小説『オオカミ少年の最後の嘘』
作者:レン(Yellow☆Fall)

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

少年は咄嗟に横に転がりオオカミの攻撃を避けたが、鋭い鉤爪が脇腹をかすめ、服が破けてパッと血が飛んだ。


オオカミがまた飛びかかってきて、少年は今度は避ける事が出来なかった。

「いた…」


脚首に食いつかれて振りほどけず、少年は痛みに絶叫した。


「はやく逃げろ、**!」


少年は薄れ行く意識の中、必死に妹に呼び掛けた。

しかし少女はぐったりとしたまま身じろぎもしない。


もうおしまいだ


ぼくは妹を死なせてしまうのか。


少年はオオカミの荒い息が顔にかかるのを感じた。

首を噛みきるつもりなんだ、


でもこの方がいいや、一瞬で終わるなら、それで。


そのとき、パアンと拳銃の音が鳴り響いた。


放たれた弾丸は、オオカミの左足を撃ち抜いて血が花火のように散った。

少年は意識を必死に繋ぎ止めようと、血が出るくらい唇を噛み締めた。



オオカミを撃ったのは金髪の少女で、それがリンだった。


幼なじみでいつも妹と少年とリンで遊んだ。
いつも3人で、

「キャン」

深手を負ったオオカミが吠えて点々と血を足らしながらフラフラと路地の向こうに消えた。


両手に銃を構えたリンは少年の隣に倒れている少女を抱えた。


「息してない」

少女が小声で呟いた言葉が少年の胸を貫いた。


少年はヨロヨロと立ち上がった。

自分の何処にこれだけの力が残っていたか判らない。

母親に嫌われる。
母親に嫌われる。
母親に嫌われる。
母親に嫌われる。
霞がかった脳裏に浮かぶのはその事ばかりで、少年は理性を失っていた。


いつも自分より妹を可愛がっていた母親。

いつも妹より怒られていた自分。

きっと母親は何故妹が死んで自分が生きているのかと嘆くだろう。


少年はそれが悲しくて、耐えられなくて。











妹を置いて、逃げ出したのだ。











このテーベの村に。

-9-
Copyright ©レン All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える