少年は家に戻ると、羊を集めて小屋に押しこみ、自分は部屋に閉じこもって鍵をかけた。
そして扉にもたれかかり、ずるずると下に崩れ落ちた。
しばらくそのまま目を閉じ、少年の顔はひどく真っ青で疲れているように見えた。
“もしかしたら、この村をツイホウされるかもしれない”
少年は膝に顔を埋めた。
ひとりぼっちの部屋で、膝を抱えて、少年はなんだかひどく寒かった。
「水…」
少年はふらふらと立ち上がり、そのままよろめいた。
「…!?」
足がもたつき、たたらを踏んだがそのままふらりと床に倒れ、少年は意識を失った。
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『お前は嘘付きだ』
顔のない村の少年が嗤う
『オオカミ少年』
露店のおじさんが嗤う。
『嘘付き』
ハルトがイオリの肩を抱きながら笑った。
手に持っているのはルピナスの花。
イオリがこちらを向いた。瞳には激しい嫌悪感が込められている。
身がすくむ思いがして顔をそむけようとしたのに、凍りついたように動けなかった。
そしてそのバラのように真っ赤に色づいた唇が開き、言葉を紡いだ。
『嘘付き』
胸を何かで貫かれた様な、激しい痛みが少年を襲った。
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「起きて……」
誰かの声がする。
「起きて!ちょっと!」
少年はガバッと身を起こした。
目を覚ますと、そこは見慣れた自分の部屋だった。
しかし目の前にいたのは。
「な、なんであんたが………」
少年は驚いて飛び起きたがバランスを崩し、そのまま床にベトッと突っ伏した。
足がズキズキと痛むし、なんだか全身がだるいしノドも頭も痛い。
「……」
床に伸びている少年を覗きこんだのは、少年と同じくらいの年齢の少女だった。
金髪を肩くらいまで伸ばし、華奢な両手を後ろで組み、上からニコニコと少年の顔をのぞき込んでいる顔にはまだあどけなさが残る。
上下とも動きやすそうなタンクトップに膝丈までのパンツをあわせ、首には鍵型のペンダントを下げている。
「そこに倒れてたよ」
少女はニヤニヤしながら言った。
「リン、お前どうやってここに…」
「え?ドアをいくら叩いても返事ないからさー、勝手に入ってきちゃった☆」
この少女の名前はリンと言うらしい。
少年は床にぶっ倒れたままため息をついた。
リンと呼ばれた少女は床にぶっ倒れている少年を助け起こし、手当てをしてくれた。
少年は何も言わずされるがままになっていた。
たまにうめき声を漏らしてはいたが。
「で?」
リンは一通り手当てがすんだあと、少年をベッドに無理やり寝かせ、椅子に腰かけた。
「なにが?」
少年が赤い頬を手の甲で冷ましながら言い返した。
頭は痛いし、なんか寒気がする。
多分風邪をひいたんだろう。
「なんでこんなことになってるのよ!あんなに無茶したらダメって言ってるのに!!」
リンが両手を腰に当てて叫んだ。
少年は慌てて掛け布団を頭まですっぽり被った。
外界の音が遮断されて、遠くからリンが怒ってまくしたてる声がした。
それが子守唄のように心地よく身体の内側を充たして、少年はフッと意識を手放した。