕ですやん


「練習みたいなのしなくていいのか?」


コーヒーのカップを置きながら尋ねる


「はい……今更、練習しても仕方ないですし、わたくしの全力を出し切るまでです」


おおっ……格好いい


「セシリアは格好いいな〜」


俺は、関心の言葉を素直に述べた


「そ、そうですか?」


驚いたように、俺を見つめるセシリア


「うん……ISのことも頑張ってさ、専用機持ちだからイギリスに報告とかもあるだろ?それに加えて、バイオリンだのなんだのって……俺じゃ敵わねぇな〜」


頭の後ろを掻きながら笑う


「そんなこと、ありませんわ……」


セシリアがふっと頭を下げた


「セシリア?」


「ISだって、専用機持ちの中では最下位ですし……」


ま、まぁ……確かにそうなんだけど


「それに比べて士さんは、ISでは学園で敵う方はいませんし、なんだってこなしてしまいます」


セシリアが皮肉気味の笑みを浮かべて俺を見る


しかし、その顔は笑いきれていなかった


「…………」


「両親が死んで、財産を守るために勉強して、ISを動かして、代表候補生になって……」


セシリアはポツポツと語る


「IS学園に入って、皆さんと出会って、自分自身、どこか成長したと思えるところも見つかって……でも、欠点もたくさん見つかって……」


涙声で続けたセシリア


こんなつもりじゃなかったのだろう


それでも彼女は止まらなかった


「わたくしは……一体……」


「そんなに冷めたこと考えるなよ」


「えっ」


はっと俺を見上げたセシリア



俺も彼女の目をしっかりと見た


「人間ってのはさ、燃えないといけないんだ」


「燃える……?」


「そ。燃えるために薪がいるだろ?薪ってのは悩みだ……悩みが火を大きくするため、成長するために必要なんだよ」


「悩み……」


「うん……ISでは実力で劣ってる、欠点はたくさん見つかる……そんな悩みはさ、燃やしてしまえばいんだよ……で、自分の火を大きくする。それでいいんじゃない?」


俺は手を伸ばして頭を撫でてやる


「その薪は……」


セシリアは呟く


「ん?」


「その薪は何で燃やせば……?」


「情熱」


俺は、間髪入れず答えた


答えは決まっているから


「自分の情熱で大きくしていけばいいんだよ」


優しく声をかける


「じょう……ねつ」


セシリアは何かに気づいたような顔に


いい顔だ


「何としても、2階に上がりたい。どうしても2階に上がろう……そういう熱意がある人間がはしごを立てる。階段を作るんだ


どっちでもいいなんて考えてる奴は、はしごも階段も思いつかない……どうすれば2階に上がれるか、もう……答えは出てるんじゃない?」


俺はそう問いかけた


セシリアは少し、止まって……そして俺を見た


真っ直ぐ


「ええ、どうすれば成長するか……目の前の事に全力で当たる、そんな答えはもう出ていましたわ。それなのに、はしごも階段も作るのが面倒だと放り出して……逃げてばかりで……


わたくしには、一緒にはしごや階段を作ってくれる仲間がいます。もう、一人じゃないから」


真剣な表情


店内の喧騒がなくなった気がした


「そこまで分かれば、言う事はないな……人の成長ってのは、未熟な過去に打ち勝つことだからさ」


「ええ……全く、貴方は何度わたくしを前に進めてくれるんですか?」


俺は立ち上がり、手首を回して答えた


「何度だって……前から引っ張ってやる。横から支えてやる。何度だって背中、押してやるさ」














そして、午後5時前


セシリアと会場で別れた俺は、一人客席でそのときを待っていた


楽しみだな〜


「ふぅ……」


息を吐いて、イヤホンを外した


会場は、大きなホールで座席のシートもいいものを使っているのが分かる


客席はほぼ満席で若い男女でいっぱいだ


今日、演奏する人数はセシリア含む12人


全国大会にしては少なくないか?


まぁ、よく分からんけど


不意に、大きなブザーが鳴った


『お待たせしました。それではこれより、第58回全国高校女子バイオリンコンサートを開催いたします……会場内では……』


若い女性のアナウンスが入った


始まるか……


俺はシートに深く座り、目を細める


一人目は背が高く、長い黒髪が特徴の女の子だった


『〜♪〜♪〜♪』


一礼してから始まったその演奏


緊張だろうか、音が震える場面もあったが素人でも分かるいい演奏だった


一礼で終わった演奏


拍手が惜しみなく贈られる






そうして1人また1人と演奏を終え、遂に最後の1人、セシリアだ


「来たか……」


自然と浮かぶ笑み


俺は頭を軽く振って、耳を傾ける


セシリアが舞台の袖から出てきた


拍手が起こる


セシリアは深く頭を下げてから、その左肩にバイオリンを乗せて、顎当てに顎を乗せてた


弓を引き、音が会場を小さく揺らす


優しく、柔らかい音色


その途中で挟まれる、どこか力強く、迫力があるもの


目を閉じていると眠ってしまいそうなそんな演奏


ゆっくりとその演奏を終えた彼女は優雅にその金髪を揺らして、頭を下げた


一番の拍手が送られる


立っているものまでいた


袖に消えた彼女を見届けて、そっと席を立った












「おっつかれちゃん」


控え室から続く通路から出てきたセシリアに俺は、労いの言葉をかける


ちなみに優勝はセシリア


他とは圧倒的な差をつけての優勝となった


「あと、おめでと」


俺は彼女の頭を撫でてやる


「////……きょ、今日は来てくださってありがとうございました」


セシリアも頬を染めながら礼を述べた


「いやいや、あんな演奏を聴かせてもらったんだ、お礼を言うのは俺だよ」


「そ、そんなことありませんわ……士さんには、本当に……」


俯くセシリア


本当にの後が気になるところだけど、それを聞くのはやぶってもんだ


「どこか、ご飯でも行こうか……今日は奢るしさ」


彼女の手を引く


「ちょっ、士さん!」


慌てて、足を動かすセシリア


そんな彼女の頬は微かに緩んでいた

-90-
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IS <インフィニット・ストラトス> ポス×ポスコレクションVol.2 BOX
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