小説『オオカミ少年の最後の嘘』
作者:レン(Yellow☆Fall)

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少年は自分の足の痛みに耐えながら、ハルトを抱えて村を目指した。


二人は行きの倍位の時間をかけて、なんとか村にたどり着いたが、ハルトは少年にほぼ全体重をかけていて、痛みに顔をしかめていた。


少年はハルトに家の場所を聞き、ハルトの家に向かった。


その頃には少年も疲労困憊していて、息を切らしながら家の門をくぐった。


ハルトの家は流石村長の家、という感じで巨大な門からゆるやかなカーブを描くように道が伸び

周囲には綺麗な花を咲かせている花壇や木々が繁り、綺麗な庭園のようだった。

もっぱら少年はハルトをひきずるのに必死で周囲に目を配る余裕などはなかったのだが。


道なりに2分程度歩くと、前方に薄いクリーム色をした邸宅が見えた。


少年はなんとかハルトを石段の上まで引きずり上げ、立派な扉を叩いた。



「どなた?」

中から柔らかい声が尋ねた。


少年はいいよどんだ。


自分には名前がない。

一瞬の躊躇いの後、

「ハルトを連れてきました」
仕方なく少年はそれだけ言った。


何秒間かの沈黙が降りた。


ガチャガチャと鍵を外す音がして、扉が開いた。



「ハルト!」

中から茶色い髪を後ろに一本に束ねた女性が出てきて、少年を押し退けてハルトに駆け寄った。



「ハルト、どうしたの?何この服、ぼろぼろじゃない、買ったばかりなのに!!」


どうやら女性はハルトの母親らしく、ハルトの身体よりも洋服の方を心配しているような素振りだった。


やがて母親はハルトの身体をかきいだきながら、キッと少年を睨み付けた。


「あなたがやったのね!ハルトをつれ回して、どうせそのボロボロの服が嫌で

ハルトの服を盗ろうとしたのでしょう
最低ね。」

母親が矢継ぎ早に捲し立てた。

母親に抱かれたハルトが口をモゴモゴさせた。


もう何でもいいや、


少年は思った。


どうせ自分が今どう弁解したってこの人が自分を信じるわけがないのだ。


「ねえハルト、あなたこの服をオオカミ少年にやられたんでしょう」

母親がハルトに尋ねた。



一瞬二人の目が合った。

ハルトがサッと少年から目を離し

「うん」と呟いた。




「やっぱりそうなのね!もういいわ、早くこの家から出ていきなさい!!

 貴方は村から追放してもらうように提案しておきますからね」



母親はそう言って、少年を突き飛ばした。





少年は黙って家を出た。



ハルトはずっと少年と目を合わせようとしなかった。








なんでこんなにも思い通りにいかないんだろう。


少年は下を向きながら、来た道をとぼとぼと歩いた。



きっと、世界のすべてが嘘だからだ。


自分は今ここにいないんだ。



少年は叫んだ。

「オオカミが来たぞ!」

ボロボロの格好で叫んでいる少年を見て、村のひと達は今度こそ本物のオオカミが来たと思ったらしい。


誰もが周囲の人間を押し退け、逃げようとしている。


少年はそんな愚かな姿を嘲けるように笑った。





周りが混乱に堕ちていく中で、少年は空を仰いで呟いた。



「みんな食べられてしまえばいいのに」



空を見つめるその瞳から、たった一粒の涙が頬を伝って流れ落ちた。






足の痛みが余計酷くなった気がした。

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