少年は息せき切って家まで戻った。
羊達が揃って少年を見つめた。
「あ、まだご飯やってなかったね」
少年は羊達を追い立てて草の沢山生えている斜面に向かった。
太陽が高く上り、草原の草が金色に反射して見えて少年は眩しそうに目を細めた。
きっと町では少年の噂で持ちきりだろう。
またアイツが嘘ついたんだよって。
それはきっとあの子の耳にも入るだろう、もしかしたら、さっきの声だって聞こえていたかもしれない。
少年はその場にドサッと倒れこんだ。
気分がどうしようもなく重くて、立っていられなくて。
そのまま仰向けに寝転がって、少年は空を仰いだ。
「俺、何がしたいんだろう」
自分でもワカラナイ。
嘘をつく度、どんどん自分の居場所が減っていく。
黒くなっていく。
もう逢いたくないな。
少年はポケットからハンカチを取り出した。
「あっ」
風にさらわれて、ハンカチがヒラリと舞い上がった。
それにつられて起き上がると、目の前に、
「なんでお前が居るんだよ」
少年は目の前の相手を睨みつけた。
「用があるからに決まってんだろ…」
ハルトが仏頂面で呟いた。
「で?」
少年は草むらにあぐらをかいて座った。
ハルトは少年の問いには応えず、周りを物珍しげに眺めた。
「羊とさ、草しかねえじゃん」
ハルトが口の端に薄ら笑いを浮かべながら言った。
「だからなんだよ。用がないなら帰れ」
少年はそっぽを向いたまま言った。
「いや、ちょっとお前に相談があって」
ハルトがもごもごと呟いた。
「なんだよ相談って」
「あのさあ、『ルピナス』って知ってるか?」
「は?花だろ、ソレ」
「ソレを取りに行きたいんだ」
ハルトがポケットをごそごそとまさぐりながら言った。
「…で?」
たっぷり20秒間の沈黙の後、少年が聞いた。
「どこに生えてるか知ってるか?お前、よく山とか草原とか川とか行くだろ」
「知ってたってお前に教えねえよ」
少年は話は終わりとばかりに立ち上がった。
「おいおい、ちょっと待てよ!」
ハルトが立ち上がりざま、少年の眼前になにか袋のようなものを突きつけた。
「何、コレ」
少年はハルトから一歩半退きながら尋ねた。
「え、お前知らねえの?」ハルトが袋の口をほどきながら笑った。
「コレ、キャンディっていうんだ。今町ではやってる食べ物なんだぜー。甘くて、すっごくうまいんだ。
もし花の場所一緒に探してくれるんなら、コレやるよ」
そう言いながら、ハルトが鮮やかな赤い色をした丸い物体を手のひらに取り出した。
ソレは太陽の光を受けてキラキラとまるで宝石のように光り輝いた。
少年には、とてもソレが食べ物だとは思えなかった。
硬そうだし、なんか、まずそう。
少年は思った。
ハルトが少年の目の前で袋をちらつかせた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
少年は腕組みをした。
キャンディがなんなのか興味もあったし、それを
あいつにあげたら、喜びそうだな。
少年はハルトの手から袋を奪い取った。
「いくぞ」
少年は羊を草原にほったらかしにして歩き始めた。